WOWOWの連続ドラマ「セイレーンの懺悔」(全4話)についてまとめました。
女子高生誘拐殺人事件を追う報道記者が、自らの信念と現実の狭間でもがきながら真実を追い求める姿を描いたサスペンスドラマ。原作は、デビュー10周年を迎えた作家・中山七里氏の同名小説。
タイトルの「セイレーン」は、ギリシャ神話に登場する半人半鳥の妖精のこと。近くを通りかかる船乗りを美しい歌声で惑わし、船を難破させてしまう海の魔物として知られていますね。
マスコミがセイレーンのように国民を惑わし、人の不幸を娯楽にする怪物なのかどうか、を問いかけています。
二転三転するストーリー展開が面白く、衝撃的なラストも秀逸。各シーンを盛り上げる鮮烈な音楽もよかったです。
Contents
作品概要
あらすじ
不祥事が続き、番組存続の危機にさらされた帝都テレビの看板報道番組「アフタヌーンJAPAN」。その制作に携わる入社2年目の報道記者・朝倉多香美(新木優子)は、あるつらい過去を抱えながらも報道の仕事に誇りをもって取り組んでいた。そんな中、都内で女子高生誘拐事件が発生。先輩記者の里谷太一(池内博之)と多香美は、起死回生のためにスクープを狙って事件を追う。警視庁捜査一課の刑事・宮藤賢次(高嶋政伸)を尾行した多香美が廃工場で目撃したのは、無残にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。自身の過去と重なるこの事件を追っていた多香美だが、その執念が実を結び、犯人につながる大きなスクープをものにする。しかし、このスクープが原因となり、ある事件が起きてしまう…。果たして、事件の真犯人は誰なのか?そして、報道記者としての“正義”とは?
WOWOW公式サイトより
原作について
このドラマの原作は、中山七里さんのミステリー小説「セイレーンの懺悔」(2016年刊行)です。
登場人物(キャスト)
マスコミ
朝倉多香美(新木優子)
帝都テレビ報道局社会部「アフタヌーンJAPAN」記者。入社2年目の24歳。“真実”を伝えることが記者の仕事だと考えている。自身の辛い過去と重なる事件に遭遇し、真相を突き止めようとする。
里谷太一(池内博之)
帝都テレビ報道局社会部「アフタヌーンJAPAN」記者。多香美の先輩。時には大胆な取材をしながら、本物のスクープを追い求める。多香美が事件の取材に私情を挟んでいることに気づき、戒める。
兵頭邦彦(池田成志)
帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」編集長。視聴率絶対主義を掲げ、「画になる」扇情的なスクープを求める。ライバルのジャパンテレビと裏取引をしていることが発覚する。
加藤映司(佐野和真)
帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」AD。多香美とともに事件の取材を行う。
簑島壮介(永島敏行)
帝都テレビ・報道局長。やらせ報道などで不祥事が続いた「アフタヌーンJAPAN」を懸念し、関係者に忠告する。
三島奈那子(高梨臨)
帝都テレビのライバル局ジャパンテレビの報道記者。里谷の大学時代の後輩。誘拐殺人事件を追う中で、“本物のネタ”を掴むためにあらゆる人物に接触していく。
警察
宮藤賢次(高嶋政伸)
警視庁捜査一課第五強行捜査犯・殺人捜査七係・主任・警部補。捜査一課のエース。その手腕を買われ、女子高生誘拐殺人事件の捜査を任される。マスコミ嫌いとして有名。
秋川圭吾(尾上寛之)
警視庁捜査一課特殊犯捜査一係・巡査部長。宮藤とともに女子高生誘拐殺人事件を担当する。
桐島芳郎(羽場裕一)
警視庁捜査一課特殊犯捜査一係・警部。
津村仁志(中村育二)
警視庁捜査一課課長・警視正。帝都テレビのスクープによって市民から苦情が殺到し、宮藤に責任を押しつける。
被害者と関係者
東良綾香(川島鈴遥)
