北欧ドラマ「8人の容疑者~誰がオット・ミュラーを撃ったのか~ 」(全8話)についてまとめました。
バルト海に面した国エストニアで生まれた、正統派の殺人ミステリー。IMDbの評価は7.0。
金も権力も腕力もあったミュラーと家族のいびつな関係が、各関係者の異なる視点から少しずつ浮かび上がっていきます。
1話につき1人ずつ取り調べが進む中で、刑事2人の素性も明らかに。はたして、嘘をついているのは誰なのか?
刑事ガブリエル役を演じるのは、エストニアを代表する実力派男優タンベット・トゥイスク。
日本のテレビではあまり見ることができないエストニアの風景や文化も見どころです。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOW
- 放送時間:2022年12月5日(月)から毎週月曜23:00~ほか
- 製作国:エストニア(2022年)
- 原題:Kes tappis Otto Mülleri?
あらすじ
元レスリングチャンピオンである大物実業家オット・ミュラーは65歳の誕生日である10月15日、額を銃で撃たれて殺される。事件を担当することになった刑事コンビ、ガブリエルとアグネスは、銃を握ったまま犯行現場にいたミュラーの次男オリヴェルを容疑者とみて事情聴取する。彼は犯行を否定しつつ、その日、ミュラーの誕生日を祝おうと集まった、自分を含む関係者たちに関する記憶をたどる。オリヴェルはその日、元妻との間にできた息子を名乗る青年ロベルトに初めて会ったこと、父オットや兄オスカルとうまくいっていなかったことなどを語る。その後もガブリエルとアグネスは、時に意見を戦わせつつ、関係者をひとりずつ取り調べていく。果たして事件の真相は……。
WOWOW公式サイトより
予告動画
登場人物(キャスト)
※一部ネタバレを含みます
オット・ミュラー(ヤーン・レッコル)
大物実業家。空港と港湾の運営会社の代表で、大手製材所の株主でもある。また、ソ連時代はレスリングのチャンピオンとしても名をはせた著名人。65歳の誕生日に額を銃で撃たれて殺される。捜査を進めるうち、家族とのいびつな関係が浮かび上がってくる。
オリヴェル・ミュラー(マルト・アヴァンディ)
オットの次男。工場で働きながら、妻のモニカと賃貸アパートで暮らしている。音楽を愛する優しい性格だが繊細で傷つきやすく、それゆえに父に嫌われ、存在を否定され続けてきた。銃を握ったまま犯行現場にいたことから、第一容疑者となる。
オスカル・ミュラー(マイト・マルムステン)
オットの長男。オリヴェルの兄。オットの下で取締役として働いている。かつては十種競技の有望選手だったが、チャンピオンにはなれなかった。決して超えられない父の存在と、父からの理不尽な仕打ちに葛藤を抱えている。
マルレーン・タム(カルメル・ナウドゥレ)
オットの愛人で、彼の死亡保険金の受取人。事件が起きた夜、オットに招かれて誕生パーティーに出席し、彼の家族と初めて対面した。小さな町の出身で、かつては裕福だった実家は祖父の失踪により落ちぶれた。
メルレ(リーナ・テンノサール)
オットの妻で、オリヴェルとオスカルの母。セラピスト。教養を備えた名家の令嬢で、父親の反対を押し切ってオットと結婚した。横暴な夫の振る舞いや、息子たちの問題、自身の病など多くの悩みを抱えている。
アンネケン(ヒリエ・ムレル)
オスカルの妻。屋敷の家事を引き受けている。人里離れた森で育ったため、野性的でたくましい。森の中でオットを救い、オスカルとの結婚を手に入れた。家族の幸せのために、ひそかに計画を企てる。
モニカ(エヴェリン・ヴイゲマスト)
オリヴェルの2番目の妻。ぜいたく好きで、オットに金を無心している。オリヴェルとの夫婦仲は冷え切っているように見えるが、実はある苦しみを抱えて人知れず悩んでいる。
レーリ(ティーナ・タウライテ)
