感想と解説(ネタバレ有)
モンタナの風景が映すもの
物語が終わった実感とともに、悲しさやホッとした気持ち、そして静かな余韻が残りました。ちょっぴりロスです。
暴力と権力が渦巻く世界に最初はとても戸惑いましたが、モンタナの美しい風景の中で描かれる濃密な人間ドラマに引き込まれ、気づけば最後まで見届けることになっていました。
モンタナの自然は、登場人物たちの内面や行動に深く結びついています。たとえば、ジョン・ダットンが土地を見つめるシーンでは、彼の孤独や責任感が風景と重なって描かれていて、言葉以上に彼の心情が伝わってきます。
ジョンはなぜ、命懸けで土地を守ろうとしたのか?
最終章となるこのシーズンでは、これまで積み上げてきた家族の物語が大きく揺らぎ、崩壊へと向かっていきます。その過程で、何を守り、何を手放すのかという深刻な問題に直面します。
この作品が、なぜこれほどまでに多くの人々の心を捉えるのか。その理由を、物語の構造と美学の両面から探りながら、シーズン5が描いた「終わり方」の意味について考えてみたいと思います。
ダットン家 — 血と土地に縛られた者たち
物語は、ダットン家を中心に展開されます。彼らはモンタナの広大な土地を代々守り続けてきた一族であり、その土地は家族の歴史とアイデンティティそのものです。
ジョンは、家族の長として土地を守ることに強い使命感を抱いていました。彼にとって土地を手放すことは、自分自身の存在を否定することに等しく、時に冷酷な手段(犯罪行為)を選びながらも、土地の所有に固執します。
これは彼の父から受け継いだ価値観であり、息子たちにも引き継がせようとしています。でも、家族の中でその価値観が必ずしも共有されているわけではない。
跡取り息子のケイシーは、ジョンのような支配的な生き方に疑問を抱きながらも、家族の絆や土地への責任から逃れることができません。ベスは、ジョンに対する忠誠心と自己破壊的な衝動の間で揺れ動きながら、家族のために戦い続けます。そして養子のジェイミーは、血のつながりに翻弄され、自分の居場所を求めて葛藤します。
ダットン家の物語は「血」と「土地」によって縛られた人々の選択と葛藤を描いています。誰が土地を継ぐのか、誰が家族の一員として認められるのか、という問いは、物語の根幹にあるテーマです。
女性たちの選択と喪失
この作品に登場する女性たちは、暴力と権力が支配する世界で、それぞれ違う方法で生き抜いています。中でも(わたしが特に好きだった)ベスとモニカは、まったく異なる価値観と立場から、それぞれの「強さ」を示していました。
ベスは過激で、ときに破壊的です。その根底には、母の死や兄との関係、自らの不妊といった深い喪失と罪悪感があります。これらの経験が、彼女を「守る者」としての役割に駆り立てています。ベスの強さはもろさと背中合わせで、何も恐れていないように見えるのは、すでに多くを失ってしまったからかもしれません。
一方モニカは、ケイシーの妻としてダットン家の暴力的な世界に巻き込まれながらも、自分の価値観を守ろうとします。先住民であり教育者でもある彼女は、暴力や権力から距離を置き、沈黙や撤退を選ぶことが多い。慎重に言葉を選び、必要なときにだけ語るのは、静かな抵抗であり、家族や土地への深い思いの表れでもあります。
ベスは戦うことで、モニカは距離を取ることで、自分と家族を守ろうとする。どちらの選択も、女性が置かれた複雑な状況の中での「強さ」の形であり、多様な生き方の可能性を示しています。
『イエローストーン』は男性中心の物語に見えますが、実は女性たちの選択こそが物語の流れを大きく左右しているのです。
ケイシーの精神的旅路
ケイシーは父ジョンの価値観に完全には染まらず、家族の期待と自分自身の信念の間で揺れ続けていました。
元軍人であるケイシーは、暴力の世界を知っているからこそ、それを避けようとする傾向があります。彼は家族のために戦うこともありますが、常に葛藤を抱えていて、積極的に権力を握ろうとはしません。
そのため、ダットン家の土地や政治に関わる場面では、どこか一歩引いた立場を取ることが多く、ジョンやベスとは異なる価値観を持っていることがわかります。
ケイシーの旅路が象徴的に描かれるのが、シーズン4での「ビジョンクエスト(儀式的な精神の旅)」。
これは「Hanbleceya」というラコタ族の伝統的な儀式で、精神的な浄化と自己探求を目的としたもの。ケイシーはトーマスとモウの導きでこの儀式にのぞみ、自然の中で孤独と向き合いながら、自分自身の選択を見つめ直します。
この儀式の中で、ケイシーはオオカミと出会います。言葉ではなく気配で語りかけるオオカミは、彼にとって霊的な象徴であり、自然とのつながりや内面の声を表しています。
死のかたちと物語の終焉
シーズン5では、「死」の描かれ方が物語の価値観を象徴する大きな要素になっています。特に印象的だったのは、第6話で描かれた老カウボーイ・エメットの死と、ジョンの最期の対比です。
