The Sinner【シーズン3】全話ネタバレ・感想・登場人物(キャスト)

The Sinner【シーズン3】あらすじキャスト感想

感想と解説(ネタバレ有)

過去2作とは大きく異なるストーリー

S1では平凡な主婦コーラが赤の他人と思われる男性を突然刺殺した事件を、S2では13歳の少年ジュリアンがモーテルで両親を毒殺する事件が描かれた「The Sinner」の最新作。

過去2作で捜査にあたったドーチェスター警察のベテラン刑事ハリー・アンブローズが、今回も一見単純に見える交通事故の真相を探ります。

S1、S2ではいずれも犯行の「動機」がわからず、ハリーの執念深い捜査によって事件の裏に隠された驚愕の真実(過去のトラウマ)がしだいに明らかになっていくという、とても緻密に計算されたミステリアスなストーリーでした。

なので今回も、ハリーが犯人の過去を掘り起こしていく展開になるのだろうと予想していたら、みごとに裏切られましたね。犯行に至る経緯も動機も、序盤の早い段階で明らかになってしまい、あれっ?と肩すかし状態に。

が、本作の見せ場はこの先にありました。過去ではなく、現在進行形の犯罪だったのです。

犯人が逮捕された後に捜査する(動機を探る)過去2作とは違い、今回の犯人(ジェイミー)は野放しで、いつ犯行に及ぶかわからない危険な状態。

そしてこれまで同様、自身も深い心の闇を抱えるがゆえに、犯人に共鳴してしまうハリー。ジェイミーの心理を読み解いて捜査を進める一方で、彼自身も崖っぷちを歩く危うい状況に陥ります。

ジェイミーが生み出した亡霊の正体

結論から言うと、これはこれで面白かったです。前2作に比べてミステリー要素が控えめなので“謎解き”の楽しさはないけど、ジェイミーが非常に興味深いキャラクターになっていたので十分楽しめました。

終始グラグラ状態で(それはハリーもだけど)、何をしでかすかわからない怖さ。犯行を未然に防ごうとするハリーとの攻防も、多少まどろっこしさを感じる部分はあったものの、ハラハラさせられました。

わたしはS2(ジュリアン編)のように複数の人間の闇が暴かれるよりも、1人の人間に焦点をあてて深く掘り下げる内容のほうが好みなのかもしれない。

ジェイミーは交通事故を起こした直後、救急車を呼ばず大学時代の友人ニックを見殺しにしました。ただ、このときのジェイミーを突き動かしていたのは“恐怖”であって、ニックを憎んでいたわけではない(その証拠に、冷静になると救急車を呼ぼうしていた)。

ニックの死後、亡霊(幻覚)に脅かされるようになるジェイミー。ニックを殺した罪悪感かと思ったのですが、第4話でニックが自ら死を選んだこと、ジェイミーに「この道を進め」という遺言を残していたことが明かされます。

ジェイミーが見ていた亡霊は、ニックを失った世界で生きていかねばならない不安と戸惑い、“この道”を進むことへの恐怖が作り上げたものだったのでしょう。

ニーチェの「超人」を目指して

18年前、ジェイミーは暴走するニックの過激さについていけず、彼から逃げ出しました。教師になり、結婚し、家を持ち、子供を迎え、平凡な、けれど穏やかな人生を送っていたジェイミー。

端から見れば文句のつけようがない幸せな暮らし。けれどもその生活に“何も”感じられず、ジェイミーは18年ぶりにニックに連絡を取ってしまう。

自分と同じ感覚を持ち、常に自分の先にいて、刺激的な新しい世界へと導いてくれる親友。わたし自身はそんな親友を持ったことがないのでわからないけど、ジェイミーにとっては“分身”のような存在だったのかもしれない。

ニーチェは絶対的な価値観や道徳観念が失われた(神が死んだ)世界で生きていけるのは、強くなりたいという意志を持ち、自分自身で生きるべき価値を作りだして生きていく「超人」だけだと主張しました。

2人はヒトラー同様にその「超人」を曲解したのですね。少なくともニックが殺人を強要するロジックは、わたしには屁理屈としか思えませんでした。

そもそも占いの結果に身を任せている時点で意志などないわけで、結局のところ、ただ大好きなジェイミーをいじめて危険な遊びをしたかっただけなのでは?という気がしなくもない。

ちなみに2人が“ゲーム”をする際に使っていた占いの折り紙は、日本では「パクパク」「パックンチョ」などの名前で知られていますが、英語ではPaper fortune teller(紙の占い師)、フランス後ではcocotte(鍋)と呼ばれているそうです。世界共通だったんですねぇ、これ。

墓穴に埋められて覚醒?