オリヴェルの最初の妻で、ロベルトの母。元バイアスロン選手。18年前にミュラー家を出て以来、一族との接触を絶ってきた。事件の夜、息子のロベルトを迎えに屋敷を訪ね、ディナーに同席していた。
ロベルト(テオドル・タボル)
オリヴェルの息子を名乗る18歳の青年。母親はオリヴェルの最初の妻レーリ。事件の日に突然ミュラー家を訪ねてきて素性を明かし、オットの誕生パーティーに加わった。
ガブリエル・ヴァネム(タンベット・トゥイスク)
事件の捜査を担当するベテラン刑事。仕事熱心で、職務に誇りを持っている。アグネスとの信頼関係を築きつつ、関係者をひとりずつ取り調べていく。
アグネス・マラマー(ドリス・ティスラル)
事件の捜査を担当する刑事。以前は麻薬課に所属、殺人事件の捜査は今回が初めて。ガブリエルと時に意見を戦わせつつ、関係者の事情聴取を行う。父親は有名な弁護士で、オットの友人だった。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
大物実業家で元レスリングチャンピオンのオット・ミュラーが、自宅で頭を撃たれて殺害される。その日は彼の65歳の誕生日で、家族が集まりパーティーを開いていた。
事件の捜査を担当する刑事ガブリエルとアグネスは、殺害現場にいた次男のオリヴェルを署に呼んで取り調べを行うが、彼は「床に落ちていた銃を拾っただけ」と犯行を否定する。事件当日のことを詳しく話すよう促されたオリヴェルは、その日ミュラー家で起きたさまざまな出来事を語り始める。
オリヴェルは工場に勤め、妻モニカと2人で賃貸アパートに住んでいた。モニカはうだつの上がらない夫に愛想を尽かし、義父であるオットから金をもらっていた。繊細で心優しいオリヴェルだったが、オットは自分とは似ても似つかない彼に失望し、「期待はずれの息子」と嫌っていた。
事件当日、ロベルトという見知らぬ青年がミュラー家を訪ねてきた。彼はオリヴェルの最初の妻レーリの息子で、父親であるオリヴェルに会いに来たと話す。レーリが子供を産んでいたことを知らなかったオリヴェルは、突然現れた息子に驚きながらも喜びを隠せない。すぐに母メルレに話し、ロベルトをパーティーに参加させることに。
だがディナーが始まるとレーリが現れ、息子を連れて帰ろうとする。オットはレーリをディナーの席に招き、集まった家族の前で愛人のマルレーンを紹介する。
オリヴェルは父の残酷な仕打ちに憤り、ロベルトに「この家の人間と関わってはいけない」と忠告する。人生に絶望したオリヴェルは、リビングにあった銃で自殺を図ろうとするが、父のあざ笑う声を聞いて思いとどまる。
オリヴェルが自室に戻ると、オットとロベルトが歌を歌っていた。「息子に関わるな」と叫ぶオリヴェルに、火かき棒を振り上げるオット。それはいつものオットのやり方だった。
かつて、オリヴェルは両親の喧嘩を止めようとしてオットに殴られ、鎖骨を折って手術を受けたことがあった。そのせいでバイオリンが弾けなくなり、音楽学校に進む道を閉ざされたのだ。
今度こそ殺される、とオリヴェルが思ったとき、オットはオリヴェルの背後を見て「お前…」とつぶやいた。その直後、銃声が響き、オットは額に銃弾を撃ち込まれて倒れた。オリヴェルは床に落ちていた銃を拾い、振り向くと兄のオスカルが立っていた。
オリヴェルが手にしていた銃は、凶器ではなかったことが判明する。刑事のガブリエルとアグネスは、オットの長男オスカルを署に呼んで取り調べを始める。オスカルはオット殺害を否定し、事件当日に何が起きたのか語り始める。
父親の下で取締役として働くオスカルは、父の後を継いでトップになることを望んでいたが、オットはいっこうに引退する気配を見せない。それどころか息子であるオスカルを落後者だと決めつけ、後継者にふさわしくないと言い放つ。父と同じくかつては競技選手として名をはせたオスカルだったが、彼はどうしても優勝することができず、常に“二番手”だった。
