「完全無罪」全話ネタバレ 原作との違い 登場人物(キャスト) 感想|誰もが怪しい冤罪ミステリー

WOWOW「完全無罪」あらすじキャスト

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解説と感想(ネタバレ有)

2人の少女の幻影

ドラマでは、千紗が抱えるトラウマの描き方が原作と異なります。原作では千紗は悪夢と夜驚症にずっと悩まされていて、両親も夜中に叫び声をあげる千紗を見てとても心配しています。

なので、第1章のタイトルは「悪い夢」。千紗がいつも見る悪夢(怪物に追われて逃げる)についても、詳しく描かれています。

ドラマでは、たびたび千紗の前に2人の少女の幻影が現れます。千紗が21年前に助けられなかった、池村明穂と高木悠花の幻影です。これが映像ならではの効果もあり、とても怖くて悲しくて、切ない。

広瀬アリスさん演じる千紗が2人を見ても驚かず、怖がったり嫌がったりもせず、静かに見つめているところもいいんです。きっと子供の頃からずっと一緒なんだろうなとか、自分自身を重ねているのかもとか、いろいろ想像して苦しくなってしまう。

これは先に書いた第4話のシーンに繋がっていて、なぜ千紗の前に2人が現れるのか、その理由が第4話で明らかになっているんですね。

21年前にたったひとり生還したことへの罪悪感(サバイバーズ・ギルト)。

真犯人を見つけ出したいのは自分のためではなく、殺された2人のため。千紗自身も気づいていなかったその感情に、始めて気づかされたときの動揺。それがあの第4話のシーンでした。ほんとすごい。

誰もが怪しく見える

原作でもさまざまなミスリードが仕掛けられているのですが、ドラマでは役者さんたちの巧妙な芝居や演出、カメラワークなどが相まって、さらに怪しく感じられました(事務所のドアが怪しく見えるってどーゆーこと?)。

特に平山役の北村有起哉さんがすごかった。シーンによって良い人に見えたり悪い人に見えたり、最後まで全然わからない。

第3話のラストで「ありがとう。こんな人殺しを無罪にしてくれて」と階段の上から千紗を見下ろして告げるシーンとか、ほんとやばかった。怖すぎた。この作品のテーマでもある多面性を最高の形で見せてくれました。

ちなみにこのときの平山のセリフの真意は、「自分はこれから有森と今井を殺すから、人殺しになる」ということ。

最終話で平山が告白するクライマックスシーン。たまにアップになるけどほとんどカメラは引いていて、すごく暗いし、平山も有森も千紗も顔なんかほとんど見えないんですよね。

それでも平山が「佳澄を返してくれ」と叫ぶところは胸が引き裂かれる思いがして、辛かったです。打ちのめされたのは、平山のこのセリフ。

「私は、殺しも誘拐もしてない。でもそれは永遠に佳澄には伝わらない。どうしてくれるんですか。佳澄は私が殺したと思ったまま…自殺した。何ができますか。何ができる。復讐しかないだろ、佳澄のために」

愛する人に、どうやっても自分の無実を伝えることができない。なんという絶望感。この一言で、平山が取った行動のすべてが腑に落ちます。

第1話で、平山が「あと十数年入ってれば出してもらえるかもしれない。(中略)それまで生きてますかね」と千紗に言うセリフがありました。これは平山自身のことではなく、有森のことを指していました。

ドラマの平山は原作よりも無口な印象だったけど、それも功を奏していたように思います。

そして、誰もが騙されたであろう風間俊介さん演じる熊先生。

原作でも熊の態度が怪しく感じられる描写があり、終盤、千紗が一瞬だけ熊を疑うところもそのままなのですが、ドラマは風間さんが演じていただけにもっと疑わしくなったような…。

ラストで熊先生が千紗に告白し、振られて泣きながら車を運転して前が見えなくなるというシーンは原作にはないドラマオリジナル。めっちゃ笑った。最高に面白かった。

おぞましい真犯人

真犯人は21年前に目撃証言をしていた川田清でした。

川田は亡くなる前に自分が犯人だと平山に手紙を送り、会いに来た平山に罪の告白をしていました。

ドラマでは、川田は罪悪感に苛まれて平山に告白し、何度も謝罪していましたが、原作はもっと残酷です。

川田は反省など1ミリもしていないし、良心の呵責を感じてもいません。告白する自分に酔い、「これで明穂ちゃんや悠花ちゃんと仲直りできる。向こうで二人と仲良くやる」などと得意げに語っています。

彼が少女たちをどうやって誘拐したか、どのように殺害したかも詳しく語られ、その内容は聞くに堪えないものです。この告白を聞いていた千紗が、おぞましさのあまり嘔吐し、両手で耳を塞ぐほどでした。

真山の裏の顔

この作品を見て(読んで)わたしが「最大の謎」だと感じたのは、真山先生でした。

まず、原作には真山先生の最後の告白(人間の狂気について語るところ)はありません。

千紗の「どうして綾川事件を手がけようと思われたんですか」という問いに、真山は「失脚させようと思ったんだよ」と答えただけ。

それに憤慨した千紗は言い返そうとしますが、真山の赤くたぎった目と、笑みの中に得体のしれない炎が燃えているのを見て、言葉を失ってしまいます。

そして「触ってはいけないものに触れた気がした」と思い、そのまま何も言わずに真山の部屋から出ていきます。

この千紗が一瞬触れた、真山の「得体のしれない恐ろしげなもの」の正体が何だったのか、原作には書かれていません。

ドラマでは、真山はその直後の千紗との会話で、このように語っていました。

「誘拐された3人の少女のうち、君を除く2人は死んで、君は生きてる。正義では収まらない何か、狂気と言ってもいいものが君にはあったはずだ。誰とも同調しない。その人だけが感じる気持ちだよ。平山聡史が死んだ妹を思う気持ち、あるいは有森が被害者遺族を思う気持ちもそうだ。それを僕は狂気と呼んでるんだ。それを利用してると瀬戸口に注意されたがね。やりすぎだって。でも狂気に触れないで解決できないだろ。どうしようもない愛と憎しみと怒りが犯罪を犯すんだろ、人間だから。そこに触れないで弁護士なんて面白いかい。君はそのことに半分気がついてる」

わたしはこの真山のセリフを書き起こして、何度も繰り返し読んで考えましたが、わかるようで、わからなくて、悩みました。

第4話で真山は、平山を疑い始めて真犯人を追うことに躊躇する千紗に対して、こう言いました。

「法律の枠内で人を見つめるより、人の業に触れていくほうが楽しくないかい?」

この「楽しい」という感覚が、共感できなかったんですよね。幼い少女が無惨な殺され方をして、無実の人間が21年間も服役させられて、たくさんの人が心に深い傷を負って。それを現場の人間が「楽しむ」というのが、どうしても納得できない。

もちろん、作り手が伝えたいのはそこではなく、「人と人が向き合った時に生じる感覚や感情を大切にしたい」ということだと思います。それは理解できます。

一般人が共感しづらい「楽しい」という言葉を、あえて選んだようにも思えます(千紗は最初、嫌悪感を示してましたから)。でも…やっぱりこの悲惨な事件を「楽しむ」と表現してしまう人の気持ちはわからなかった。

わたしは凡人だから、わからなくて当然なのかな。

千紗がフェアトンに残ると決めたのは意外でした。真山の考え方に共感したからなのか、〝狂気〟ととことん向き合いたいと思ったからなのか、千紗の本心はわからないけど。

どっちにしても、千紗には真山先生を超える弁護士になってほしいな、と思いました。

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