ネタバレ解説*映画「Wの悲劇(1984)」三田佳子と薬師丸ひろ子の名セリフを楽しむ

映画「Wの悲劇」あらすじ感想

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1984年に公開された薬師丸ひろ子さん主演の映画「Wの悲劇」のあらすじと感想です。

過去にも何度か見ているはずなのですが、ストーリーをほぼ覚えていませんでした。断片的なシーンは記憶に残ってるんですけど。

前回見たのがかなり前というのもありますが、「原作を内包するオリジナルストーリー」という複雑な構成になっているので、時間が経つとこんがらがってしまうんです。

原作は夏樹静子さんの同名ミステリ小説(1982年刊)ですが、主人公など登場人物の設定はオリジナル。舞台女優の主人公が演じる「劇」の部分に原作のストーリーがそのまま当てはめられているのです。

「わたし、殺してしまった。おじいさんを殺してしまった」「顔ぶたないで! わたし女優なんだから!」「女優!女優!女優!」など、今でもパロディで使われる名セリフがどっさり。

劇中のセリフ、今聞くとどれも芝居調でクサく聞こえますが、当時はあまり違和感がなかったんだよなぁ。時代の移ろいってフシギ。

1984年当時の髪型やファッションも懐かしかったです。

作品概要

  • 製作国:日本
  • 上映時間:108分
  • 公開日:1984年12月15日
  • 監督:澤井信一郎
  • 脚本:荒井晴彦/澤井信一郎
  • 原作:夏樹静子『Wの悲劇』
  • 音楽:久石譲
  • 主題歌:薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇”より」

登場人物(キャスト)

三田静香(薬師丸ひろ子)
劇団「海」の研究生。20歳。役者の幅を広げるために五代と関係を持ち、初体験を済ませた。朝帰りの途中で昭夫と出会い、しつこく言い寄られる。次回公演「Wの悲劇」の主役・和辻摩子役の選考オーディションに臨み、セリフが一言しかない女中役(およびプロンプと楽屋当番)に選ばれる。

森口昭夫(世良公則)
不動産屋の社員。26歳。朝帰りの静香と偶然出会い、一目惚れ。積極的にアプローチするが、冷たくあしらわれる。かつて役者を目指していたが、ライバルの演劇仲間が亡くなって悲しんでいたときに冷静に客観視するもう一人の自分が現れ、それ以来プライベートで素直な感情が出せなくなり、役者をやめた。

羽鳥翔(三田佳子)
劇団「海」の看板女優。舞台「Wの悲劇」では摩子の母・和辻淑枝を演じる。大阪公演の滞在先のホテルでアクシデントに見舞われ、保身のためにスキャンダルを揉み消そうと画策。偶然通りかかった静香に「主役にしてあげる」と交換条件を持ち出し、協力を求める。

五代淳(三田村邦彦)
劇団「海」の俳優。独身。静香の初体験の相手だが、その後も静香に対して素っ気なく振る舞う。舞台「Wの悲劇」では和辻家の事件を捜査する警部役。

安部幸雄(蜷川幸雄)
劇団「海」の演出家。怒ると台本を役者に投げつける。

菊地かおり(高木美保)
劇団「海」の研究生。静香のライバル。オーディションで次回公演「Wの悲劇」の主役・和辻摩子役に抜擢される。

宮下君子(志方亜紀子)
劇団の「海」の研究生。静香に妊娠を打ち明ける。かおりに対抗心を抱き、「Wの悲劇」のオーディションに受かったら堕ろすと決めていたが、オーディション中に倒れて病院に運ばれる。

堂原良造(仲谷昇)
東宝デパートの社長。羽鳥翔のパトロン。「Wの悲劇」の大阪公演期間中、翔の滞在先のホテルの部屋で行為中に亡くなった。後の警察の調べで自然死として処理される。

嶺田秀夫(清水紘治)
劇団「海」の俳優。舞台「Wの悲劇」では淑枝の2人目の夫で摩子の義理の父親・和辻道彦役。

安恵千恵子(南美江)
劇団「海」のベテラン女優。翔の先輩。舞台「Wの悲劇」では与兵衛の妻・和辻みね役。

小谷光枝(香野百合子)
劇団「海」の女優。舞台「Wの悲劇」では摩子の家庭教師・一条春生役。

佐島重吉(日野道夫)
劇団「海」の俳優。舞台「Wの悲劇」では摩子の大伯父にあたる和辻製薬会長・和辻与兵衛役。

あらすじ

劇団「海」の研究生・三田静香(薬師丸ひろ子)は、女優を目指してダンスや芝居の稽古に忙しい毎日を送っていた。静香は役者の幅を広げるため劇団の俳優・五代と関係を持ち、初体験を済ませる。朝帰りの途中に立ち寄った公園で、不動産屋の社員・森口昭夫(世良公則)と出会う。