オスカルは自分の権利のために父親と戦う決意を固めるが、そこへオリヴェルの息子を名乗るロベルトが現れる。新たな障害の出現に焦ったオスカルは、取締役たちに連絡してオットの健康上の問題を理由にトップの交代を提案する。
オットがディナーの席で愛人のマルレーンを紹介した後、オスカルは寝室でマルレーンと遭遇。彼女はオットの部屋と間違えて、オスカルのベッドで寝ていたのだ。マルレーンはシーツを体に巻き付けたまま外へ出て行き、彼女を追いかけて外へ出たオスカルは銃声を耳にする。部屋に入ると、ひざまずくオリヴェルの前でオットが倒れていた。
オスカルはオットが生命保険に入っていたことや、その保険金の受取人がマルレーンであることを明かし、彼女が殺したのではないかと話す。
オットの愛人マルレーンを尋問するガブリエルとアグネス。彼女は自らの貧しかった生い立ちを語り、オットとの出会いですべてが変わったと話す。
事件当日、オットから誕生パーティーに来てほしいと頼まれた直後、彼の妻メルレが部屋を訪ねてきた。メルレは「今夜うちに来ないでほしい」と告げ、あの人が何かを与えてくれるのは最初だけだと忠告した。
だがオットには逆らえず、マルレーンはパーティーに出向いた。オットは彼女を家族に紹介した後、オスカルに取締役を解任すると告げ、その後任にマルレーンを指名したのだった。
さらに、マルレーンはレーリとロベルトのことを以前から知っていたと話す。子供の頃、2人はマルレーンの家の隣に住んでいたのだ。当時、マルレーンはロベルトと賭けをしたことがあった。それは、どちらが先にオット・ミュラーに近づけるか、というものだった。
誕生パーティーの夜、ロベルトと再会したマルレーン。彼女がオットの愛人になっていることを知ったロベルトは、「君の勝ちだ」と言う。
マルレーンは逃げ出そうとするが、オットは彼女に船会社のCEOを任せると告げ、ある衝撃的な事実を明かす。彼が所有する船の名前は“風と嵐”、それはかつてマルレーンの祖父ルーカスが所有していた船だった。祖父から会社を奪い、一族を破滅させたのはオットだったのだ。
ルーカスは90年代に姿を消し、今も行方不明だった。オットが祖父の失踪に絡んでいるのではないかと疑いながらも、マルレーンは書類にサインした。
寝室を間違えてオスカルと遭遇した後、オットの部屋へ向かった。すると、モニカが金庫を開けようとしていた。彼女と口論になり揉めていたとき、銃声が響いた。急いで階下に下りるとオリヴェルがいて、オットがその前に倒れていたという。
身体的理由により、オリヴェルにオットを撃つことは不可能だと判明する。ガブリエルは、オットの本性を暴くことこそが犯行の動機につながると考えていた。
そんな中、アグネスはガブリエルの父親が港湾労働組合のリーダーであり、オットに解雇された人物であることを知る。ガブリエルもまた、アグネスの父親がオットの弁護士であることを知り、「なぜ黙ってた」とアグネスを問い詰める。
ガブリエルとアグネスは、オットと関わりを持つ自分たちの父親が、事件に関与していないことを確認し合う。そしてオットの妻メルレを署に呼び出して取り調べを行う。
名家の令嬢だったメルレは、ハンサムなオットに一目惚れし、父親の反対を押し切って結婚した。彼は特別な人間で、多くの敵を作っていたという。
事件前日の夜、メルレはオットから「新しい妻を迎える」と切り出されていた。彼は2人の息子たちをいずれも後継者とは認めておらず、「真のミュラーの血を引く子」を求めていた。だがメルレはオットの浮気には慣れており、どうせ長続きしないと考えていた。
翌朝、メルレは主治医から乳がんの告知を受け、ショックを受ける。だがそのことは誰にも話さず、夫の愛人マルレーンに会いに行った。彼女にオットの本性を伝えて諦めさせるためだったが、マルレーンはメルレの言葉を信じようとしなかった。