エメットは牛追いの途中、キャンプの夜に眠るように亡くなります。雄大な自然に包まれ、仲間と過ごす穏やかな時間の中で迎えたその死を、ジョンは「カウボーイとして理想的な終わり方」と語り、敬意と哀しみを込めて見送りました。
一方ジョンの死は、政治的な混乱と家族の裏切りの中で訪れます。州知事としての責務を果たしながらも家族との関係は崩れ、ジェイミーとサラの暗殺計画によって命を落としたジョン。その死は孤独で、誰にも見守られることなく、穏やかな死とはほど遠いものでした。
ジョンの死は、彼が守ろうとした土地や家族、伝統が崩れていく象徴でもあります。エメットの死が「自然との調和の中で迎える理想的な終焉」だとすれば、ジョンの死は「現代の混乱と制度の崩壊の中で訪れる孤独な終わり」でした。
同じ「死」を描きながら、まったく異なる意味を持つ2つの場面。どのように生き、どう終わるのか。何を美しいと感じ、何を失いたくないと思うのか――彼らの死は、そんな問いを投げかけてきます。
ジョンの死の裏に隠された制作背景
ジョンの死は、ダットン家の物語の終焉であると同時に、登場人物たちが「赦し」と「選択」に向き合う始まりでもありました。
大きな転換点となったジョンの死は、実はケヴィン・コスナーの途中降板が影響していたとも言われています。撮影スケジュールや契約の問題、制作陣との意見の食い違いがあったことが一部メディアで報じられています。その結果、ジョンの物語は予定よりも早く収束することになり、脚本にも急な変更が加えられたとされています。
ジョンの死は「必然」とも「都合」とも受け取れる描かれ方で、その評価はアメリカの視聴者や批評家の間でも分かれているようです。「物語としての完成度を損なった」という声もあれば、「家族の崩壊を象徴する終焉だった」と肯定的に捉える意見もあります。
わたし自身は後者に共感しています。ジョンの唐突な死には驚きましたし、展開が急ぎ足に感じられた部分もありました。それでも、彼を失った後に描かれた家族の姿には、深い余韻と感情の揺さぶりがあって、特に最終話は胸を打たれました。
土地の返還が語るもの
最終話で、ケイシーはダットン牧場の土地を先住民に返す決断をしました。
この土地はジョンが命を懸けて守り続けたもの。ダットン家の象徴そのものです。牧場の譲渡は、「守る」ことから「手放す」ことへの転換であり、“所有”の物語が終わりをむかえる瞬間でもありました。
それは前日譚『1883』で語られた「七世代後に土地は我々の民に戻る」という予言が実現したことを示す場面でもあります。
ケイシーの決断によって、物語は家族の枠を超え、より広い歴史や文化の流れへと視点を広げます。先住民にとって土地は精神的な故郷であり、文化の記憶が息づく場所。返還は彼らのアイデンティティの再生につながり、過去の抑圧への応答にもなっています。
ケイシーはずっと家族の中で迷い続けてきた人物ですが、最後には「何が正しいか」を考えて行動します。それは家族のためだけでなく、もっと大きな視点からの選択だったのだと思います。
家族制度の限界
このドラマは、ダットン家という一つの家族の物語を通して、現代における「家族制度の限界」を浮き彫りにしました。
ジョンは土地と家族を守ることに人生を捧げましたが、その方法は支配的で、愛情の偏りを生みました。ジェイミーは家族のために尽くしながらも、養子という立場から孤立し、最終的には敵対者として描かれます。
ベスは喪失を怒りに変え、忠誠と破壊を同時に背負い、モニカは静かに受け入れながら再生の道を選びました。ケイシーはその間で揺れながら、家族との距離を保ちつつ自分の生き方を探しています。
それぞれの選択は、「家族とは何か」「誰を家族と呼ぶのか」という問いに対して、違う答えを示しています。
シーズン5はダットン家の崩壊を描くと同時に、これまでのアメリカの家族観や西部神話を考え直すための最終章だったと思います。その終わりは物語の結末であると同時に、新しい問いの始まりでもあります。
続編・スピンオフについて
『イエローストーン』はシーズン5をもって完結しましたが、ダットン家の物語はさまざまな時代へと枝分かれしながら続いています。
まず、前日譚として制作された『1883』では、ダットン家が西部へ旅する過程が描かれ、彼らの土地への想いの原点が語られました。続く『1923』では、大恐慌時代のアメリカを舞台に、家族の葛藤と生き抜く力が重厚に描かれています。
さらに、現代を舞台にした新作『マディソン』や、第二次世界大戦期を描く予定の『1944』も制作が進行中です。それぞれ異なる世代の視点から、「土地」と「家族」の意味を問い直す作品になると言われています。
また、人気キャラクターであるベスとリップ、ケイシーを中心としたスピンオフ企画も検討されているようです。
機会があれば、わたしもこれらの作品を見てみようと思います。
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