原作「七つの時計」ネタバレ解説|館もの×秘密結社×コメディ!お嬢様が大活躍

アガサ・クリスティー「七つの時計」あらすじネタバレ解説・登場人物(キャスト)一覧

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アガサ・クリスティの長編小説「七つの時計」を読みました。

クラシックな「館もの」の雰囲気に、スパイ小説のスリルを掛け合わせた冒険ミステリーです。『チムニーズ館の秘密』と舞台や人物がつながっていますが、独立した物語なので初めて読む人でも十分楽しめます。

物語の発端は、寝起きの悪い外交官ジェリーに仕掛けられた“目覚まし時計作戦”。友人たちが仕掛けた他愛ないいたずらが、なぜか本物の事件へと発展していきます。

調査に乗り出した若者たちは、秘密結社や国際的な陰謀に巻き込まれて右往左往。軽妙なやり取りとスピーディーな展開が続き、最後には意外な真相へとたどり着きます。

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登場人物(ネタバレなし)

主要人物

アイリーン・ブレント(バンドル)
ケイタラム卿の長女で、愛称は「バンドル」。快活な性格で、頭の回転が速く行動力も抜群。愛車を猛スピードで走らせるのが趣味。2年ぶりにチムニーズ館へ戻り、持ち前の好奇心と勇気で謎めいた事件の調査に踏み込んでいく。

ビル・エヴァズレー
外務省に勤める外交官で、ロマックスの秘書。バンドルの親友であり、ジミーやロニーとも親しい。大柄で腕力にすぐれ、社交的で人懐っこい性格の好青年。チムニーズ館滞在中にジェリーへのいたずらに加わった仲間のひとり。

ジミー・セシジャー
ビルの友人で、ロニーの親友。ベイトマンとは同級生。裕福な家の御曹司で、職業には就かず気ままに暮らしている。事件発生時にはチムニーズ館に滞在しており、ジェリーへのいたずらに加わった仲間のひとり。バンドルらとともに事件の真相を追う。

ロレーン・ウェイド
ジェリーの義妹。兄の死に強い疑念を抱き、真実を求めてジミーやバンドルと調査に乗り出す。ジェリーは亡くなる直前、彼女にあてて「セブン・ダイヤルズの件はどうか忘れてくれ」という手紙を書いていた。

バトル警視
ロンドン警視庁の優秀な刑事。がっしりとした体格に、木彫りの仮面のような無表情な顔を持つ。常に冷静沈着で、鋭い観察力を武器に複雑な事件を論理的に整理し、真相へと導いていく。知人であるロマックスの依頼を受け、ワイヴァーン屋敷の警備を担当する。

チムニーズ館の滞在者

サー・オズワルド・クート
鉄鋼王。2年間の期限でチムニーズ館を借り受けていた。若い頃は自転車屋で働いていた野心家で、やがて大成功を収め、イギリスでも屈指の富豪となった。最近では、豪壮で華麗な館を借りるのが趣味になっている。

マライア・クート
オズワルドの妻。大柄で堂々とした女性で、悲劇的な雰囲気を漂わせている。素人芝居に熱中していたこともあり、イギリスの大女優シドンズ夫人を思わせる存在感を持つ。

ルーパート・ベイトマン
オズワルドの秘書。真面目で有能だが、学生時代の同級生ジミーからは「ポンゴ(類人猿)」と呼ばれている。ジェリーが死ぬ前夜、仲間とともに彼の部屋へ8個の目ざまし時計を仕掛けるといういたずらを計画し、実行役を務めた。

ジェリー・ウェイド
外交官。陽気でのんびり屋の青年。早起きが大の苦手で、いつも昼過ぎまで眠り込んでいる。チムニーズ館滞在中、睡眠薬の過剰摂取で死亡する。

ロニー・デヴァルー
外交官。ジミーやビルの友人であり、ジェリーの親友。ジェリーへの悪戯に加わった一人でもある。ジェリーが亡くなった日、ジミーに「話したいことがある」と切り出しながらも、「約束に縛られている」という理由で話さなかった。

ケイタラム家

ケイタラム卿
バンドルの父。チムニーズ館の主人であり、第9代ケイタラム侯爵。本名はアラステア・エドワード・ブレント。ものぐさで政治には関心を示さず、穏やかな生活を望んでいる。過去2年間は館をサー・オズワルドに貸し出し、自らは海外で静養していた。