帰宅してサンルームで瞑想した後、オリヴェルからロベルトを紹介された。孫の存在を知らされて喜んだメルレがオットに知らせに行くと、彼は「知っていた」と言う。ロベルトを誕生パーティーに招いたのはオットだった。
ディナーの席でオットは家族にマルレーンを紹介したが、離婚しないことはわかっていた。すべてはオットの余興に過ぎないと。メルレは外に出た後、自室に戻り、そこで銃声を聞いたという。
警察での聴取を終えて屋敷に戻ったメルレは、オスカルの妻アンネケンと話す。アンネケンは「オットを殺したいとは思ってた」と告白する。
ガブリエルとアグネスは、オットの長男であるオスカルの妻アンネケンを聴取する。彼女は「オットを殺すつもりだった」と告白し、殺害を計画したことを明かすが、自分が実行する前に誰かに先を越されたと言う。
アンネケンは貧しい家に生まれ、人里離れた森で育った。その森で偶然オットと出会ったという。銃声が聞こえて見に行くと、顔にあざのある男が頭を撃たれて死んでいた。そしてオットが飢えたオオカミに狙われていた。アンネケンは銃を拾ってオオカミを撃ち、オットの命を救ったのだ。
私にとってオットは何でも望みを叶えてくれる金の魚、と話すアンネケン。彼女はオットの命を救った見返りにオスカルとの結婚を望み、現在の暮らしを手に入れたのだった。彼女が森の中で見つけた遺体は、失踪したマルレーンの祖父ルーカス・タムだった。
誕生日パーティーの前日、アンネケンはオットが自分たち夫婦をスペインに追い払おうとしていることを知る。さらに彼がメルレを捨て、愛人のマルレーンと新しい家族を作りたがっていると知り、オットの殺害を決意する。
アンネケンは殺鼠剤入りのコーヒーをオットのもとに運ぼうとした。しかしちょうどそのとき銃声が響き、モニカがオットの部屋から飛び出してきた。彼女は「マルレーンに殴られた」と言って顔をおさえていた。
アンネケンは銃声がした部屋には行かず、とりあえず毒入りコーヒーを片付けたという。モニカが誰かにオットを殺させたのではないか、と言うアンネケン。そして、「事件の前夜オットのオフィスであなたを見た」とアグネスに告げる。
ガブリエルは事件の前夜にオットと会っていたアグネスを問い詰める。アグネスは「事件とは関係ない」と言うが、ガブリエルは彼女を信用すべきか迷う。
続いて取り調べを受けたのは、オリヴェルの妻モニカだった。事件が起きた誕生パーティーの日、派手好きで浪費家の彼女はオットからもらった金で新車を買い、その車で屋敷にやってきた。そしてさらに5万ユーロ欲しいとオットに頼み込み、断られていた。彼のオフィスの引き出しから銃を盗んで脅そうとしたものの、その時点で銃はなかったという。
ロベルトの出現は、さらに彼女を追い詰めた。オリヴェルと知り合ったばかりの頃、モニカはミュラー家のパーティーに招かれ、オットにレイプされたことを打ち明ける。オットの子を妊娠した彼女は中絶手術を受け、子供が産めない体になってしまったのだった。彼女が要求する5万ユーロは、代理出産でオリヴェルとの子供を授かるための費用だった。
銃声がしたとき、モニカはオットのオフィスでマルレーンと言い争っていた、とアリバイを主張する。そして誰かを疑うならレーリだと語る。レーリはバイアスロンの元チャンピオンで、射撃の名手だった。
モニカと入れ違いにレーリが署に現れ、「私がオットを殺した」と自白する。
オットを撃ったのは自分だと主張し、逮捕を促すレーリ。彼女の自白に違和感を覚えるガブリエルとアグネスは、オリヴェルとの出会いや結婚生活について詳しく聞き出す。
当時、バイアスロンの選手だったレーリは、所属チームのスポンサーだったオットを介してオリヴェルと出会ったという。オットはスポンサーという立場を利用して女子更衣室に忍び込み、女子選手に性的な嫌がらせ行為を繰り返していた。