誘拐された女子高生。学校で暴力を伴ういじめを受けていた。誘拐された当日、いじめグループに激しく抵抗し、怒りを買っていたことが判明する。
東良伸弘(甲本雅裕)
誘拐殺人事件の被害者・東良綾香の継父。契約社員。「一緒に戦わせてほしい」という多香美に触発され、娘の命を奪った犯人への怒りを訴えかける。
東良律子(濱田マリ)
誘拐殺人事件の被害者・東良綾香の母親。連日のマスコミ取材に疲弊している。多香美を信頼し、綾香とうまくいっていなかったことを打ち明ける。
生方静留(原田えりか)
綾香の同級生。綾香が未空たちにいじめられていたことや、事件当日一緒に帰っていたことを多香美に教える。
仲田未空(メドウズ舞良)
綾香の同級生。綾香をいじめていた中心人物。綾香が誘拐された当日、一緒に帰っていた。過去に辛い経験をしていることが判明する。
当真祥子(神谷天音)
綾香の同級生。未空とともに綾香をいじめていた。綾香が殺害され、自分たちに捜査が及ぶのを恐れる。
柏木咲(岡本莉音)
綾香の同級生。未空とともに綾香をいじめていた。綾香が殺害され、自分たちに捜査が及ぶのを恐れる。
赤城昭平(嘉島陸)
工場で働く20歳の青年。未空たちの遊び仲間。事件後、未空たちと密会している現場を多香美に見られ、会話を盗聴されてしまう。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
やらせ報道などの不祥事が続き、帝都テレビの看板報道番組「アフタヌーンJAPAN」は番組存続の危機にさらされる。その制作に携わる入社2年目の報道記者・朝倉多香美(新木優子)は、辛い過去を抱えながらも報道の仕事に誇りをもって取り組んでいた。
そんな中、都内で女子高生誘拐事件が発生する。警察はマスコミの暴走を恐れて情報開示を拒むが、先輩記者の里谷太一(池内博之)は報道協定を結ぶ代わりに実名と住所を出すよう主張し、警察にしぶしぶ承諾させる。
里谷と多香美はスクープを取るために協定を破り、被害者宅に張り付いて警察の動きを監視。やがて被害者が遺体で発見されたことを知ると、遺体発見現場の廃工場に潜入する。警察に見つかって写真や動画を没収されるものの、里谷が隠し持っていたスマホの動画がスクープとなり、「アフタヌーンJAPAN」は他社を出し抜くことに。
多香美は事件に疑念を抱き、被害者である東良綾香(川島鈴遥)の周辺を取材して彼女が学校でいじめを受けていたことを知る。綾香をいじめていたのは仲田未空(メドウズ舞良)を中心とする同級生3人で、誘拐された当日、綾香はいじめに抵抗し、彼女たちの怒りを買っていたことがわかる。
多香美は未空を尾行し、3人が工場で働く20歳の青年・赤城昭平(嘉島陸)と密会している現場をおさえる。綾香の誘拐事件は4人がリンチ殺人を隠蔽するための偽装だと考えた多香美は、4人の会話を録音する。
録音した会話は「アフタヌーンJAPAN」のトップニュースで流れ、大きな反響を呼ぶ。警察には都民からの苦情が殺到し、事件を担当する捜査一課の宮藤賢次(高嶋政伸)は上司から叱責される。
ネットではいじめグループが特定され、未空が小学校時代に暴行事件の被害に遭っていた過去も掘り出されてしまう。未空の家にはマスコミが押しかけ、悲観した未空は部屋で手首を切って自殺を図る。
仲田未空が自殺を図るも、命に別状がないとわかり安堵する多香美。未空の父・常顕(長谷川朝晴)は帝都テレビに押しかけ、娘が自殺したのは報道のせいだと訴える。
未空が入院している病院を訪れた多香美は、未空の母親と弟がマスコミに囲まれているのを見て逃げ出してしまう。多香美が私情を挟んでいることに気づいた里谷は「降りたほうがいい」と助言するが、多香美は取材を続ける。
多香美と里谷はスクープの裏付けを取るために奔走するが、兵藤は急に態度を変え、遺族の独占インタビューを取ってくるよう命じる。里谷の機転で律子(濱田マリ)への取材の機会を得た多香美は、律子から綾香とうまくいってなかったことを打ち明けられる。