トレドウェル
ケイタラム家に長年仕える執事。白髪に威厳ある風貌を備え、館の空気を引き締める存在。主人一家が不在だった2年間もチムニーズ館を守り続け、屋敷の秩序を保っていた。

ジョン・バウアー
ケイタラム家に仕える新顔の使用人。事件発生のわずか2週間前から雇われており、その経歴や素性は謎めいている。

ハウスパーティーの参加者

ジョージ・ロマックス
外務次官であり、ワイヴァーン屋敷の所有者。保守的で融通のきかない強弁家で、周囲からは堅物と見られている。外見が鱈に似ていることから「コダーズ」というあだ名で呼ばれることも。政治的な取引に関わるハウスパーティーを企画する。

サー・スタンリー・ディグビー
航空大臣。陽気な笑顔を絶やさない小柄な人物で、社交の場でも明るさを振りまく。航空界の発展に尽力し、政治的にも重要な役割を担う。

テレンス・オルーク
ディグビーの秘書官。アイルランド系の背の高い青年で、誠実かつ有能。飛行士としての経歴を持ち、冷静な判断力と行動力で大臣を支える。

ヘル・エーベルハルト
ドイツ人の発明家。鼻持ちならないほど尊大な態度を見せるが、その技術力は高く評価されている。

アンナ・ラツキー
ハンガリーの伯爵夫人。〈ハンガリー青年党〉に関わる人物で、ブダペストでは託児所を経営するなど社会活動にも従事している。

セブン・ダイヤルズ・クラブ

モスゴロフスキー
セブン・ダイヤルズ・クラブの経営者で、ロシア人。背が高く精悍な顔立ちをした男。雑多な客層が集うクラブを巧みに采配している。チムニーズ館で働いていたアルフレッドを引き抜き、給仕として雇った。

アルフレッド
セブン・ダイヤルズ・クラブの給仕。以前はチムニーズ館で従僕として働いていた。より高給を得られるという理由で、セブン・ダイヤルズ・クラブに転職した。

あらすじと解説(ネタバレ有)

『七つの時計』は1929年に発表されたアガサ・クリスティーの長編小説です。

『チムニーズ館の秘密』の続編にあたり、スパイ小説の要素を盛り込んだ冒険色の強いミステリーになっています。

この作品が書かれたのは、クリスティーが最初の夫アーチーと離婚した直後。新しい人生を模索していた時期で、彼女自身「筆力に自信を取り戻しつつあった」と語っています。

時代背景は第一次世界大戦後。国際政治はピリピリしていて、国内では階級意識がまだ根強い。そんな中で「秘密結社」や「スパイ活動」といったテーマは、読者にとってワクワクする格好のネタでした。

クリスティーはそこに「若者文化」の軽快さや、「社会の不安」をうまく織り込み、ユーモラスで冒険心あふれる推理小説を仕立てました。

それでは、物語のあらすじを順に追っていきましょう。
最後に事件の真相をまとめていますが、その都度〈ネタバレ〉も見られるようにしています。

悪戯から始まる悲劇

物語はチムニーズ館から始まりますが、ケイタラム卿やバンドルは登場しません。というのも、彼らは館を2年間の期限つきでサー・オズワルド・クートに貸し出して、海外へ遊びに行ってしまったからです。

さて、そのチムニーズ館には外務省に勤める若者たちと、その友人たちが招待されていました。彼らは朝寝坊がすぎるジェリーを驚かせようと、ちょっとした悪だくみを企てます。8個の目覚まし時計を買い込み、夜中にこっそり彼の部屋へ仕掛けたのです。

ところが翌朝、時計は予定どおりにけたたましく鳴り響いたのに、ジェリーは起きてきません。彼は睡眠薬を飲みすぎて亡くなっていたのです。

奇妙なのは、部屋のあちこちに置いたはずの時計が、なぜかマントルピースの上にきれいに並べられていたこと。しかも、8個のうちの1個は、庭に投げ捨てられていました。つまり、並んでいたのは7つの時計。

ジェリーの親友ロニーは、何か知っているようなそぶりを見せます。ジミーはその態度から、ロニーが「これは事故じゃなくて他殺かもしれない」と疑っていることに気づくのでした。

  • ジェリーはなぜ死んだのか?
  • 7つの時計は何を意味するのか?