オリヴェルは父親からレーリを守るために家を出ようと考えていたが、貧しい家で育ったレーリにとって、ミュラー家での豊かな暮らしは何より魅力的だった。しかし結婚して間もないある夜、レーリはオットがモニカをレイプしている場面を偶然目撃した。それがミュラー家を出た理由だと話す。
事件の夜、誕生パーティーに飛び入り参加したレーリは、ディナーの席で繰り広げられた茶番を見て滑稽になり、ミュラー家を恐れる気持ちが消えたという。そしてその後、庭で拳銃自殺をしようとしていたオリヴェルを見つけ、彼から銃を取り上げて庭に捨てたと打ち明ける。
レーリを帰した後、ガブリエルはアグネスを問い詰め、彼女が事件前日の夜にオットの屋敷を訪れた際に話した会話の内容を聞き出す。オットは刑事になったアグネスを懐柔し、自分にとって有益な情報を手に入れるため取引を持ちかけてきたという。
そしてアグネスが断ると、オットは彼女の“秘密”を持ち出して脅迫したのだった。それは、アグネスが父親とオットの友人であるスヴェルドロフを刺したという事実だった。
アグネスはスヴェルドロフを刺したことをガブリエルに打ち明ける。その事実は彼女の父親とオットによって揉み消されたという。アグネス自身も正当防衛を主張し、ガブリエルは彼女の言葉を信じることに。
最後に警察へ呼ばれたのは、レーリとオリヴェルの息子ロベルトだった。ロベルトは自分がミュラー家の血を引く人間だと5年前から気づいていたという。そして1年前、オットからの手紙でオリヴェルが父親だと知ったのだった。
オットに招待され、彼の65歳の誕生日パーティーに出向いたロベルト。そして、自分がオットの計画のために利用されたことを知る。彼の目的は家族を排除することだった。
メルレには孫を、オスカルとアンネケンにはスペインでの暮らしを、モニカには新しい車を、オリヴェルには息子を与え、体よく追い払おうと考えたのだ。マルレーンはオットの計画に必要な駒であり、彼女もただの愛人のひとりに過ぎなかった。
ガブリエルはミュラー家の屋敷に関係者全員を集め、事件を解き明かす。事件の日の朝、サンルームへ行くメルレが腕にヨガマットを抱えていたというアンネケンの目撃証言に注目したガブリエルは、そのヨガマットの中に銃が隠されていたことを指摘する。
サンルームを調べた捜査員は、植木鉢に隠されていた銃を発見する。それこそがオットを殺した凶器だった。メルレは「オットから息子たちを守りたかった」と語り、犯行を認める。
6週間後。森でルーカス・タムのものと思われる頭蓋骨が発見される。オットの殺害についてはメルレが起訴され事件は解決するが、アグネスは何かが腑に落ちない。
凶器に使われた銃を返すため、ミュラー家を訪ねるアグネス。屋敷の中は以前とはまるで違い、家族は幸福な空気に包まれていた。オスカルとアンネケン夫妻には子供ができ、オリヴェルとレーリは再び関係を取り戻していた。そしてロベルトの横には、見知らぬ男の子が寄り添っていた。
街へ行くというロベルトを乗せ、車を走らせるアグネス。だがロベルトが差し入れたコーヒーを飲んだアグネスは、気分が悪くなり運転できなくなってしまう。ロベルトはドラッグを入れたことを明かし、意識が朦朧とするアグネスに事件の真相を語り始める。
ロベルトは同性愛者だった。ゲイだという理由で周りから嫌がらせを受け、自分の存在価値を感じられなくなっていたという。その泥沼から抜け出すために、オットの遺産を手に入れようと計画したのだった。
計画に加わったのは、幼馴染のマルレーン、そしてマリファナ仲間を通じて知り合ったモニカだった。当初、モニカがオットの部屋から銃を盗んでロベルトが撃ち殺す予定だったが、引き出しにあるはずの銃がなかったため計画は頓挫しかけた。
