WOWOWの連続ドラマ「事件」(全4話)についてまとめました。
元エリート裁判官の弁護士が残酷な真実に立ち向かう法廷サスペンスドラマ。大岡昇平の不朽の裁判小説「事件」を、舞台を昭和から令和に移してドラマ化。
トラウマを抱える主人公・菊地大三郎を椎名桔平さんが演じます。監督は「インフルエンス」「絶叫」など重厚な人間ドラマを手掛けてきた水田成英氏。
ドラマはとても面白かったのですが、原作が1960年代に書かれたものなので、時代設定を令和に変えても、ストーリーの要所要所から「昭和の匂い」が立ちのぼってきます。
その違和感をスルーできれば楽しめると思います。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOW
- 放送時間:2023年8月13日(日)から毎週22:00~ほか
- 原作:大岡昇平『事件』
- 脚本:三田俊之/保木本真也
- 監督:水田成英
- 音楽:横山克
あらすじ
ある資材置き場で刺殺体が発見される。被害者は地元で細々とスナックを経営する20代女性。程なく被害者の幼なじみで19歳の青年が殺人および死体遺棄の容疑で逮捕された。青年の弁護は、ある裁判を機に過去にとらわれ、“真実”に背を向けた元裁判官の弁護士・菊地大三郎(椎名桔平)に託された。青年の自白もあり、すぐに判決が下る単純な裁判だと思われたが、検察での取り調べから一転、裁判で青年は殺意を否認する。青年のことを調べるうちに、再び“真実”と対峙する菊地。やがて法廷では意外な事実が次々と露見し、裁く者を惑わせる。果たして青年は、本当に「人殺し」なのか――。
WOWOW公式サイトより
原作について
このドラマの原作は、大岡昇平氏の推理小説『事件』です。
1961年から翌年まで朝日新聞で「若草物語」の題で連載。加筆修正ののち、1977年に「事件」と改題して刊行されました。戦後を代表するベストセラーで、1978年に第31回日本推理作家協会賞を受賞しています。
1978年には野村芳太郎監督により映画化され、日本アカデミー賞作品賞など数々の賞を受賞しました。
原作者の大岡昇平氏は、「裁判所と裁判官によって判決が違うのでは、裁判自体も偶然的な“事件”ではないか」という思いを「事件」というタイトルに込めたそうです。
登場人物(キャスト)
高橋・坪田法律事務所
菊地大三郎(椎名桔平)
元裁判官の弁護士。優秀な裁判官だったが、5年前に自身が有罪判決を下した被疑者が冤罪を訴えて自殺を図り、それ以来トラウマを抱え法廷に立っていない。裁判は一切請け負わないと決めていたが、上田宏の言葉に心を揺さぶられ、彼の弁護を担当することを決意する。
高橋茂樹(髙嶋政宏)
菊地が所属する〈高橋・坪田法律事務所〉の代表弁護士。企業案件専門。菊地とは大学時代からの親友。菊地に再び法廷に立って欲しいと願い、上田宏の弁護を任せる。
坪田真紀子(ふせえり)
菊地が所属する〈高橋・坪田法律事務所〉の弁護士。高橋と共に事務所を営む。菊地が今回の事件を担当することについては否定的。
大崎志那子(貴島明日香)
〈高橋・坪田法律事務所〉のクラーク。事務所が普段扱わない刑事事件を引き受けたことで、密かに関心を持っている。
事件の関係者
上田宏(望月歩)
大学生。恋人・佳江の姉である坂井葉津子を殺害し、死体を遺棄した容疑で逮捕された。当初は犯行を自供し、絶望的になっていたが、菊地との出会いにより希望を見出す。
坂井葉津子(北香那)
被害者。〈大村建総〉の資材置場で胸にナイフが刺さった状態で亡くなっているのを発見される。高校を中退後、家を出て歌舞伎町のキャバクラに勤務。派手な生活を送っていたが、突然地元に帰ってきてスナック〈白磁〉をオープンさせた。容疑者の上田宏とは幼馴染だった。
坂井佳江(秋田汐梨)
上田宏の交際相手。宏の子供を妊娠している。姉の葉津子から中絶を勧められ、事件当日に宏と2人で家出をして同棲を始めていた。宏の無実を信じている。
坂井すみ江(いしのようこ)
坂井葉津子と佳江の母親。夫とは死別している。経済的に苦しみながらも、女手一つで二人の姉妹を育てた。葉津子が家を出てからは疎遠になり、地元に戻ってきてからも「私の知ってる葉津子じゃなかった」と語る。