ライバル局のジャパンテレビに情報が漏れていることがわかり、ジャパンテレビの記者・三島奈那子(高梨臨)を尾行する多香美。すると彼女は兵藤と密会し、データを渡していた。やがて未空の父・常顕が民政党の代議士を通じて警察やテレビ局に抗議していたことが判明。情報を流せなくなった兵藤は、あるデータと引き換えにジャパンテレビに情報を渡したのだった。
兵藤のやり方に納得できない多香美は、再び律子に取材を申し込む。多香美は過去に、同級生のいじめによる自殺で妹を亡くしていたことを明かす。妹は遺書を残していたが、いじめの主犯格だった生徒は有力者の娘だったため学校はいじめの事実を認めず、警察も急に態度を変えたという。
報道記者になったのは妹のような被害者の声を届けたいと思ったからだと打ち明け、律子と伸弘(甲本雅裕)に「一緒に戦わせてほしい」と訴える多香美。
多香美が取ってきた遺族の独占インタビューはトップニュースで流れる。里谷はいいインタビューだったと褒めるも、「自分の過去と引き換えに仕事を続けていたら、いつか自己崩壊するぞ」と多香美に忠告する。
その頃、誘拐事件の捜査を任された宮藤は多香美の過去について調べ、妹が自殺していることを知る。兵藤が三島奈那子から受け取ったデータも、多香美に関するものだった。兵藤はいざというときは多香美に責任を取らせようと考えていた。
やがて事件当日の目撃者が現れ、仲田未空たちが上野にいたことが判明する。宮藤は綾香を殺した容疑者はほかにいる可能性があると考え始める。
東良綾香殺害事件の取材を続ける多香美。政治家から圧力がかかり捜査に影響が出ているのではないかと食ってかかる多香美に対し、宮藤は多香美の過去に触れて「恨みと怒りで真実が見えなくなっている」と忠告する。
そんな中、警察が緊急記者発表を行なうという一報が入る。赤城を見張っていた多香美は、赤城が高飛びするのではと懸念する。だが多香美に問い詰められた赤城は殺害を否定。さらに、警察が逮捕したのは赤城たちとは全く別の4人組のグループだったことがわかる。
事件当日、赤城や仲田未空たちにはアリバイがあった。彼らは美人局をして中年男性から金を脅し取っており、その被害者が情報提供したのだった。彼らが隠そうとしていたのは、綾香の殺害ではなく美人局のほうだった。
多香美に「綾香と仲田未空たちが一緒に帰るところを見た」と証言をした生方静留(原田えりか)は、未空に恋人を奪われそうになった腹いせにウソをついたことを認める。
「アフタヌーンJAPAN」の誤報は大問題となり、加えて多香美の過去を暴露する記事がネットに出てしまう。そこには、多香美が妹をいじめた相手に暴行を加えたことも書かれており、兵藤はそれを理由に多香美にすべての責任を押しつけて保身を図ろうとする。
里谷は兵藤が多香美の情報を流したのではないかと追及するが、局長の簑島(永島敏行)も承知の上だと知って失望する。多香美は関連会社への出向を命じられる。
逮捕された4人のうち1人は綾香の中学時代の同級生で、卒業後もSNSで繋がっていた。だが綾香が彼女の恋人を「キモい」と言ったことから関係が悪化し、制裁を加えたと自供する。だが宮藤は綾香のスマホが見つかっていないことが気がかりだった。
多香美は誤報の責任を負わされ関連会社への出向を命じられるが、里谷が多香美の代わりに関連会社へ行くことを申し出る。里谷は兵藤が多香美の過去の情報を流した張本人であることを明かし、「誰も当てにするな。お前の事件だ」と言い残して会社を去る。
警察は記者発表を行い、綾香が殺された経緯を説明。顔を焼かれた綾香の遺体を目撃している多香美は、SNSで悪口を言われたという動機が弱すぎると感じ、ほかに理由があるのではないかと疑う。
兵藤は誤報を「誤解を招く表現」として片付けようとする。納得がいかない多香美は謝罪させてほしいと局長に直談判するが、局長もまた「局として謝罪することはできない」と主張する。
