映画「遙かなる山の呼び声」感想|日本映画史に残るラストシーン

映画「遙かなる山の呼び声」

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どうも、夏蜜柑です。

1980年の映画「遙かなる山の呼び声」の感想です。

わたしはこの映画が大好きで、10代の頃から何回も見ています。
11月24日にNHK・BSプレミアムで現代版リメイクドラマが放送されるので、今回また見返してみました。

夏蜜柑

何度見ても飽きない。

ふぐ丸

傑作。

ストーリーは王道です。
意外性も新鮮味もないです。

北海道の美しくも厳しい自然の中で暮らす親子と、流れ者の男の交流を通して、人の優しさや絆、純粋な愛を、ストレートに描いた作品です。

でも、この朴訥さが胸を打つのです。

高倉健さんの魅力と山田洋次監督の持ち味が最大限に生かされた、おふたりの代表作と言っていい不朽の名作。

知名度的には「幸せの黄色いハンカチ」のほうが有名なのですが、わたしは本作のほうがストーリーもキャスティングも出来映えも上回ると思っています。

ラストシーンは必見です。

以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

作品情報

  • 製作国:日本
  • 上映時間:124分
  • 公開日:1980年3月15日
  • 監督:山田洋次
  • 脚本:山田洋次
  • 撮影:高羽哲夫
  • 音楽:佐藤勝
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あらすじ

  • 春。北海道・中標津で酪農を営む風見民子(倍賞千恵子)は、嵐の夜に訪ねてきた男(高倉健)をしぶしぶ物置小屋に泊まらせる。翌朝、男は礼を言って立ち去るが、民子の一人息子・武志(吉岡秀隆)から父親が亡くなったことを聞く。
  • 夏。再び民子のもとに男が現れ、働かせてほしいと言う。亡き夫が残した農場を女手ひとつで経営する民子は、人手欲しさにその男――田島耕作を雇うことにするが、素性のわからない田島に警戒心を抱く。
  • ある日、民子に言い寄る虻田太郎(ハナ肇)が無理やり民子を襲おうとし、田島が水をかけて追い返す。虻田は兄弟2人を連れて田島に仕返しにやってくるが、田島は兄弟を簡単に負かしてしまう。以来、虻田3兄弟は田島を兄貴と慕うようになる。
  • 民子は農場での作業中にギックリ腰になり、2週間入院することになる。民子がいない間も田島はよく働き、武志はすっかり田島に懐いてしまう。田島は、函館から訪ねてきた兄・駿一郎(鈴木瑞穂)に「できれば何年でもいたい」と打ち明け、民子にもそう伝える。
  • 秋。田島は草競馬に参加し、見事優勝する。だが自分を追う刑事たちの存在を知った田島は、農場を去る決意をする。いつしか田島を家族のように思い、好意を寄せていた民子は、突然田島から別れを告げられ困惑する。引き留めようとする民子に、田島は隠してきた自分の過去を告白する。
  • 2年前、田島の妻は借金を苦に自殺。葬儀で席で妻を罵った金融屋を殴り殺し、警察から逃げていると言う。その晩、稼ぎ頭の牛の様子がおかしくなり、2人は獣医(畑正憲)と共に徹夜で看病する。民子は田島にすがり、「行かないで。私さびしい」と訴える。
  • 翌朝、牛の容態が落ち着き、田島は農場を出て行く。やってきたパトカーに乗り込む田島に、武志は「どこ行くの?」と泣きながら叫び、パトカーを追いかける。
  • 冬。田島に2年以上4年以下の刑が確定する。田島は列車で網走へ護送される途中、虻田に会う。田島が座る席へやってきたのは、民子と虻田だった。護送員がいる手前、田島に話しかけることができない民子。
  • 虻田は民子に話しかけるフリをして、彼女が酪農を辞めて武志と中標津の町で暮らしていること、今も田島の帰りを待っていることを、田島に聞かせる。思わず涙を流す田島に、民子は黄色いハンカチを手渡す。田島はハンカチで涙を拭い、窓に顔を向ける。