上田喜平(堀部圭亮)
上田宏の父親。代々続く大地主で、現職の市議会議員。宏を厳しく束縛し、家柄を理由に坂井佳江との交際に反対する。
宮内辰哉(高橋侃)
坂井葉津子の元交際相手。葉津子とは歌舞伎町でホストをしていた頃に出会い、葉津子の店にも入り浸っていた。葉津子が地元に戻って店を出すと、後を追うように引っ越してきた。
桜井京子(仁村紗和)
宮内の現在の交際相手。スナックを経営している。
大村吾一(中村シユン)
〈大村建総〉の経営者。坂井葉津子の遺体の第一発見者。葉津子の店の常連客で、葉津子とある契約を交わしていた。
そのほか
岡部梢乃(入山法子)
今回の事件を担当する検察官。神奈川地検でいちばん勢いのあるエース。法廷で被告人・上田宏を厳しく追及する。
谷本一夫(永島敏行)
今回の事件を担当する神奈川地裁所属の裁判長。かつての菊地の上司でもある。5年前の判決で菊地が自信を喪失した際に、言葉を投げかけた。厳格な法律家。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
2023年2月。弁護士の菊地大三郎(椎名桔平)は、経営者の高橋茂樹(髙嶋政宏)からある事件の弁護をしてほしいと頼まれる。被疑者は高橋が企業法務を担当している市議会議員の息子・上田宏(望月歩)で、殺人と死体遺棄の容疑をかけられているという。
5年前の出来事以来、法廷に立つことを拒み続けてきた菊地だったが、高橋に説得されてひとまず上田宏と面会することに。宏は「どうでもいい。どうせ僕の話なんて誰も信じない」と言い放ち、菊地はその言葉に心を揺さぶられる。
5年前、裁判官だった菊地は佐藤友義という被疑者に有罪判決を下した。彼は法廷で「どうせ誰も信じない」と吐き捨て、菊地宛に冤罪を訴える遺書を書き残し、収監先で首を吊って自殺したのだった。
その夜、上田宏は留置場の壁に自ら額を打ち付け、病院に運ばれる。意識を取り戻した宏は、駆けつけた菊地に「恋人の姉を殺してしまった事実が苦しくて耐えられない」と話す。被害者の坂井葉津子(北香那)は、宏の恋人・坂井佳江(秋田汐梨)の姉で、3人は幼馴染だった。佳江は菊地の子供を妊娠しており、宏が姉を殺すはずがないと訴えていた。
佳江の妊娠が発覚した後、2人は家族に内緒で横浜に出て同棲する計画を立てていた。上田はかねてから父親の上田喜平(堀部圭亮)に交際を反対されており、葉津子が妊娠や同棲のことを父親に告げ口するのを恐れて殺害したと自供していた。菊地は宏に生きてほしいと願い、彼の弁護を引き受けることを決意する。
菊地は上田と面会し、犯行時の記憶がないことを聞き出す。上田は葉津子を脅すつもりでナイフを取り出したが、刺したときのことは覚えておらず、気がつくと目の前に葉津子が倒れていたという。
弁護方針について、高橋は殺人を認めて情状酌量で刑期短縮を狙うべきではないかと助言するが、菊地は上田に殺意がなかったことを信じ、裁判で無罪を主張することを決める。
2023年8月。第1回公判において、菊地は被告人・上田宏の無実を主張する。一方、検察官の岡部梢乃(入山法子)は、宏の恋人・佳江の妊娠をめぐって被害者・坂井葉津子との関係が悪化していたことを陳述。宏は事件当日の1月28日に登山ナイフを購入し、金田町へ行くという葉津子を自転車に乗せ、途中の資材置場で口論の末にナイフで殺害したと説明する。
菊地は事件当日に2人が会ったのは偶然だとし、宏が葉津子を自転車に乗せたのも、途中で資材置場に立ち寄ったのも、葉津子に頼まれたからであり、宏に計画性はなかったと反論する。そして宏には葉津子を殺す動機がないと指摘する。
検察側の証人として、遺体の第一発見者・大村吾一(中村シユン)が呼ばれる。大村は事件当日に資材置場に通じる坂道で上田とすれ違っており、そのときの宏の様子を「上の空で顔色が悪かった」と証言する。
菊地は葉津子が資材置場にいたのは大村と会うためだったと説明。葉津子のSNSには、常連客である大村の未収金がメモされた手帳が映り込んだ写真が投稿されており、その金額はきっかり10万円だった。
