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各話の登場人物
第1話
ロマン・ド・クレシー
ド・クレシー館の学芸員。祖父が建てた館を引き継ぎ、ギャラリーにした。長年非公開だったダイヤ“ドラゴンの眼”をド・クレシー館で一般公開する。
トマ・マルス
展示会のセキュリティ責任者。展示会の初日、開場前に停電が発生し、その間に展示室で何者かに殺害される。
サウド・カーン
カタールの大富豪。10年前に“ドラゴンの眼”を3500万ドルで購入した。美術品を盗んだ窃盗犯トマ・マルスの能力を買い、セキュリテイ責任者として雇い入れた。
ガルニエ・フランソワ
ウィルコックス社の技術者を装い、展示室に腕時計型の電磁パルス発生装置を設置した人物。
第2話
シャフリヤール・ムサヴィ
被害者。イラン出身のイスラム神秘主義者(スーフィー)。イラン政権から迫害を受け、5年前に難民として来仏していた。自宅で焼死するが、出火原因は不明。死の直前に警察に通報し、「イフリートに殺される」と話していた。
ドニヤ・ムサヴィ
シャフリヤールの娘。パリでスーフィーの活動に参加している。5年前、父親と一緒に難民ボートで来仏した。
マルジャン
民族心理学者。ラファエルの訪問を受け、シャフリヤールが話していた「イフリート(精霊)」について説明する。
ジャスミン・ファルハニ
シャフリヤールが事件前に利用したハイヤーの運転手。イラン出身で、8年前に来仏。乗客にコーヒーをふるまっている。
バハラーム・カゼミ
5年前に失踪したイラン人。革命防衛隊の兵士だったが脱走した。反体制派に暗殺されたと言われている。
マシード・ハタニ
カゼミに父親を殺された女性。
クロエ・デネッカー
カゼミに婚約者を殺された女性。
第3話
マルク・ノワゼ
連続殺人犯。通称“密猟者”。クロアチアに潜伏中、憲兵隊に発見されて逮捕された。護送中の機内で謎の死を遂げる。
ブルゴワン
憲兵隊司法課の警視。犯罪研究所出身。ラファエルとともに連続殺人犯マルク・ノワゼを護送する。
マキシム・ルガール
社会面の記者。連続殺人犯の情報を得て、同じ便に搭乗する。
ミリアム・アルデュイ
客室乗務員。マルク・ノワゼ殺害容疑で勾留される。
モルガン・フィリップ
2017年に“密猟者”に殺害された国会議員。
第4話
フィリップ・マルシャン
被害者。自宅近くの公園で刺殺され、遺体で発見された。犯罪歴もない善良な一般市民と思われたが、家族には見せない別の顔を持っていたことがわかる。
エレーヌ
フィリップの妻で、サシャの継母。秘密主義の夫を不審に思っていたが、事件によって夫の別の顔が明らかになり動揺する。
サシャ
フィリップの息子。父親を怪しんでいる。
カミーユ
サシャの恋人。看護師。
イザーク・ラクデム
匿名を貫く天才生物学者。病も老いも死さえも科学が制御できるとする“超人間主義”を擁護している。最先端の生物医学研究を行う会社〈イタークス〉の経営者でもあり、被害者の口座に多額の金を振り込んでいた。
ディーノ・モレッティ
〈イタークス〉の常務取締役。イタリア人。イザーク・ラクデムの正体を知る唯一の人物で、彼が行った極秘実験に手を貸した。
アンリエット・ラックス
20年前、被害者と一緒に中国に渡航した女性。
第5話
ミカエル・コロレヴァ
被害者。チェスのトーナメント大会に出場し、対局中に死亡する。ポケットには赤い“ビショップ”が入っていた。
シュン・ナイトウ
トーナメント大会でのミカエルの対局相手。試合を長引かせ、対戦相手を少しずつ苦しめる戦法。
イヴァナ・コロレヴァ
ミカエルの姉。チェスプレーヤーだったが、現在はミカエルのコーチをしている。
マルキュス・コニグ
元チェスプレーヤー。2年前に自宅で死亡した。8年前に重度のうつで引退し、自宅と施設で療養していた。
カンタン・デフランジュ
10年前に引退した元天才チェスプレーヤー。驚異的な計算力と本能的なプレーでチェス界のダークホースとなったが、交通事故を起こして引退した。