多香美は宮藤に会い、綾香を殺害した4人の供述に曖昧な点があることを聞かされる。死因は首を絞められたことによる窒息死だったが、4人とも首を絞めた覚えがないと供述していた。さらに綾香のスマホが見つかっていないことも気がかりだと言う。
多香美は綾香の父・伸弘がテレビのインタビューに答え、綾香のスマホの待ち受けが実の両親との家族写真だったことを残念に思い、いつか自分と妻と綾香の写真に変えてもらうことが夢だった、と語っているのを聞く。
多香美が殺害現場へ向かうと、伸弘が一人で何かを探していた。多香美はなぜ綾香のスマホの待ち受け写真を見ることができたのかと伸弘に問う。綾香は生前、絶対にスマホを触らせなかったと母・律子が語っていたのだ。さらに、近所に住む主婦たちは、伸弘が綾香に暴言を吐かれているのを頻繁に見かけており、彼に同情していた。
多香美に追及されて開き直った伸弘は、多香美の口を封じようと襲いかかるが、宮藤たち警察官が駆けつけて伸弘は逮捕される。多香美があらかじめ連絡し、待機させていたのだ。
伸弘は不器用で仕事が続かず、すぐに会社を辞める癖があった。稼ぎがないことを理由に綾香に見下され、口汚く罵られれていた。事件の夜、綾香からの連絡を受けて現場に駆けつけた伸弘は、そこでも綾香に「寄生虫」と罵倒され、カッとなって首を絞めて殺害したのだった。
宮藤が現場で拾ったパチンコ玉には、伸弘の指紋と耳垢がついていた。事件の日、彼は仕事をさぼってパチンコをしており、ポケットに入れていた耳栓代わりのパチンコ玉がなくなったことに気づいて探していたという。
宮藤は多香美を同行させて綾香の母・律子のもとを訪ねる。伸弘が持ち去った綾香のスマホを調べると、自宅の固定電話にかける前、綾香は律子の携帯に24回も連絡していた。だが律子はそれに気づきながらも無視していた。唯一の味方だと思った母親にも裏切られたと感じた綾香は、その絶望を伸弘に向けたのだ。
律子は家族を養うために毎日働きづめで疲れ果て、精神的な余裕がなかったと語る。そして電話に出なかったことが罪に問われないとわかると、力なく「よかった」とつぶやく。
多香美は兵藤を説得し、母親であることを伏せるのを条件に、番組で扱う許可を得る。同じ悲劇を繰り返さないために、被害者の思いを伝えることが何よりも大事だと番組内で訴える多香美。そして誤報を出したことを謝罪し、今後も小さな声なき声を拾って報道していくことを誓う。
感想(ネタバレ有)
殺人事件の真相を追うサスペンスであると同時に、報道のあり方を問うドラマでもありました。
全4話と小品ながらも、起伏のあるストーリー展開と後半の(予想外な)盛り上がりが期待以上に面白かったです。原作は読んでいないので、原作通りなのかどうかわからないけど、救いのないラストに潔さを感じました。こういうのが見たかった。
新木優子さんの初々しい演技も、どこか危なっかしい主人公・多香美とうまく重なっていてよかったと思います。腕利きの刑事役・高嶋政伸さんや、頼りになる先輩役の池内博之さんなど、脇を固める俳優陣がしっかりしてるので、安心して見ていられた。
タイトルにある「セイレーン」は、美しい歌声で船乗りを惑わすギリシャ神話の登場人物。途中から多香美とセイレーンが重なり、タイトルの意味にも納得。
図らずもセイレーンになってしまった彼女が、どう立ち直り、事件と向き合っていくのかを興味深く見守るのと同時に、予想を裏切る終盤のどんでん返しにもワクワクさせられました。
逆に考えると、このラストを描くなら、もう少し朝倉家について丁寧に描いてもよかったのかな、と思ったりもします。
ひとつ物足りなさを感じたのは、マスコミの報道のあり方について問う部分。報道のタブーに切り込んだ、というほどの衝撃さはなかったかなと思います。最後に多香美が視聴者に向けて語ったことは、どこかで聞いたようなありきたりなセリフでしかなかった。
今はもう記者個人の問題意識がどうこうというレベルではなく、組織そのものに切り込まないと衝撃作とは言えないのではないでしょうか。