菊地に追及された大村は、葉津子と月10万円で愛人契約を結んだことを認める。持ちかけてきたのは葉津子の恋人・宮内辰哉(高橋侃)だった。その後、宮内から20万にしろと言われ、金を払わなければ家族にバラすと脅されたことを明かす。
大村は最後に20万円払って契約を終わらせるつもりだったと言い、事件当日、波津子にその金を渡すために資材置き場に行ったと話す。約束の時間は午後5時で、それは葉津子が殺された時刻だった。
第2回公判当日。検察側の証人として、宮内辰哉が出廷する。宮内は歌舞伎町のキャバクラで葉津子と知り合い、付き合い始めたという。そして葉津子が松野市に引っ越して店を出すと、宮内も松野市に引っ越してきて店を手伝うようになった。
宮内は事件の8日前、宏と佳江が店にやってきて、妊娠の件で葉津子と口論になったと証言する。そのときの宏は殺気立っていた、と。
菊地は宮内が金に困っていた一方で、葉津子に500万円もの大金を貸していたことについて追及する。その金は宮内が手切れ金として提示したもので、宮内と縁を切りたかった葉津子は仕方なく誓約書にサインしていた。
そして大村との愛人契約は、その手切れ金の支払いに当てるために宮内が提案したものだった。事件当日、葉津子は宏と会う前に宮内の家を訪ねていた。そのとき彼女とどんな話をしたのか問い詰める菊地だったが、宮内は「言い合いになったがすぐにおさまって、一緒にビールを飲んだ」と話す。だが葉津子の司法解剖の結果では、アルコールは検出されていなかった。
葉津子と言い合いになった理由を尋ねると、宮内は宏との関係を問い詰めたから
だと話す。そして宏と葉津子がホテルに入るのを見たと証言する。
菊地は「発言に一貫性がない」と宮内を問い詰め、事件への関与を疑うが、宮内は「俺があいつを殺すわけない」と苦悶の表情を浮かべる。
公判の後、宏は葉津子とホテルに行ったことを認めるが、葉津子とは何もなかった、彼女のことは好きでもなんでもない、と菊地に告げる。
菊地の過去がSNSで拡散され、事務所に苦情の電話が殺到する。依頼人である宏の父・喜平は今すぐ菊地を辞めさせろと激高するが、高橋は「殺人罪を無罪にできる人間はお前しかいない」と菊地に担当を続けさせる。
第3回公判当日。弁護側の証人として葉津子の妹・佳江が出廷する。検事の岡部から宏と葉津子の関係について追及された佳江は、感情的になり、宏が葉津子につきまとわれて迷惑がっていたと発言してしまう。
菊地は宮内の現恋人・桜井京子(仁村紗和)に会いに行く。京子は事件当日、葉津子が宮内を訪ねてきた現場に居合わせていた。
京子によると、葉津子は大村との愛人契約を終わらせると宮内に告げに来たという。そして宮内とも別れ、昔の自分に戻りたいと。怒った宮内は葉津子が宏とホテルに行ったことを指摘し、彼女を罵った。
泣き出した葉津子をなだめようと、宮内は酒を取り出して3人で飲もうとしたが、葉津子は隙を見て出ていった。葉津子を追いかけていった宮内は1時間後に帰宅したが、顔面蒼白で服には血痕が付いていたという。
菊地は坂井家を訪ね、葉津子の母・すみ江(いしのようこ)から、葉津子が家を出て東京へ行った本当の理由を聞き出す。葉津子は高校生のとき、家賃の取り立てに来た不動産屋の男にレイプされていた。すみ江はその現場を目撃したが、「半年間家賃をタダにしてやる」という条件を受け入れ、警察には通報しなかった。葉津子の遺影に向かって、「ごめんなさい」と泣いて謝るすみ江。
第4回公判当日。弁護側の証人として出廷した宮内は、「葉津子を殺したのは俺です」と発言する。
2017年。自宅で不動産屋の男に犯され家を飛び出した葉津子は、たまたま見かけた宏に声をかけ、キスをする。驚く宏に「じゃあね」と告げて立ち去る葉津子。
現在。第4回公判で弁護側の証人として出廷した宮内は、事件当日、葉津子を追って資材置場へ行ったことを認める。監視カメラには、葉津子を追う彼の姿が映っていた。
宮内は宏がポケットからナイフを出し、葉津子を刺したところを見たと供述する。菊地は尋問を中断し、宮内の証言を基に現場検証のやり直しを求める。その結果、宮内がいた位置からは、宏がナイフを出したかどうかは見えないことが判明する。