第6話
クレマン・スラノヴスキー
SNSで有名な環境活動家。コンチェッタ・トラヴィスとともに“気候的不服従”を設立した。信条は環境政策に対する市民的不服従。街頭で女性に刺され、重傷を負う。
アンドレア・マルタン
スラノヴスキーを刺した女性。2021年4月13日生まれの38歳で、2059年からタイムトラベルで来たと語る。
コンチェッタ・トラヴィス
スラノヴスキーとともに“気候的不服従”を設立した活動家。ネパールにいると思われたが…。
ジェラール・ゲズ
議員。右派のポピュリスト。スラノヴスキーを見舞いに病院を訪れる。
ヴェルヴェルド
児童相談所の職員。通報を受け、ニルスを預かっているアストリッドの適性を調査しに来る。
第7話
エルワン・ル・トレアシュ
被害者。実業家の息子。ハロウィーンの夜、バーで死んでいるところを発見される。記録上は2年前に交通事故で焼死している。
ロイック・ル・トレアシュ
エルワンの兄。後継者だったが、10年前に階段から転落死した。
ソアジグ・ル・トレアシュ
エルワンの双子の妹。元新体操の選手。ブルターニュのグワドムール村で母と一緒に暮らしている。
ヤン・ル・トレアシュ
エルワンの弟。
クリスチャン・ル・トレアシュ
エルワンの父。ブルターニュの実業家。後継者である長男ロイックと喧嘩したことを理由に、エルワンを家から追い出した。
グウェンダル・ルルー
2年前にエルワンの遺体を確認した医師。グワドムール村で診療所を営んでいる。
ロナン
グワドムール村の憲兵隊。交通事故で腕を失っている。ラファエルたちの捜査に協力する。
第8話(最終話)
ジャン・マルク・ルーヴェ
FCブーローニュの会長。サッカー選手の元代理人。アフリカや南米へ未来のスターを発掘しにいき、子どものために親に借金を背負わせ、法外な金額を現金で要求していた。10年前に不起訴となるも、“人身売買の黒幕”となじったラファエルを訴え、接近禁止命令を勝ち取っている。
シモニ警視
今回の事件を捜査するために来たリヨン司法警察の警視。ルーヴェと敵対していたラファエルを疑う。
ニーノ・ミュニエズ
ルーヴェの運転手。事件当夜は運転していなかった。
ディエゴ・ラッソ
10年前に“サッカー界の新星”と言われたサッカー選手。過度な期待にこたえられず、荒れた生活を送った末、25歳で飛び降り自殺をした。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
長らく非公開だった特別なダイヤ“ドラゴンの眼”がド・クレシー館で一般公開されることに。ところが展示会初日、開場前に停電が発生。ダイヤを見に行ったセキュリティー責任者のトマ・マルスが遺体で見つかり、ダイヤは忽然と消えてしまう。
アストリッドはダイヤの近くに展示されていた腕時計が1本多いことに気づき、調べると腕時計型の電磁パルス発生装置が紛れ込んでいた。被害者のトマ・マルスはダイヤの持ち主サウド・カーンが雇った人物で、昨日、彼は防犯カメラが停止した際に技術者を呼んで調べさせていた。保険会社のノラ・モンスールは、装置を設置するために意図的に仕組んだのでは、とマルスを疑う。
マルスの遺体を解剖中、フルニエは食道からダイヤを発見する。だがその直後、侵入してきた覆面の男に襲われ、ダイヤを奪われてしまう。
ラファエルたちは、過去に電磁パルスを使って美術品を盗んだ前科のあるガルニエ・フランソワに目をつける。彼はトマ・マルスに雇われて展示室に装置を設置したことや、マルスが数か月前からダイヤを飲み込む訓練をしていたこと、マルスが死んだためフルニエを襲ってダイヤを取り戻したことを自供する。
だが、マルスが飲み込んだダイヤは偽物だった。ニコラとラファエルはダイヤのレプリカを発注した会社を突き止めるが、そこは司祭館で、怪しげな集会が行われていた。
ノラが休職中の司法警察員であることがわかり、捜査に加わることに。ノラによると、マルスは数年前から頻繁にド・クレシー館の学芸員ロマン・ド・クレシーと連絡を取り合っているという。