登場人物

田島耕作……高倉健
民子の農場にふらりとやってきた男。多くは語らず、常に無愛想だが、実直で働き者。最初は警戒していた民子も、次第に信頼を置くようになる。
生まれは九州で、父親と兄と3人で北海道に渡り、函館で暮らしていたらしい。幼い頃、父親が借金を苦に自殺を図り、兄と2人で父の死体を運んだという。その時、兄の「みっともないから泣くな」という言葉に従い、絶対に泣かなかったと武志に語っている。

風見民子……倍賞千恵子
北海道・中標津で酪農を営む女性。福岡出身で、家族や親戚の反対を押し切り、駆け落ち同然で北海道に嫁いできた。一人息子の武志を育てながら、2年前に亡くなった夫が開拓した農場をひとりで続けている。
美人で華奢な女性だが、周囲から辞めるように諭されても頑として従わず、内心では辛くて辞めたいと思っていても決して口に出さない強情な面もある。
突然やってきた素性の知れない田島を警戒していたが、徐々に心を許すようになる。

風見武志……吉岡秀隆
民子の息子。子供ながらに民子を守ろうとするが、民子が入院すると寂しさのあまり泣き出してしまう弱虫な面も。田島の強さに憧れ、民子がギックリ腰で入院している間にすっかり田島に懐く。

虻田太郎……ハナ肇
北海料理「オホーツク」の社長。民子の夫の葬儀で民子を見初め、以来しつこく結婚を迫る。突っぱねる民子を襲おうとして田島に追い返され、兄弟で仕返しをもくろむが完敗。以来、田島を「兄貴」と呼び慕うようになる。

勝男……武田鉄矢
民子の従弟。新婚旅行で博多から北海道へやってくる。小さい時から民子に頭が上がらない。民子が周囲から反対されて駆け落ち同然に結婚を決めた時、北海道へ旅立つ民子をひとりで見送った。今も民子のことを不憫に思っている。

佳代子……木ノ葉のこ
勝男の妻。田島を見て「足が長くてカッコいい」と言ってしまい、勝男の機嫌を損ねてしまう。民子から勝男の小さい頃の話を聞いて喜ぶ。

近藤……渥美清
人工授精師。牛の人工授精のため民子の農場を訪れる。

田島駿一郎……鈴木瑞穂
田島の兄。函館から田島に会いにやってくる。教師だったが、田島が容疑者として新聞に載ったため、続けられなくなり辞職した。警察から逃げ続ける田島の行く末を案じながらも、弟の好きなコーヒー豆を買って手渡す優しい兄。

獣医……畑正憲
民子が世話になっている獣医。夜中に民子の農場の牛が病気になった時、酔っ払いながらも馬に乗って駆けつけてくれた。

隣家の主婦……杉山とく子
民子が世話になっている人物。女ひとりで農場を続ける民子を心配し、何かと目をかけてくれている。当初は田島のことを怪しみ民子に忠告していたが、民子がギックリ腰で入院した際には「あの人がいてくれて助かった」と言う。

感想

映画「シェーン」から着想を得たストーリー

この映画は、1953年公開のアメリカ映画「シェーン」をモチーフとした作品です。

タイトル「遙かなる山の呼び声」は、「シェーン」の主題曲「The Call of the Faraway Hills」の邦題そのまま。ストーリーの構造も同じです。

「シェーン」は、西部の開拓地にやってきた流れ者(実は早撃ちのガンマン)が、とある農民一家と交流を結び、彼らを助けた後に立ち去るという西部劇。

ラストシーンの「シェーン!カムバーック!」は有名ですね。

開拓地を舞台にしている点や、主人公が子供と友情を結ぶ点、母親と惹かれ合う点などがそっくりです。

わたしは子供の頃にテレビで「シェーン」を見たことがあり、「似ているなぁ」とは思っていたのですが、オマージュだと知ったのは大人になってから。なるほどと得心しました。