ジェリーはジミー・セシジャーに殺されました。ジミーの正体は、国際的な大物を狙う怪盗。ジェリーは彼の正体に気づいたため、口封じのために薬を盛られて殺されたのです。
7つの時計は、ジェリーの遺体が発見された後で、親友のロニーが並べたもの。犯人へ「セブン・ダイヤルズが復讐するぞ」というメッセージを伝えるためです。ジェリーとロニーは、「セブン・ダイヤルズ」という政府公認の“素人探偵団”のメンバーでした。

謎の手紙と不吉な警告

2年間の貸し出し期間が終わり、チムニーズ館にはケイタラム家が戻ってきました。ジェリーの死を知った娘アイリーン(通称バンドル)は、彼が使っていた部屋を調べます。すると机の天板の隙間に、書きかけの手紙が挟まっていました。

それはジェリーが亡くなる直前に、義妹ロレーンへ宛てて書いたものでした。内容は「元気にやってるよ、もうすぐ帰る」といった軽い近況報告から始まりますが、途中から急に不穏な調子に。

「前に話したセブン・ダイヤルズの件は忘れてくれ。冗談だと思ってたけど、どうやらそうじゃない。君みたいな若い娘が巻き込まれるべきものじゃない」と警告めいた言葉が並び、最後は眠気に負けてペンを落としたような終わり方でした。

その後、バンドルが車でロンドンへ向かう途中、突然ひとりの男性が飛び出してきて倒れます。彼は最期に「セブン・ダイヤルズ……伝えて……ジミー・セシジャー……」とつぶやき、息絶えてしまいました。のちに調べると、彼はジェリーの親友のロニーで、射殺されていたことが判明します。

さらに、ジョージ・ロマックスのワイヴァーン屋敷には「セブン・ダイヤルズ」からの警告状が届きます。彼は来週、政治色の濃いパーティーを開く予定なのです。

  • ロニーを殺したのは誰なのか?
  • ワイヴァーン屋敷に届いた警告状の意味は?

ロニーを殺したのはジミー・セシジャーです。ジェリー同様、彼の正体に気づいたため射殺されました。彼の最期の言葉は、「セブン・ダイヤルズに伝えて。犯人はジミー・セシジャー」という意味でした。ジェリーの妹ロレーンは、ジミーの恋人であり共犯者です。
ワイヴァーン屋敷に届いた警告状は、素人探偵団「セブン・ダイヤルズ」が送ったもの。怪盗が狙う標的が、ワイヴァーン屋敷で開催されるパーティーに持ち込まれることになっていたからです。

バンドル、捜査を始める

バンドルは親友ビルから情報を仕入れ、ロニーの親友ジミーに会いに行きます。するとそこには、ジェリーの義妹ロレーンも来ていました。バンドルは2人にロニーの死を伝えます。

3人は話し合いを重ねるうちに、ジェリーとロニーの死には「セブン・ダイヤルズ」が関わっているのではないかと疑い始めます。

「だんだんわかってきたようだぞ。セブン・ダイヤルズというのは、さだめしなにかの秘密結社の本拠にちがいない。ジェリーもはじめはこのきみへの手紙に書いてるように、ちょっとした冗談だと思っていた。ところが、冗談どころの騒ぎではなかった――そのことも彼は書いている。(略)」

ハヤカワ文庫「七つの時計」より

バンドルは、ジェリーの部屋に並べられていた7つの時計こそ「セブン・ダイヤルズ」を示していたのではないかと考えます。3人は協力して捜査する決意を固め、ジミーとバンドルはワイヴァーン屋敷で開かれる政治パーティーに潜入する計画を立てます。

さらにバンドルは、親友ビルが「セブン・ダイヤルズ・クラブ」を知っていると聞き、しぶる彼を説得してナイトクラブへ連れて行ってもらいます。

すると、そこで思わぬ人物に遭遇。チムニーズ館の従僕アルフレッドが給仕として働いていたのです。話を聞くと、彼は1か月前にこのクラブの経営者モスゴロフスキーに引き抜かれ、館を辞めていたとのこと。

そしてアルフレッドの代わりにチムニーズ館へ雇われたのがジョン・バウアーという男。しかもそれはジェリーの死のわずか2週間前のことでした。

  • 経営者モスゴロフスキーの正体は?
  • ジョン・バウアーは何者なのか?