ド・クレシーは、17世紀に数々の預言を残したスフラン神父の信奉者だった。アストリッドは“ドラゴンの眼”が、ルイ16世の所有したダイヤ“王の心臓”であることを知り、ラファエルたちに伝える。
本物のダイヤは凶器の胸像の中に隠され、ほかの証拠物件とともに裁判所の保管庫に運ばれていた。ラファエルたちは保管庫からダイヤを盗み出そうとしたド・クレシーを現行犯で逮捕する。
ド・クレシーは信奉するスフラン神父の預言に従い、ルイ16世の“王の心臓”をフランスに戻して王政復古をかなえようとしたのだった。そのためにダイヤを盗む計画を立て、3年前にマルスを雇ったという。だが強欲なマルスはド・クレシーを裏切り、ガルニエと手を組んでダイヤを手に入れようとしたのだった。
ラファエルが引っ越すことになり、アストリッドは一晩だけラファエルを自宅に泊める。大変な思いをしたが結果的に絆が深まった、と話すアストリッドに、テツオは「他の人とも試してみたい?」と問いかける。
ニコラは恋人のエマに別れを告げる。ラファエルはニコラとエマがキスをしているところを目撃し、傷心のあまり泥酔してバーテンダーと関係を持ってしまう。翌朝、ニコラはラファエルの新居を訪ねて告白するが、男が泊まったことを知って態度を硬化させる。
イラン出身のシャフリヤール・ムサヴィが自宅で焼死体となって発見される。ムサヴィは死ぬ直前に警察に通報し、「イフリートに殺される」という謎の言葉を残していた。
監察医のフルニエによると出火元は被害者自身で、引火した形跡もないという。現場を訪れたアストリッドとラファエルは、遺体のそばにあった白紙の手紙を発見する。手紙は冷却すると文字が現れる仕掛けになっており、ペルシャ語で「お前は流血の代償を払う」と書かれていた。
ラファエルは被害者の通話履歴にあった民族心理学者マルジャンを訪ねる。彼女によると「イフリート」とは悪霊のことで、殺人で流れた血から現れるという。ムサヴィに関する情報を聞き出そうとするラファエルだったが、マルジャンは守秘義務を理由に拒否する。
ムサヴィのワイシャツからは強力な酸化剤、Tシャツからは燃焼を助長する物質が検出される。調べると、ムサヴィは事件の1時間前にハイヤーの車内でワイシャツを着替えていた。ハイヤーの運転手はイラン人女性のジャスミン・ファルハニで、客にコーヒーを振る舞っていた。
アストリッドは難民保護局が保管していた事情聴取の記録の中から、4年前に救助されたムサヴィ父娘の記録を見つけ出す。そしてシャフリヤール・ムサヴィが到着時にすでに死んでいたことを突き止める。
ムサヴィの娘ドニヤは、4年前に父親が難民ボート上で衰弱死したことを打ち明ける。今回の事件で焼死した男はシャフリヤールではなく、父娘が亡命する途中に出会った革命防衛隊の脱走兵バハラーム・カゼミであり、4年間、父親のように自分を守ってくれたと話す。
民族心理学者のマルジャンは、焼死した男がカゼミであることを知っていた。加虐者だったカゼミは、自責の念の化身であるイフリートにおびえていたという。
ハイヤー運転手のジャスミン・ファルハニは元弁護士で、ある裁判で死刑判決に異を唱え、50回のむち打ち刑を受けていた。その執行人がカゼミだった。さらにカゼミに父親を殺されたマシード・ハタニが彼の家の鍵を盗み、合鍵を作っていたことも判明する。そして酸化剤の所有者クロエ・デネッカーは、カゼミに婚約者を殺されていた。
アストリッドとラファエルは、カゼミに恨みを持つ女性たち3人の犯行だと推測するが、証拠が見つからない。ラファエルは民族心理学者のマルジャンが難民支援のボランティアをしていたことを知り、彼女が3人に殺人を唆したのではと考える。マルジャンもまた、カゼミの加虐によって大切な人を失っていた。
4人の女性たちは逮捕されるが、ラファエルは彼女たちの気持ちを慮り心を痛める。そんなラファエルを慰め、抱きしめるニコラ。