北海道の大自然と高倉健

高倉健さん演じる田島耕作は、ある嵐の夜、ふいにやってきます。
母ひとり子ひとりの寂しい農場に、ずぶ濡れの見知らぬ男が現れ「泊めてくれ」と言う。

怖いです。

倍賞千恵子さん演じる民子が「なんだろ、気持ち悪い…」と言うのも頷けます。倍賞さんの、不安と怯えと少しの好奇心が入り交じった表情がリアル。

夏になると、田島は再び民子の農場を訪れ、雇ってほしいと言う。

牛乳を運んだり、牛小屋を掃除したり、広大な農場の手入れをしたり。
力仕事をもくもくとこなす健さん。

360度の地平線。
どこまでも続く青い草原。
地平線の向こうに沈むオレンジ色の夕日。

北海道の雄大な景色に溶け込むと、大柄の健さんでさえ小さく見える。

この人ほど、セリフを必要としない俳優はいないのではないでしょうか。
何も言わなくても、そこにいるだけで絵になるんですよね。

倍賞千恵子の汚れた服

最初は田島のことを気味悪がっていた民子ですが、だんだん田島を頼りにするようになります。

そのきっかけとなったのが、“ギックリ腰”でした。

牛小屋に転がったまま、痛さで動けない民子。
「痛い?」と聞きながら、民子の髪についている草を取ってあげる武志。

牛小屋にはハエが飛び交っていて、倒れている民子の体にも、ハエがとまるんですね。
民子の服には、土だけではない、いろんな汚れがこびりついている。

そういうリアルな描写が、民子の苦労をしみじみと感じさせます。

民子が2週間入院している間に、武志はすっかり田島に懐いてしまいます.
退院した日、民子は仲良くじゃれあう2人を見て驚くのですが、どこか嬉しそうでもある。

ここまで、民子と田島が親密に語り合うシーンはほぼありません。
なのに、民子の心が徐々に田島に傾いていく様子が、民子の表情でわかるんですよね。

吉岡秀隆は名子役だった

民子の息子・武志を演じるのは、吉岡秀隆さんです。
今ではすっかり渋いオジサンになりましたが、この頃は素晴らしい名子役でした。

まったく「セリフを喋ってる」感じがしないんです。
朴訥として自然で、まるで本物の親子のよう。ドキュメンタリーを見ているようでした。

吉岡さんはこの作品のオーディションで山田洋次監督の目にとまり、その後、「男はつらいよ」シリーズにレギュラー出演(ここでも倍賞さんの息子役)するようになりました。

武志は、“強さへの憧れ”から田島に惹かれていきます。

田島を怖がる民子に「大丈夫だよ。変なことしたら僕がぶっ飛ばしてやる」と男の子らしい強がりを言っていたのに、民子が入院すると寂しくて泣いてしまう、へなちょこの武志。

田島は、子供の頃に父親が自殺したことを武志に語って聞かせます。
兄と一緒に父親の死体を運びながら、泣きそうになるのを必死にこらえたという田島。

「男が生きていくには、我慢しなきゃならないことがいっぱいあるんだ。だから、母さんが病院にいったくらいで、泣いたりなんかしちゃダメだぞ」

こういう古臭いセリフは、今では誰も言わないでしょう。
でも、大事なシーンでした。

田島は、相手が子供であっても態度を変えません。
いつでも無愛想で、ぶっきらぼう。

わたしが武志だったとしても、田島を好きになったと思います。
子供の頃、猫なで声で機嫌を取ろうとする大人は、信用できなかったですから。

このシーンで田島が話したことは、その後のお兄さんとの再会シーン、さらにラストシーンへと繋がる伏線にもなっています。

兄との再会

ある日、田島の兄・駿一郎が町を訪ねてきます。
上武佐駅のベンチで、つかのまの再会を果たすふたり。

ふたりの会話から、田島が犯罪者で、警察から逃げていることがわかります。
そのせいで、駿一郎は教師を辞めることになったと打ち明けます。

弟の行為を責めるでもなく、諭すでもなく、「体にだけは気をつけろ」と温かい言葉をかけて立ち去る駿一郎。本心では「早く自首しろ」と言いたかったのかもしれません。でも、飲み込んだのでしょう。