必死に助けようとするハリーの腐心もむなしく、ジェイミーは人を殺めてしまい、ニューヨーク市警のジョーンズに追われることに。

ハリーに助けを求めた彼は、自分を理解してもらおうと森の中に掘った墓穴にハリーを埋めてしまう。「恐怖を越えると自由を味わえる」という究極のSMプレイを、彼はニックとやっていたそうで(彼らは大真面目です)。

閉ざされた土の中で、幼い頃に自分を虐げた母親や父親の恐ろしい夢(イメージ)を見るハリー。やがてそれは愛する女性ソニヤと孫イーライの姿に代わり、やすらぎへと導かれます。

夢の中で父親がトイレから出てこないというのが意味深。存在するのに姿が見えない=存在していないのと同じ状態だったのでしょうね。そういえば今回、父親の遺品がたびたび出てきましたが、ハリーには葛藤があるように見えました。

ジェイミーに掘り出され、無事に生還したハリー。すっかりハリーを信用して心を開いたジェイミーは、交通事故の真相を打ち明けます。それを録音し、部下のソトに逮捕させるハリー。ジェイミーの純粋さに胸が痛む。

ジェイミーの孤独

最も心を打たれたのは、ジェイミーがハリーに裏切られたと知った時の顔。そして肩入れしていた生徒のエマを励ました直後に「もう大丈夫、両親とわかり合えたから」と彼女にすがすがしく告げられたときの顔。

なんという顔をするんだ…。こっちまで切なくなるよ。

ジェイミーはニックの代わりを、自分とともに闘ってくれる“孤独な戦士”を探していたのだと思う。彼はこの欺瞞に満ちた場所ではなく、“向こう側”に行く人を探していた。だけどハリーもエマも彼の手を拒み、“こちら側”に残ることを選んだ。

少なくともハリーにはジェイミーの孤独が理解できたはずで、だからこそ彼の手を拒んで“こちら側”のルールに従ったことに後ろめたさを感じたのだろう。でもそんなことは裁判の証言台で言えるはずがないし、言っても誰もわからない。

ジェイミーの死とハリーの罪

最後はハリーに撃たれ、彼に見守られて死んでいったジェイミー。このときのハリーは、かつてのジェイミーと同じです。恐怖に駆られてニックを殺し、後悔に苛まれながら見送ったジェイミーと。

丸腰のジェイミーを撃つ必要はどこにもありませんでした。ハリーは彼が怖くて仕方なかったんだと思う。ジェイミーが撃たれる前に放った言葉は、わたしが聞いても怖い。

「僕たちは同じってことさ。本当だ。逃げられはしない。僕がいなくてもほかの人がまたお前に現れる。その後も、その後も」

もし撃たなければ、ハリーは“向こう側”へ渡ってしまっていただろう。ジェイミーと一緒に。自分から目をそらすためにジェイミーを殺したという事実は、この先もハリーを苦しめることになるかもしれない。

トラウマの否定

S1、S2との大きな違いがもうひとつ。トラウマの否定です。

ハリーはジェイミーが人を殺したきっかけを探そうと、彼の過去を調べますが、これといったトラウマが見つかりません。大学時代の回想シーンでも12歳のときに母親を亡くし、父親ともうまくいっていないことが仄めかされただけでした。

ソニヤは「原因のトラウマはひとつじゃなく、単なる境遇とか小さなことが積み重なった結果かもしれない」と言います。

殺人=トラウマという既成概念をあえて否定したのでしょうね。それによってジェイミーはますます理解しにくい人物になり、同時にハリーの心の闇も単純ではないことが暗示されていました。

ソニヤもまた、ハリーやジェイミーに通じる繊細な神経の持ち主。これから自身の闇と向き合うことになるハリーを、ソニヤが支えることになるのでしょうか。

シーズン4の製作が決定しました。次作も楽しみです。

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