アストリッドは異母弟のニルスと面会する。どう接していいかわからず困惑するアストリッドに対し、ニルスは正直な彼女をたちまち好きになる。事件解決後、アストリッドが自宅にいると、ニルスがひとりで訪ねてきて「一緒にいたい」と言う。
6年にわたる捜査の末、“密猟者”と呼ばれる連続殺人犯マルク・ノワゼが潜伏中のクロアチアで逮捕された。ラファエルは憲兵隊のブルゴワン警視とともに犯人をフランスへ護送する任務に就くが、ノワゼは機内のトイレで謎の死を遂げる。
ラファエルは飛行中の機内から電話で捜査チームに報告。監察医のフルニエは減圧症による事故死と判断するが、遺体の映像を見たアストリッドは注射痕に気づき、人為的に減圧症が引き起こされた他殺だと指摘する。
ニコラとノラは乗客リストの中から容疑者3人を割り出すが、3人はいずれも新聞記者で、“密猟者”を取材するために同じ便に搭乗したという。一方、アストリッドは独断でノワゼが妹と住んでいた家を訪れ、彼が残した「真実は殺戮(マサークル)の中」という言葉を妹から聞き出す。
ラファエルとブルゴワンは、直前に搭乗が決まった客室乗務員ミリアム・アルデュイを容疑者として逮捕する。だがフランスに到着する寸前、ブルゴワンは毒入りのナッツを食べて倒れてしまう。
ブルゴワンは搬送されて一命をとりとめる。警察で聴取を受けたミリアムは、大金と引き換えに仕事を引き受けたと打ち明ける。彼女に与えられた仕事は機内前方のトイレを封鎖し、ノワゼの飲料水に利尿剤を混ぜることのみで、殺してはいないという。
アストリッドは恋人のテツオから囲碁をやろうと誘われるが、「パズルではない」という理由で拒んでしまう。対戦ゲームでは相手の出方がわからず予測不可能なため、自分にはできないと結論付けるアストリッドに、ラファエルは「一歩踏み出してみて」と励ます。
アストリッドは過去の資料の中から、機内にいた記者マキシム・ルガールと2017年にノワゼに殺害された国会議員モルガン・フィリップの繋がりを見つけ出す。2人は恋愛関係にあり、ルガールは恋人を殺された復讐のため、ミリアムを雇ってノワゼを殺す計画を立てたことを明かす。毒入りのナッツは、彼がノワゼに食べさせるためにすり替えたものだったが、ノワゼはナッツを食べていなかった。
アストリッドはノワゼが必ず行っていた“儀式”に注目し、2017年にモルガン・フィリップを殺したのは別の人間だと言及する。ノワゼは犯行後、狩猟に出かけ遺体を猟犬に与えていたが、フィリップが殺されたのは狩猟期間外の7月だったからだ。
証拠を得るためノワゼの家を捜索する中、アストリッドはノワゼの妹から聞いた「真実は殺戮(マサークル)の中」という言葉を思い出す。「マサークル」が「殺戮」ではなく「剥製」を示していると気づいたアストリッドは、家に飾られていた鹿の剥製を調べ、縫い付けられていたフィリップ以外の被害者7人の人毛を発見する。
フィリップの遺体は、細部まで正確にノワゼの“儀式”が模倣されていた。そのことから、アストリッドは捜査関係者がフィリップを殺した真犯人だと見抜く。ラファエルはブルゴワン警視が真犯人だと気づき、彼を逮捕する。
フィリップは憲兵隊の不正を調査するため委員会を立ち上げようとし、ブルゴワンはそれを阻止するために彼を殺して“密猟者”に罪を着せたのだった。だが今になってノワゼが逮捕され、彼の口から真実が明るみに出ることを恐れて殺害したのだ。
アストリッドはブルゴワンに裏切られたラファエルの気持ちを思いやり、勇気を出してニコラとの距離を縮めるべきだと助言する。だがニコラは彼に好意を寄せるノラの誘いを受け、パーティーに出かけてしまう。
アストリッドは自宅にテツオを招き、囲碁に挑戦する。
閑静な新興住宅地でフィリップ・マルシャンの遺体が発見される。被害者に犯罪歴はなく、家族思いで善良な一般市民と思われたが、彼が勤務する医療機器の販売会社に問い合わせると、そんな社員はいないという。
凶器の刃物から採取した指紋とDNAは、被害者本人のものだった。フルニエは自殺と推測するが、刺し傷が6か所にも及ぶことから、ラファエルは異を唱える。