経営者のモスゴロフスキーは、素人探偵団「セブン・ダイヤルズ」のメンバーの一人。ジョン・バウアーは彼らがチムニーズ館に送り込んだ監視役です。

仮面の集会

翌日、バンドルは再び「セブン・ダイヤルズ・クラブ」を訪れ、アルフレッドに協力を頼んで建物の中を調べます。すると2階の賭博室に「隠し部屋」がありました。

「こここそ秘密組織の会合場所に違いない」と確信したバンドルは、戸棚の中に身をひそめ、息を殺して彼らが現れるのを待ちます。

やがて深夜になると、怪しい人々がぞろぞろと集まってきました。彼らは時計の文字盤を模した仮面をかぶり、お互いを「ナンバー」で呼び合います。

カーテンのように、顔の前に布が一枚さがっているだけで、目にあたる位置に、二つの細い切れ目がある。全体の形は円く、それが時計の文字盤をかたどっていて、針は六時をさしている。
「セブン・ダイヤルズだわ!」バンドルは胸のうちで叫んだ。

ハヤカワ文庫『七つの時計』より

会話の中から、〈ナンバー7〉が組織の首領らしいとわかりますが、その場には姿を見せませんでした。そして〈ナンバー1〉の女性の背中には、特徴的なほくろがあることも判明。

さらに、彼らのターゲットが、ドイツ人発明家エーベルハルトが生み出した「鋼鉄の新しい製法」の公式を記した極秘資料であることがわかります。その価値は何百万ドルにもなるというから、もし盗まれれば国家レベルの大事件です。

  • 〈ナンバー7〉は誰なのか?

「セブン・ダイヤルズ」を統括する〈ナンバー7〉は、バトル警視です。モスゴロフスキー以外のメンバーは、〈ナンバー7〉の正体を知りません。

華やかなパーティーの裏で

バンドルとジミーは、「セブン・ダイヤルズ」の犯行を阻止するために、ロマックスが主催するハウスパーティーへ参加します。

ワイヴァーン屋敷には、鉄鋼王サー・オズワルド・クートと妻マライア、航空大臣サー・スタンリー・ディグビーと秘書官テレンス・オルーク、ドイツ人発明家エーベルハルト、ハンガリーの伯爵夫人アンナ・ラツキーなど、国際色豊かな顔ぶれが集まっていました。

事前に「セブン・ダイヤルズ」から警告状が届いていたこともあり、主催者のロマックスは知り合いの警察官バトル警視に屋敷の警備を依頼していました。

ジミーから事情を聞いたビルも協力し、2人は寝ずの番をすることに。しかしその夜、ジミーが何者かに襲われ、銃で撃たれてしまいます。幸い軽傷で済んだものの、屋敷は騒然となります。

さらに、こっそり邸内に入り込んでいたロレーンが現場に居合わせ、犯人が盗もうとして落としていった極秘資料を拾っていました。

バトル警視は暖炉の中に残っていた「手袋の燃えかす」に注目しますが、犯人が誰なのか、どうやって逃げたのか、なぜ拳銃と資料を置き去りにしたのか――謎は深まるばかり。

一方でバンドルは、ラツキー伯爵夫人の背中に黒いほくろを見つけます。それは秘密結社の〈ナンバー1〉の特徴。彼女こそメンバーだと気づきますが、バトル警視は「ここは慎重に」と判断し、あえて泳がせることにしました。

  • ジミーを襲った人物は?
  • 犯人はなぜ拳銃と資料を落としていった?
  • バトルが手袋の燃えかすに注目した理由は?

ジミーを襲った人物はいません。彼の自作自演です。
バトルが見つけた「手袋の燃えかす」は、ジミーが銃を撃つときに使ったもので、彼は左手に手袋をはめて自分の右腕を撃ち、拳銃を窓の外に捨てました。バトルはその手袋が左手用だったことに気づいていました。
ロレーンがその場に居合わせたのもあらかじめ計画していたことで、彼女が資料を拾って逃げる算段でしたが、バトル警視と遭遇してしまったために逃げることができませんでした。

サー・オズワルドと手袋の謎

ジミーはロレーンに結婚を申し込みますが、彼女は「問題が片付いてから」と答えます。ジミーは必ず〈ナンバー7〉を突き止めると約束し、クート夫妻の屋敷へ向かいました。彼の頭の中では、サー・オズワルド・クートこそ秘密結社の首領〈ナンバー7〉だという疑いが強まっていたのです。