劇団の次回公演「Wの悲劇」の主役選考オーディションが行われることになり、静香は昭夫の応援を受けてオーディションに臨むが、主役の和辻摩子役を射止めたのは同期のかおり(高木美保)だった。静香はたった一言だけセリフのある女中役に選ばれ、落胆するあまり昭夫に当たり散らしてしまう。

昭夫は落ち込む静香を飲みに誘い、俳優志望だった友人の話をする。その夜、酔った静香は昭夫の部屋に泊まり、二人は結ばれる。翌朝、静香は「好きな人がいる」と打ち明け、昭夫と距離を取ろうとする。

昭夫はとある空き家に静香を案内し「ここに一緒に住まないか」と言う。いつか静香が女優を諦める日がきたら結婚しよう、とプロポーズする昭夫。反対にもし静香が役者として成功したら、別れの挨拶の代わりに楽屋に大きな花束を届けると約束する。

~ここから先はネタバレを含む内容になっています。ご注意ください~

「Wの悲劇」の大阪公演が始まり、プロンプターや楽屋当番としての役割を果たす静香。そんなある夜、看板女優の羽鳥翔(三田佳子)に呼ばれて彼女の部屋へ行くと、翔のパトロンだという堂原(仲谷昇)がベッドの上で亡くなっていた。

スキャンダルを恐れた翔は、静香の部屋で亡くなったことにしてほしい、と頼む。その見返りとして、東京公演で静香を主役に起用させることを約束する。静香はその頼みを受け入れ、翔の代わりに記者会見でマスコミの質問に答え、堂原との関係を涙ながらに語る。

テレビで会見を見た昭夫は激怒し、どういうことかと静香を詰る。「言い訳できない」という静香。昭夫は思わず静香の頬を殴り、立ち去る。

約束通り、翔はかおりの演技に難癖をつけて降板させ、東京公演では静香が主役に抜擢される。幕が上がる前、緊張で立ちすくむ静香を後押しする翔。静香は全身全霊で役を演じきり、観客や団員たちから賞賛される。密かに劇場に来ていた昭夫も拍手を送る。

静香が劇場から出てくるのを待ち構える報道陣やファンたち。そこには花束を手にした昭夫もいた。だがそこへかおりが現れ、「何もかも知ってるわ!」と真相を暴露する。かおりはナイフを取り出し静香を刺そうとするが、昭夫が身を挺して静香を守り、代わりに刺されてしまう。

荷物のなくなったアパートの部屋を出て行く静香。いつか昭夫に案内された一軒家を訪ねると、新しい住人が引っ越しの荷物を運び入れている最中だった。住人に鍵を渡して出てきた昭夫は、外にいる静香に気づく。

静香は「ひとりでやりなおす」と昭夫に別れを告げ、女優を続けることを誓う。昭夫は去っていく静香に拍手を送り、静香は笑顔でそれに応える。

和辻家の親族が集まる別荘で和辻製薬会長・和辻与兵衛が殺され、その犯人をめぐって真相が二転三転するミステリー。
最初は女子大生の和辻摩子が「肉体関係を求められて刺した」と犯行を打ち明けるが、やがて与兵衛を殺したのは摩子の母・淑枝で、摩子は母の罪を被って名乗り出たことが判明する。
しかし真犯人は摩子の継父・道彦だった(動機は遺産狙い)。道彦は摩子を犯人にすればみんなが同情し、強姦されそうになったと言えば罪に問われない、と妻の淑枝を説得し、摩子に罪を着せるよう仕向けたのだった。

感想(ネタバレ有)

三田佳子と薬師丸ひろ子

毎回ストーリーを忘れてしまうけれど、毎回「面白いなぁ」と思う、不思議な作品です。

そしてストーリーは忘れても「三田佳子さんが大女優役」というこの一点だけは決して忘れない。それだけ三田佳子さんのインパクトが絶大です。一方、薬師丸ひろ子さんはいたって普通の女の子の役。

彼女の角川時代の映画はリアルタイムで全作品観ていますが、この作品の三田静香という役は(それまでの出演作に比べると)平凡な普通の女の子で、当時はあまりしっくりこなかったのを覚えています。

でも今見るとその普通っぽさ(主役に抜擢されないあたり)がとてもよくて、静香の可愛らしさとしたたかさを、彼女の独特の雰囲気にくるんでうまく表現しているなぁと思いました。

スキャンダル女優の成功

静香は主役の座を手に入れるため、大女優・羽鳥翔のスキャンダルの身代わりとなることを決めました。

「人生経験が未熟な若い女の子が他人の罪を被り、演技で周囲の人々を惑わせる」という設定は原作「Wの悲劇」と共通するところでもあります。

記者会見で静香は年の離れた愛人・堂原(実際は翔のパトロン)との純愛を涙ながらに訴え、世間の同情を集めることに成功。スキャンダル女優として注目を浴びることに。

この記者会見も見どころのひとつで、静香の演技力がホンモノであることが証明された瞬間でした。記者会見を見た翔は、「悔しかったわ。あの子が本当にあの人取っちゃった気がして」と語っています。

記者会見でレポーター役の梨元勝さんが「最近の言葉で言えば、愛人バンクですよ」と言っていたのが面白かったです。あったなぁ~そんな言葉。もはや死語ですけども。

結果的に静香の舞台は大成功を収めますが、これはコンプライアンスの厳しい今ならあり得ないでしょうねぇ。代役に不倫女優を選んだりなんかしたら、大バッシング間違いないだろうし。

ちなみに静香に主役を奪われた菊地かおりを演じたのは、新人時代の高木美保さん。一瞬誰かわからないほどお若い(というか幼い)!