被害者の銀行口座を調べると、実業家のイザーク・ラクデムという人物が彼の口座に大金を振り込んでいた。ラファエルはラクデムから話を聞くため、彼が経営する会社〈イタークス〉を訪れる。しかし被害者の写真を見た常務取締役のモレッティは、彼こそイザーク・ラクデムだと証言する。
モレッティによると、ラクデムは匿名の天才生物学者で、病も老いも死さえも科学が制御できるとする“超人間主義”を擁護し、最先端の研究を進めていたという。フィリップは“イザーク・ラクデム”という名を使って生物学者としての仕事を続け、プライベートでは家族にさえそのことを知らせず、秘密主義を貫いていたのだ。
アストリッドは凶器から出たDNAが被害者本人のものではなく、双子の兄弟のものだと推測。捜査チームはフィリップの双子の兄弟を捜すが、出産時の病院のカルテに双子の情報は記載されていなかった。
フィリップのメールはすべて暗号化されており、ノラは解読に苦戦する。アストリッドはヴィジュネル暗号だと推測し、現場付近で見つかった空のUSBキーが鍵だと気づく。USBキーの側面にはシリアルナンバーが記されていた。
解読したメールから、フィリップが“アンティゴネー”という極秘計画を実行していたことがわかる。“アンティゴネー”は赤ん坊の名前で、〈イタークス〉が体外受精に協力し、胚移植前にDNAに手を加えて誕生したゲノム編集ベビーだった。
聴取に応じたモレッティは、赤ん坊の両親に先天性の希少疾患があったことを告げ、遺伝子操作によって遺伝性疾患を根絶するための実験だったことを明かす。そしてこの実験の成功によって多くの人を救えると豪語する。アストリッドは彼の考えを「論理的」として支持するが、ラファエルに「命は数学じゃない」と諭される。
被害者のフィリップ自身も、希少遺伝性疾患であるミュラー運動失調症を患っていた。25歳で発症し余命宣告されたフィリップは、アンリエット・ラックスという女性を伴って中国へ渡航。アンリエットは彼から金を受け取り、代理母出産をしていた。
生まれた子どもはフィリップのクローンで、彼を救うためだけに作られたという。だが赤ん坊に心を奪われたフィリップは、その子にサシャと名付けて連れ帰り、息子として育てたのだった。
サシャの恋人で看護師のカミーユは、サシャが1年前にがんを患い、治療を拒んで緩和ケア科に来たことを打ち明ける。ラファエルはサシャが入院する病院を訪れ、彼から事件の真相を聞き出す。
サシャは病気になって、自分が不完全な人間であることを知ったという。恋人のカミーユの勧めで親子鑑定をしたが、その結果は鑑定不可。どちらも同一人物のDNAだった。残酷な真実に打ちのめされたカミーユは、フィリップを公園に呼び出し、彼を殺そうとした。現場に駆けつけたサシャは彼女から刃物を取り上げ、フィリップを刺したと明かす。
アストリッドは突然訪ねてくる弟のニルスに手を焼き、「突発的な出来事には対応できない」と戒める。だがニルスが父親と同じクセを持っていることに気づき、彼を家族として受け入れようとする。
チェスのトーナメント大会で、優勝候補の1人だったミカエル・コロレヴァが対局中に突然倒れ、その場で亡くなる。会場にいたウィリアムと兄のポールは毒殺と見て、警察に通報する。
チェスの駒から毒が検出され、被害者のポケットからは謎めいた赤い“ビショップ”の駒が見つかる。ライバルたちを疑ったアストリッドとラファエルは大会を見学し、ミカエルの対局相手だったシュン・ナイトウが不正をしていることに気づく。だが不正を暴いた直後、ナイトウはホテルの部屋の窓から転落死してしまう。彼の喉には赤い“クイーン”の駒が詰め込まれていた。
アストリッドは保管された資料の中から、2年前に元チェスプレーヤーのマルキュス・コニグが自宅で変死した事件を見つけ出す。事件現場を撮影した写真を拡大すると、チェス盤に赤い“ナイト”の駒が置かれていた。ラファエルは同一犯による犯行と見て、3人の被害者の共通点を探ることに。