深夜、ジミーはひそかにサー・オズワルドの書斎を調べます。しかし、エーベルハルトの発明に関する資料も、〈ナンバー7〉の正体を示す手がかりも、何ひとつ見つかりません。

しかも運悪く、学生時代の同級生であり、今はサー・オズワルドの有能な秘書ルーパート・ベイトマンに見つかってしまいます。ジミーは必死に言い訳をして、なんとかその場を切り抜けました。

翌日、バンドルとロレーンもクートの屋敷を訪ねます。そこでバンドルは、バトル警視が暖炉で見つけた黒焦げの手袋が「左手の手袋」だったことを思い出します。つまり犯人は左利きではないか――バンドルはそうジミーに助言します。

そして、サー・オズワルド・クートが両手ききであることから、やはり彼こそ〈ナンバー7〉なのではないかという疑念がさらに強まります。

愛の告白と仮面の正体

チムニーズ館に戻ったバンドルは、父親ほど年の離れたロマックスから結婚を申し込まれ、うんざりしてしまいます。政治に興味があるふりをしたせいで、彼がすっかり勘違いしてしまったのです。

「こうしてみると、男性が得意にしている問題になまじ関心があるようなふりをするのって、やっぱり危険だわね。ジョージの並べたてるお題目、あなたにも聞かせてあげたかった――わたしの子供っぽい心がどうとか、それをはぐくみ育てる喜びがどうとか、って。わたしの心ですってよ! わたしの心にあることが、たとえ四分の一でもジョージにわかったら、あのひと、ぎょっとして卒倒するにちがいないわ!」

ハヤカワ文庫「七つの時計」より

その頃、ビルはジミーの家を訪ね、ロニーの遺言執行人から手紙が届いたと知らせます。そこには重大なことが書かれていました。ジミーはすぐにバンドルへ連絡し、ロレーンと一緒に「セブン・ダイヤルズ・クラブ」に来てほしいと頼みます。

クラブで待っていたバンドルとロレーンのもとへ、まもなくジミーとビルが到着。ジミーは〈ナンバー7〉を罠にかける計画があると話し、準備を始めます。ところが、ビルが原因不明の昏睡状態に陥ってしまいます。さらにバンドルも何者かに頭を殴られて気を失い、例の「秘密の部屋」に閉じ込められてしまいます。

やがて意識を取り戻したバンドルの前で、彼女が死んだと勘違いしたビルが泣きわめいています。

「おお、いとしいひと――ぼくのバンドル――誰よりも愛する、大事な大事なバンドル。おお神様、いったいどうしたらいいんでしょう! ぼくはバンドルを殺しちまった。ぼくが殺したんだ」

ハヤカワ文庫「七つの時計」より

バンドルが口を開き、彼女が生きていることを知ったビルは大喜び。その勢いでバンドルに愛を告白します。バンドルもまた自分の気持ちに気づき、2人は結婚を約束しました。

そこへ「セブン・ダイヤルズ」の〈ナンバー6〉――モスゴロフスキーが現れます。さらに仮面をつけた面々がそろい、ついに〈ナンバー7〉が仮面を外しました。その正体は、なんとバトル警視でした。

  • ロニーの遺言執行人から届いた手紙とは?
  • ビルはなぜ昏睡状態になったのか?
  • バンドルを襲った人物は?

ロニーの遺言執行人から届いた手紙、というのは存在しません。ビルがジミーを罠にかけるためについた嘘です。ビルもまた、「セブン・ダイヤルズ」の一員でした。
ビルに正体を知られたと悟ったジミーは彼に薬を盛って殺そうとしましたが、ビルは飲んだふりをしてジミーを騙し、意識を失ったように見せかけていました。
バンドルを襲ったのはジミーです。バンドルは生きていましたが、ジミーはビルと彼女を殺したつもりでいました。

「セブン・ダイヤルズ」と犯人の正体

突然の正体暴露に驚き混乱するバンドルへ、バトル警視は「セブン・ダイヤルズ」の真の姿を明かします。なんと彼らは怪しい秘密結社ではなく、国際的な犯罪者を追うために結成された“素人探偵団”だったのです。