だがマルレーンが寝室の窓からオリヴェルとレーリのやりとりを目撃し、レーリが捨てた銃を拾ってロベルトに届けた。モニカはオットの部屋でマルレーンと言い争う演技をし、2人のアリバイを作っていた。
ロベルトはテラスから部屋に入り、オリヴェルに殴りかかろうとしたオットを殺害。オリヴェルはとっさにロベルトから銃を受け取り、自分が罪を被ろうした。そこへメルレが別の銃を持って現れ、オリヴェルを守るために凶器の銃を取り替えたのだった。
薬の効果でアグネスの記憶が残らないことを確信するロベルトは、「真相は誰にも暴けない」とうそぶく。そしてアグネスがスヴェルドロフを刺したのは殺意があったからだと指摘する。オットは彼に、「男を惑わす邪悪な目をした少女」について話していたという。
意識を失ったアグネスを車中に残し、ロベルトはその場から立ち去る。
感想(ネタバレ有)
アガサ・クリスティの作品や芥川龍之介の「藪の中」を彷彿とさせる王道ミステリーで、とても面白かったです。毎回同じパターンの繰り返しなので、ちょっと飽きてしまう部分がなきにしもあらずですが、この設定が好きな人には刺さると思う。
面白いのは、「誰がオット・ミュラーを撃ったのか」というタイトルなのに、実は犯人が誰かはあまり重要ではないというところ。このタイトルは逆説になってるんでしょうね。
ロベルトが「皆オットの死を望んでた。実行したのが僕だっただけ」と言っていたように、おそらくこのドラマは“8人の殺意”を描くことに重きが置かれていて、そういう意味では8人の共謀だとも言えます(そこもアガサ・クリスティっぽい)。
しかし結局なにが本当でなにが嘘なのかわからないまま終わってしまったので、見終わった後もいくつか疑問が残りました。
ロベルトの父親は、本当のところ誰だったのか。わたしはやはりオットだったんじゃないかと思っているのですが…どうなんでしょうね。そしてロベルトが持っていたあの「鍵」は、いったい何の鍵だったのか?
ロベルトとマルレーンの犯行動機はわかりますが(2人ともオットが死ねば金が入ってくる)、モニカの犯行動機は何だったのか。お金なのか、復讐なのか。代理出産を望んでいたのは本当なのか。事件解決後に彼女が身を引いた(ミュラー家の食卓に彼女の姿はなかった)のは、なぜなのか。
ロベルトにしてもマルレーンにしても、やはりお金だけが動機ではないように思います。
オットが望んでいたのは「孫」ではなく、父親から受け継いだ“怪物”の「血」を残すことでした。彼はロベルトが同性愛者だと知っていて、わざわざあの場に呼び出し、彼の人生を否定するような酷い言葉を投げつけました。
マルレーンの場合は、オットに祖父を殺され、会社を奪われていました。オットが知らなったとは思えないから、彼女がルーカス・タムの孫だと知って(たぶん面白がって)愛人にしたのだと思います。
オット・ミュラーは、破壊者であり“怪物”でした。彼について語ったロベルトのセリフが意味深でしたね。
「年寄はそんなやつばかり。自分だけが正しいと思ってる。きっとソ連時代に洗脳され続けたせいで、聞く耳を持つことすらできないんだ」
「皆、好奇心も寛容さも失い、すべてを恐れてた。オットだって恐れてる。だから強さを演じてる。何を恐れて他人の人生を踏みにじってるんだろう」
過去、2度もソ連に支配されたエストニアだからこそ、重い意味を持つ言葉。同時に、おそらくどの国の人でもうなずくことができる、普遍的な言葉。
脚本家のBirk Rohelendは、エストニアで性的虐待やハラスメントに反対する #MeToo 運動をめぐる議論が持ち上がった後、このドラマのアイデアを思いついたと語っています。そして自分の父親とオット・ミュラーには、いくつかの類似点があることも。
性犯罪やジェンダー問題、格差社会など、さまざまなことを考える非常に興味深い作品でした。
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