被害者のミカエルとナイトウは、死亡した朝に荷物を受け取っていた。その中身が赤いチェスの駒だと推測したラファエルは、ミカエルの姉・イヴァナのもとにも荷物が届いたと知り、彼女が滞在するホテルへ急行する。イヴァナはプールのロッカーで感電するが、ラファエルとニコラに発見されて一命を取り留める。
イヴァナが使用したロッカーの番号が「C4」だと知ったアストリッドは、それがチェス盤のマスを示していることに気づく。イヴァナに送りつけられた駒は“ルーク”で、ロッカー番号は「C4」。ミカエルの駒は“ビショップ”で、彼が死亡時に座っていたテーブルは「C1」。ナイトウの駒は“クイーン”で、転落したのは3階の左から4つ目の窓「D3」。そして2年前に死んだコニグは“ナイト”と「F2」。各殺人で示されたのは、チェスの対局だった。
ニコラは犯人が送りつけた赤い駒について調べ、「ロシアン・ザグレブ」と呼ばれる1988年に作られたセットだと突き止める。しかし現在は製造中止になっており、販売元を特定することができなかった。
アストリッドは〈社会力向上クラブ〉のメンバーに協力を頼み、ポールが購読していた過去のチェス雑誌に掲載されている対局の中から、各殺人で示された4つの指し手を探す。すると、2013年の企画で4人と同時に対局したカンタン・デフランジュというチェスプレーヤーが浮上する。
そのときデフランジュと対局したのが、コニグ、ミカエル、ナイトウ、イヴァナの4人だった。そして各殺人で示された4つの指し手は、それぞれの対局の最後の指し手であることがわかる。
チェス界のダークホースで優勝候補だったデフランジュは一晩かけて4人と対局し、全員に勝った。だが疲労困憊した彼は帰りの車で交通事故を起こし、大会を辞退。事故の後遺症で復帰できず、キャリアを絶たれたのだった。
ノラはデフランジュが経営する店を捜索し、1998年版の赤いロシアン・ザグレブを発見。中身を見ると、ナイト、ビショップ、ルーク、クイーンの4つの駒が欠けていた。
デフランジュの希望を受け、アストリッドが彼と話すことに。デフランジュは「奴らを脅したかっただけ」と告白。2年前にコニグと会い、そのときに10年前の4人同時対局が罠だったことを知らされたと話す。大会で優勝したかった彼らは、薬を盛ってデフランジュを陥れたのだ。コニグがうつ病を患ったのは罪悪感が原因だった。
アストリッドは週1回、火曜の夜だけニルスを預かることに。慣れない子どもの世話に困惑するアストリッドだったが、ニルスがぶつける質問には裏がないことを知り、会話は思いのほかスムーズに進む。
SNSで有名な環境活動家クレマン・スラノヴスキーが、デモ中に街頭で刺される事件が発生。逮捕された犯人の女性は2021年4月13日生まれのアンドレア・マルタンと名乗り、2059年からタイムトラベルで来たと突飛な証言を始める。
精神を病んだ女性による突発的な行動として捜査を終了させようとする警視正に対し、ラファエルは動機を探るために捜査を続行。スラノヴスキーが団体メンバーとともに共同生活していた農場を訪れ、スラノヴスキーとともに団体を設立したコンチェッタ・トラヴィスの遺体を発見する。
トラヴィスは石油会社〈オペラ社〉の不正を調査しており、その機密情報が保存された彼女のパソコンが現場から持ち去られていたことから、ラファエルはオペラ社の関与を疑う。
アンドレアは、スラノヴスキーが出世のために環境活動を利用していると語り、自分の母親が彼にレイプされたとラファエルに打ち明ける。2人を会わせようと考えたラファエルだったが、検事の指示でアンドレアの身柄は送検され、彼女は移送中にこつ然と姿を消してしまう。
アストリッドは2020年にシャルロット・マルタンという女性がスラノヴスキーから性的暴行を受け、被害届を出していた事実を見つけ出す。だがその後、彼女は圧力をかけられ被害届を取り下げていた。
シャルロットの両親によると、彼女は思春期に精神疾患の診断を受け、2年前から音信不通になっていたという。ラファエルはアンドレアがシャルロットであると確信する。