メンバーの顔ぶれも次々と判明します。〈ナンバー5〉はハンガリー大使館のアンドラーシュ伯爵。〈ナンバー4〉はアメリカ人ジャーナリストのヘイウォード・フェルプス。〈ナンバー3〉は、まさかのビル・エヴァズレー。

〈ナンバー2〉はロニー・デヴァルー。そして〈ナンバー1〉は、かつてジェリー・ウェイドが務めていた役で、現在はラツキー伯爵夫人を装っていた女優ベーブ・シーモア。さらにジョン・バウアーは、バトルたちがチムニーズ館に潜り込ませた監視役だったことが判明します。

彼らが追っていたのは、国際的な怪盗。その正体はジミー・セシジャー。しかもロレーンは彼の恋人であり、共犯者でした。バトル警視は、すでに2人が逮捕されたことを告げます。

事件の真相

ジェリーとロニーは、おそらくジミーの正体に気づき、そのことをロレーンに話してしまった。ロレーンは当然ジミーに報告し、2人は口封じのために殺害されたのです。

ジェリーの部屋に並べられていた7つの時計は、ロニーが置いたものでした。彼は犯人に「セブン・ダイヤルズが復讐するぞ」というメッセージを伝えたかったのです。

ワイヴァーン屋敷での騒動も、ジミーとロレーンが共謀して書類を盗もうとした結果でした。ジミーは図書室の窓から外へ出て、蔦をよじ登り、2階のオルークの部屋に忍び込みました。

そして書類を盗み出すと、窓の下で待っていたロレーンに向かって投げ落とす。ところがロレーンは庭でバトル警視と鉢合わせしてしまい、計画は失敗に終わります。

さらにジミーの怪我は自作自演でした。彼は図書室に戻ると、左手に手袋をはめて自分の右腕を撃ち、ピストルを窓から外へ投げ捨てました。そして手袋を歯でくわえて脱ぎ、暖炉の中へ放り込んだのです。

「セブン・ダイヤルズ」はジミーを動揺させることに成功し、最後に命がけの計画を実行します。ビルはロニーの遺言執行人から手紙が届いたと嘘をつき、ジミーを問い詰めて自白させました。

ジミーはビルを殺そうとウイスキーに薬を仕込みましたが、ビルは飲んだふりをしてやりすごし、意識を失ったふりをしてジミーを油断させたのです。

さらにジミーはバンドルのことも殺そうと、砂袋で彼女の頭を殴りました。しかし帽子をかぶっていたことと、ジミー自身が右腕を負傷していたために力が入らず、バンドルは幸運にも気を失っただけで済みました。

後日――バンドルは父ケイタラム卿に、ビルと結婚することを報告します。

感想(ネタバレ有)

覆面の秘密結社には「やりすぎでしょ」と思わずツッコミを入れたくなったけど、そういうところも含めて“クリスティの遊び心”が随所に見られる作品でした。リアリティ? そんなのどうでもいいじゃん、って感じかな。

他愛ないいたずらが思わぬ殺人事件へとつながり、遺体のそばに残された7つの時計が意味深な謎を呼ぶ。そこから怪しげな秘密結社の存在が浮かび上がり、政治的な陰謀へと巻き込まれていく展開は、王道の冒険ミステリーらしいスリルがありました。

結末を知ってしまうと、「なーんだ、そういうことだったのか」と少し拍子抜けする部分もありますが、館の中で繰り広げられる冒険や謎解きはやっぱり楽しい。若者たちのわちゃわちゃした雰囲気も爽やかでよかった。

特に面白かったのが、ケイタラム卿とロマックス。前作の『チムニーズ館の秘密』でも楽しいキャラクターだったのですが、今回は完全にコメディに振り切ってて、おかしかった。

ケイタラム卿は相変わらずのおとぼけキャラだし、ロマックスは何を血迷ったのかバンドルに真剣プロポーズ。バンドルが断っても、「恥じらっている」と勘違いしてしまう。本筋とは関係のないところで笑わせてくれた2人でした。

そして今回の主役バンドル。前作では少し影が薄かった彼女ですが、今作では大活躍。クリスティが得意とする「おきゃんなお嬢様」として、とても魅力的に描かれています。結末を知ると、何も知らない彼女に振り回され続けたビルの苦悩がしのばれて、ちょっと笑いながらも同情してしまいますね。

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