終盤、かおりがなぜスキャンダルの真相に気づいたかは劇中では明らかにされていませんが、おそらく五代から聞いたものと思われます(翔が五代に打ち明けるシーンがある)。

「Wの悲劇」に手を伸ばす主人公

冒頭にも書きましたが、主人公・静香が演じる舞台「Wの悲劇」は、そっくりそのまま原作の『Wの悲劇』になっています。そこがちょっとややこしくて、記憶が混乱する所以。

ちなみにわたしは2010年版のドラマ(菅野美穂さん主演)も見ましたが、ドラマは原作そのままでした。

映画の中で描かれる舞台もなかなかの迫力で、特に後半のクライマックス(静香が主役を演じる東京公演)は見応えのあるシーンになっています。

だからこそ、その直後の静香の転落が残酷で哀れで切ない。かおりにスキャンダルの真相を暴露され、一夜でのぼりつめたスターの座から、たった一夜で転落してしまう静香。

その後の騒動は描かれていませんが、おそらくマスコミや世間からバッシングを受け、劇団仲間からの信頼も失い、当然主役も降ろされたでしょう。

「引っ越すつもりはない」と言っていたアパートを引き払っているところを見ると、劇団にいられなくなって辞めたことは想像に難くない。

荷物のなくなったアパートの部屋を出ていくとき、ふと天井に「Wの悲劇」のポスターが貼ってあることに気づき、ジャンプして剥がそうとするものの、手が届かなくて諦める静香。

今の静香には、どんなに背伸びをしても届かない場所であることを暗示していました。

ラストシーン~昭夫と静香の別れ

アパートを出てタクシーに乗った静香は、運転手に「寄るところがあるので戻ってほしい」と言い、以前昭夫と訪れた空き家を訪ねます。

最後に昭夫との思い出の場所を見ておこうと思ったのでしょうか。空き家は借り手が見つかって、昭夫もたまたま新しい住人に鍵を届けに来ていました。もっといい家探すから、と言う昭夫に、別れを告げる静香。

「自分の人生ちゃんと生きてなくちゃ、舞台の上のどんな役もちゃんと生きられないって、やっと、女優に憧れてたバカな女の子がわかったんだから。だから2人じゃなくて、ひとりでやり直すの」

昭夫は役者を目指していたとき、自分を見つめている〝もうひとりの自分〟が嫌になって役者を辞めたと語っていました。静香はその〝もうひとりの自分〟と付き合っていく、と言います。

「〝もうひとりの自分〟が、泣いちゃいけないって。ここは笑ったほうがいいって」

そう言って笑顔を見せながらも、拍手をする昭夫を振り返った静香の顔は泣き顔でした。

エンディングに流れる主題歌「Woman “Wの悲劇”より」が好きすぎて、一時期、毎日聴いていました。薬師丸ひろ子さんの透き通る声が神秘的な楽曲にぴったりで、うっとりするほどきれい。

作詞は松本隆さん、作曲は呉田軽穂(松任谷由実)さん。ユーミンは「自分が作曲したもので最も好きな曲」と語っていたそうです。

名場面、名セリフ

「わたし、殺してしまった。おじいさんを殺してしまった」

劇中劇「Wの悲劇」の和辻摩子のセリフです。
練習の場面でも本番の場面でも、何度も繰り返し出てきます。

「そんなとき、オンナ使いませんでした?」

スキャンダル騒動を起こした静香を退所させるかどうかで劇団が揉めているときの羽鳥翔のセリフ。

研究生の私生活の乱れに苦言を呈す女優・安恵千恵子に、「劇団を維持していくため、好きな芝居を作っていくため、でもお金がない。アルバイトしていると稽古ができない。そんなとき、オンナ使いませんでした? 私はしてきたわ」と鋭い言葉を浴びせ、安恵を黙らせました。

「顔ぶたないで! わたし女優なんだから!」

記者会見で一躍有名人となり、スター気取りでサングラスを買う静香。

アパートの前で待ち伏せていた昭夫に「どういうことだ」と問い詰められ、「嫌いになったでしょ」と答えて平手打ちされた直後のセリフ。

「女優!女優!女優!勝つか負けるかよ」

東京公演で主役を演じることになった静香。
幕が上がる前、緊張して「できません」と弱音を吐く静香に言った羽鳥翔のセリフ。

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