オペラ社の社長はデータ改ざんの事実を認め、公になるのを恐れてスラノヴスキーらに口止め料1500万ユーロを提示し、取引を持ちかけたことを明かす。だがトラヴィスは取引に消極的だったという。
オペラ社はスラノヴスキーとトラヴィスにGPSトラッカーを仕込んでいた。ラファエルはそのトラッカーを回収して2人の行動を追跡し、スラノヴスキーが農場でトラヴィスを殺害したことを突き止める。
シャルロットはレイプでスラノヴスキーの子供を妊娠し、2021年4月13日に匿名出産していたことがわかる。娘の名前はアンドレアだった。ラファエルは里親と暮らしているアンドレアに会いに行き、彼女の左手首にシャルロットと同じ引っかき傷があることに気づく。
アストリッドは、弟のニルスが学校でケンカをし、その原因が自分への悪口だったと知って困惑する。さらに学校に通報されたことで、児童相談所から訪問調査を受けることに。アストリッドは「私を守るのは自由ですが、暴力ではなく言葉を使いましょう」とニルスに話す。
「あなたはニルスの“指ぬき”よ」というラファエルの言葉に、自信を取り戻すアストリッド。児童相談所からも「あなたは適任」だと言われ、安堵する。
ニルスの母アンヌと面会したアストリッドは、彼女ががんに侵されていることを知らされる。
ハロウィーンの夜、ブルターニュの実業家の息子エルワン・ル・トレアシュがパリのバーで死んでいるのが見つかる。彼は2年前に交通事故で死んだとされていたが、ラファエルたちが墓の中の遺体を確認すると全くの別人と判明。当時、遺体を診たグウェンダル・ルルー医師から話を聞こうとするが、彼はグワドムール村の診療所で首を吊って自殺してしまう。
ラファエルとアストリッド、フルニエの3人は、エルワンの故郷でもあるグワドムール村へ向かい、捜査をすることに。地元の憲兵隊によると、ルルー医師はエルワンの名付け親で、エルワンが10代の頃に兄と喧嘩して家を追い出された後、彼の面倒を見ていたという。
グワドムール村には、エルワンの母と双子の妹ソアジグが住んでいた。10年前、エルワンの兄で跡継ぎでもあったロイックが階段から転落して亡くなり、家族は壊れてしまったという。診療所でロイックの死亡診断書を見つけたアストリッドとフルニエは、死因に疑問を抱く。3人はロイックの遺体を掘り起こし、頭を殴られて殺されたと確信する。
アストリッドたちは宿泊先の館で、エルワンが隠れ住んでいた痕跡を見つける。彼はジュスタン・ベリエと名乗ってワルシャワで暮らしていたが、妹のソアジグからの手紙を受け取って帰国し、ルルー医師の手引きでこの館に隠れていたのだ。
ラファエルに問い詰められたソワジグは、兄のロイックを殺したのは自分だと打ち明ける。彼女は14歳の頃からロイックにレイプされていた。エルワンはルルー医師に「ロイックを殺した」と嘘をついて協力を頼み、転落事故を偽装させたのだ。
だが2年前、ルルー医師は酒に酔ってエルワンの父クリスチャンに秘密を漏らしてしまった。クリスチャンはロイックを殺したエルワンを許せず、事故を偽装して彼を追放した。
ソアジグがエルワンを呼び戻したのは、父に真実を打ち明け、誤解を解くためだった。だがクリスチャンとは連絡がつかず、代わりに弟のヤンがエルワンからの電話に出た。エルワンはヤンをバーに呼び出して真実を話したが、ヤンは信じようとせず、家族を壊したエルワンを恨んで瓶で殴り、殺害したのだった。
がんを患ったアンヌは、治療のためトゥールーズにある専門の施設に移送されることになり、ニルスと伯父も引っ越すことに。別れの日、アストリッドは父の写真をニルスに手渡す。
ラファエルが交通事故に遭ったという連絡を受け、アストリッドは動揺する。病院に搬送されたラファエルは、事故に遭う前の4日間の記憶を失っており、なぜ事故に遭ったのかも覚えていなかった。