尋問が再開され、宮内は真実を語り始める。葉津子が宏に詰め寄り、抱きついたのだという。葉津子は自分からナイフに飛び込んだのだ。宮内がこれまで真実を話そうとしなかったのは、前科者の自分が疑われるに違いないと思ったからだった。宮内は「俺が葉津子を殺したようなものです」と泣きながら告げる。
現場検証に立ち会った宏は失った記憶を取り戻すが、法廷では黙秘を貫く。自首しようとは思わなかったのか、という裁判員からの質問に、宏は「佳江を悲しませたくなかった」と答える。
検察官の岡部は、葉津子が抱きついてきたときに宏がナイフを引かなかったことや、彼女を介抱せずに人目につきにくい場所へ運んでブルーシートを被せて遺棄したこと、記憶喪失という虚偽の理由で犯行をごまかそうとした態度に反省が見られないとして、懲役15年を求刑する。
一方、菊地は葉津子が借金や愛人契約などで心身ともにぼろぼろだったこと、唯一の救いだった宏からナイフを向けられ、自殺する動機が揃ったと説明。宏に殺意はなく、死体遺棄についてのみ有罪だと主張する。そしてかつて菊地自身が谷本判事(永島敏行)から受け取った「人間は間違えるものだ」という言葉を口にする。
拘置所に戻った宏は、事件当日の葉津子とのやりとりを思い出す。葉津子は宏を資材置場に連れていき、「一緒に逃げよう。遠いところで2人でやり直そう」と持ちかけたのだった。「佳江は私の代わりだったんでしょ?」と指摘され、激しく動揺した宏はポケットからナイフを取り出し、葉津子を止めようとした。
葉津子に「私のこと、嫌い?」と聞かれ、「嫌いだ」と答える宏。葉津子は宏の手を取り、自らナイフに飛び込んだ。そして宏にキスをすると、「じゃあね。全部忘れて」と告げて崩折れたのだった。
判決当日。宏は懲役5年を宣告される。傷害致死と死体遺棄の罪を認め、殺人罪の成立を認めることは困難であると判断された。事実上、殺人罪については無罪と判断されたのだ。宏と面会した菊地は、「生きていれば、生きていてよかったと思うことが必ずある」と告げる。
半年後。佳江は生まれたばかりの子どもを抱いて姉・葉津子の墓参りに行き、宮内と出会う。葉津子のことを嫌っていただろう、と問う宮内に、佳江は昔から姉に憧れていたこと、何をやっても勝てなかったこと、姉が持っていると何でもいい物に見えたことを話す。
菊地は多くの刑事事件を抱え、忙しい日々を送っていた。上田宏の事件は菊地でなければ違う結果になっていただろうと言う高橋に、菊地は自分だけでなく、裁判官や検察官、裁判員も同様だと言い、裁判ももう一つの「事件」なんだと語る。
感想(ネタバレ有)
菊地弁護士は、どういう気持ちなのでしょう。
裁判に勝ったのだから、うれしいでしょう。でも、菊地はたぶん真実に気づいているはずです。
宏が話さなかったこと。話せなかったこと。彼が抱える罪の重さも、悲しみも、後悔も、未来への不安も。
それでも、宏に生きてほしかったのでしょう。できるかぎり彼の罪を軽くして、やり直してほしかったのだと思います。
彼を救うことで、菊地自身も救われるから。
宏が本当に愛していたのは、昔から葉津子だったんですね。彼が何度も「大好きな人」と言っていたのは、佳江ではなく葉津子のことだった。
そして佳江も、そのことを知っていた。もしかしたら、佳江だって、宏のことを本当に愛していたかどうかわからない。
ただ、宏は記憶を取り戻した後も、法廷で真実を語りませんでした。
佳江と生まれてくる子どものために、葉津子との関係を一生隠し通す覚悟を決めたのだと思います。
菊地弁護士はどういう気持ちなのでしょう。
裁判に勝って、晴れやかな気持ち? 宏を救うことができて、ほっとした? 過去のトラウマを克服できて、未来が拓けてうれしい?
あまりにも重すぎる秘密を抱えたまま、刑期を終えて佳江と子どものもとに戻る宏のことを思うと、わたしには、「よかったね」と素直に喜ぶことができませんでした。
もちろん未来のことなんて「わからない」し、3人が幸せに暮らせる場所がこの世界のどこにもないとは思わない。
でも、この隠しごとは、ひとりの人間が抱えるには重すぎます。
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