駿一郎が、「どうせ好きなコーヒーも飲めないところにいるんだろうと思って」と、デパートの店員に聞いて買ってきたコーヒーを手渡すシーンだけでも、優しい兄だということがわかります。

この人は、田島の父親が自殺したとき、「みっともないから泣くな」と言ったお兄さんです。

おそらくそれ以来、兄弟ふたりで苦労して生きてきたのだと思います。
信頼できる人間は、お互いにひとりだけ。

田島は兄に悪いと思いながらも、今の幸せな暮らしを手放す勇気がない。
駿一郎もまた、たったひとりの弟を、自分の手で刑務所送りにする勇気がない。

逃亡ではなく自首を選んだ田島

田島が草競馬で優勝した日、3人は本物の家族のような幸せに満ちた1日を過ごします。

民子は田島に「もう他人とは思ってないから」と言い、今夜から自分の家に泊まるよう促します。

地平線に沈んでいく夕日を、ひとり黙って見つめる田島。

その夜、田島は突然、辞めさせてほしいと言い出します。
どうしてと問い詰める民子に、人を殺して警察に追われていることを告白する田島。

実は草競馬の会場で、田島は刑事に見つかってしまったのでした。
その場はうまく逃げおおせたものの、刑事がここへ来るのは時間の問題です。

わたしは、この映画を初めて見た10代のころ、田島は迫り来る警察に怯え、農場を辞めて遠くへ逃げようとしているのだと思っていました。

でも、そうではなかった。
大人になってから、そのことに気づきました。

田島はあの地平線に沈む夕日を見ながら、覚悟を決めたのだと思います。
逃げるのをやめて、全てを受け入れて罪を償おうと。

それが、民子の愛に対する答えだったのです。

日本映画史に残る名シーン

翌朝、民子と武志に別れを告げて、田島はパトカーに乗り込みます。

状況がわからない武志は、涙で顔をぐしゃぐしゃにして「ねぇ、おじさんどこ行くの?」と何度も民子に聞くけれど、民子は答えられない。

去っていくパトカーを追いかけ、「おじさーん、どこ行くのー」と叫ぶ武志の小さな姿は、何度も見ているのに涙でかすんでしまいます。

前述した映画「シェーン」では、少年が去って行くシェーンを見送るところで終わります。
有名な「シェーン!カムバーック!」のラストシーンですね。

ですが、この映画はまだ続きます。
そしてここからが、日本映画史に残る名シーンです。

その後、田島は刑が確定し、列車で網走刑務所へ護送されます。

田島の乗る列車が弟子屈駅に停まった時、ハナ肇さん演じる虻田と民子が乗り込んでくる。田島に話しかけたくても、護送員がいる手前、なにも言いだせない民子。

すると虻田が、わざと田島に聞こえるように、民子と話し始めます。

「あんた、牛飼い辞めて、中標津の町で働いてんだってね」
「はい」
「ちょっと聞いたんだけど、息子とふたりで、何年も先に帰ってくる旦那待ってるって話、ありゃ本当かね?」

2人の会話を聞いた田島は、涙をこらえることができません。

父親が死んだときにも泣かなかった田島。
男は何があっても涙をこらえるものだと、武志に説教していた田島。

その田島が、人目もはばからずに泣くのです。

ハナ肇さん演じる虻田が重要な役どころでした。
このシーンは、ハナさんがいなければ成立しなかったと思います。

民子が握らせた黄色いハンカチ

民子は、手錠で繋がれた田島の手に「黄色いハンカチ」を握らせます。

この作品は、「幸せの黄色いハンカチ」の後に作られています。
ここで黄色いハンカチを使ったのは山田監督の粋な演出で、物語に関連性はありません。

だけど、この2人にも「幸せの黄色いハンカチ」の結末が待っているかもしれない。

そう想像するだけで、そこはかとなく温かい気持ちになれます。

雪に覆われた山間を、列車が走っていく。
その先に希望があることを想起させる音楽で、物語は幕を閉じます。

何度でも見たくなる、わたしの大好きな映画です。

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