ラファエルが乗っていた車の助手席には、剛腕で知られたサッカー選手の元代理人ジャン・マルク・ルーヴェがいたが、彼はラファエルの銃で撃たれて死んでいた。ルーヴェは10年前に事件を起こすも不起訴となり、「人身売買の黒幕」となじったラファエルを訴えて接近禁止命令を勝ち取っていた。
何も覚えていないラファエルだったが、「撃つわけない」と無実を主張。事件の捜査はリヨン司法警察のシモニ警視に任されるが、ラファエルを信じるバシェール警視正は「数時間で無実を証明しろ」と密かにラファエルに捜査を命じる。
アストリッドとともに捜査を開始したラファエルは、コートのポケットの中から“ル・ミロンガ”と書かれたライターを見つけ、その店で聞き取りを行う。店員によると、ラファエルは昨日の夕方来店し、ある男と会って酔いつぶれていたという。
ラファエルはかすかな記憶を頼りに店の外の路地を歩き、ルーヴェの殺害現場を発見する。そこでラファエルの携帯電話も見つかるが、ルーヴェを呼び出すメッセージを送っていたことがわかり、思わず携帯を置いてその場を立ち去る。
帰宅したラファエルは、家に侵入してきた怪しい男を捕まえる。その男は、病院でラファエルの荷物を探っていた偽看護師だった。だが男は痕跡を消して逃亡、シモニ警視はラファエルの言葉を信じず、逮捕しようとする。
警察から逃げたラファエルは、ニコラやウィリアム、アストリッドの手引で犯罪捜査局に身を隠す。アストリッドはルーヴェが代理人を務めたサッカー選手の中から、今年の7月に自殺したディエゴ・ラッソに注目する。
ラファエルはフルニエの検査を受け、事故前に強力な抗不安剤を飲まされていたことがわかる。さらに、ルーヴェの運転手が、自殺したディエゴの父ニーノ・ミュニエズだと判明する。
ラファエルが持っていた“ル・ミロンガ”のライターは、ライターに見せかけたUSBだった。中身を調べると、サッカー界のスターや大富豪、政治家らの口座情報が入っていた。ミュニエズはルーヴェがその資金洗浄網の調整役であることを告発しようとしたのだ。ラファエルの病室や家に侵入した男はルーヴェの手下で、USBを取り戻そうとしていたのだった。
ミュニエズは、息子が飛び降りたビルの屋上で発見される。説明を求めるラファエルに、復讐のためにルーヴェに近づき、資金洗浄を告発して殺害する計画だったと打ち明けるミュニエズ。だが“ル・ミロンガ”でラファエルに殺害を止められ、強行するために彼女に薬を飲ませて銃と携帯を奪い、ルーヴェを呼び出して殺害したのだった。
2週間後。ラファエルとニコラ、アストリッドとテツオは、レストランでダブルデートをすることに。ラファエルは記憶を失っている間にニコラと関係を持っていたことがわかり、「ゼロから始める」ことを条件に付き合うことになったのだ。アストリッドは今夜、テツオを家に泊めようと決意していた。
だがその夜、ラファエルは妊娠していることがわかり、どう受け止めていいかわからず困惑する。そしてテツオは、大学の奨学金が停止され東京に帰ることをアストリッドに伝えられずにいた。
シーズン5について
「アストリッドとラファエル」シーズン5は、現在撮影中とのこと。前半4話分を2023年11月から撮影し、残り4話分は2024年3月から撮影予定だそうです。フランスでの放送は2024年の後半に予定されています。
キャストはアストリッド役のサラ・モーテンセン、ラファエル役のローラ・ドヴェール、ニコラ役のベノワ・ミシェル、テツオ役のケンゴ・サイトウなどおなじみのメンバーのほか、今シーズンからレギュラーに加わったノラ役のソフィア・ヤムナも続投。
シーズン5の内容についてプロデューサーが明かしたところによると、アストリッドとラファエルたちがシークレット・サービスと協力してプロの殺し屋を追ったり、満月の間に危険な変身を遂げる犯罪者と対決したり、アステカ族の最後の末裔と肩を組んだり…。さらに、モルモン教などの宗教色の強いエピソードも描かれるそうです。
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