ネタバレ解説*BBCドラマ「ABC殺人事件」全話あらすじ・キャスト・感想

BBCドラマ「ABC殺人事件」

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BBCドラマ「ABC殺人事件」(全3話)の解説と感想です。

2018年12月26日から3夜連続で、BBC Oneにて放送されたドラマです。「そして誰もいなくなった」「検察側の証人」「無実はさいなむ」に続く、アガサ・クリスティシリーズ第3弾。

舞台は1933年のロンドン。年老いた名探偵ポワロのもとに挑戦状とも取れる手紙が届き、やがてABCのアルファベット順に犯行が行われる連続殺人事件へと発展していきます。

原作に登場するポワロの相棒ヘイスティングズが登場せず、原作にはない盟友ジャップ警部の死が描かれるなど、年老いたポアロの孤独と悲壮感が強調されているのが印象的。

後任の若いクローム警部との確執にも、ポアロの過去(戦争体験)を絡ませ、原作よりもずっと重いシリアスな演出になっています。

ポアロを演じたのはジョン・マルコヴィッチ。外見的にはあまりポアロっぽくはないですが、新鮮でした。

作品概要

  • 製作国:イギリス(2018年)
  • 原題:The ABC Murders
  • 原作:アガサ・クリスティ『ABC殺人事件
  • 脚本:サラ・フェルプス
  • 演出:アレックス・ガバシ

あらすじ

1933年のイギリス・ロンドン。年老いた名探偵ポワロのもとに事件を予告する挑戦状のような手紙が届く。署名は「A.B.C」。準備ができたらまた連絡すると書かれていた。やがて再び「A.B.C」から届いた手紙には、イニシャル「A」の町の名と3月31日という日付が。そして、その日、その場所で、イニシャル「A」の女性が殺される。連続殺人の始まりだった。ABCのアルファベット順に行われていく犯行。ポワロは犯人を突き止めることができるのか?

NHK公式サイトより

予告動画

原作について

このドラマの原作は、1936年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説『ABC殺人事件』です。ポアロシリーズの長編第11作目にあたります。

原作についてはこちら↓の記事に詳しくまとめています。

アガサ・クリスティ「ABC殺人事件」原作ネタバレ解説 ネタバレ有「ABC殺人事件」原作あらすじ解説|ポアロに届いた挑戦状の意味は?

登場人物(キャスト)

エルキュール・ポワロ(ジョン・マルコヴィッチ)
世界的に有名な私立探偵。ベルギー出身。第一次世界大戦中にイギリスに亡命した。「A.B.C」と署名された挑戦状のような手紙が届き、事件を阻止して犯人を捕まえるべく動く。

クローム警部(ルパート・グリント)
ロンドン警視庁の若い警部。ポワロの盟友ジャップ警部の後任者。優秀だが傲慢で、ポワロのことを過去の人物と見下している。ポアロがベルギーの警察官だったという過去を疑い、ジャップ警部が死んだのはポアロに騙されたせいだと思い込んでいる。

ジャップ警部(ケビン・マクナリー)
ポアロの盟友。現在は退職して郊外で暮らしている。「A.B.C」の手紙を持って訪ねてきたポアロを快く迎えるが、突然発作に見舞われてこの世を去る。

イェランド巡査部長(マイケル・シェーファー)
ロンドン警視庁の巡査部長。クローム警部の部下。クローム同様、ポアロを見下している。

アレキサンダー・ボナパルト・カスト(エイモン・ファレン)
ストッキングのセールスマン。物静かでおとなしい人物。マーブリーの下宿に滞在しながら、セールスの仕事をしている。殺人事件が起こる町に現れる。マーブリーの娘・リリーに金を払い、特別なサービスを受けている。

ローズ・マーブリー(シャーリー・ヘンダーソン)
下宿の主人。無愛想で、ずけずけとものを言う。娘のリリーに怪しい仕事をさせている。

リリー・マーブリー(アーニャ・チャロトラ)
ローズの娘。母の仲介で男性の下宿人に特別なサービスをしている。

メーガン・バーナード(ブロンウィン・ジェームズ)
母親と妹ベティと暮らす地味な女性。聡明だが自分に自信が持てずにいる。妹ベティの婚約者ドナルドとはかつて恋仲だったが、ベティに奪われた。今でもドナルドに心を寄せている。

ベティ・バーナード(イヴ・オースティン)
メーガンの妹。カフェで働く派手で遊び好きな女性。姉メーガンから恋人のドナルドを奪うが、ドナルドを「つまらない」と一蹴する。カフェで出会ったカストからストッキングを買い、金を払わず追い返した。

ドナルド・フレイザー(ジャック・ファーシング)
ベティの婚約者。もともとはメーガンの恋人だったが、魅力的な妹ベティに乗り換えた。ベティを信じており、メーガンに辛くあたる。姉妹の母親に気に入られている。

サー・カーマイケル・クラーク(クリストファー・ヴィラーズ)
上流階級の紳士。家族と愛犬を愛し、妻のハーマイオニーが不治の病に侵されていることに心を痛めている。秘書のグレイを信頼していたが、ある日彼女から誘惑されて憤り、クビを言い渡す。

ハーマイオニー・クラーク夫人(タラ・フィッツジェラルド)
サー・カーマイケルの妻。現在は重い病を患っている。「名探偵ポワロ」のファンで、かつて誕生日の余興にポワロを招き、推理ゲームを楽しんだこともある。秘書のグレイと夫との仲を疑い、義弟のフランクリンに見張らせている。

フランクリン・クラーク(アンドリュー・バカン)
サー・カーマイケルの弟。優しく魅力的な男性。ハーマイオニーに信頼されている。

ソーラ・グレイ(フレイヤ・メイヴァー)
クラーク家の秘書。美しく魅力的な女性。ハーマイオニーから夫との仲を疑われている。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

1933年のロンドン。年老いた名探偵ポワロのもとに、「A.B.C」という署名入りの挑戦状とも思える手紙が届く。手紙の内容に不安を覚えたポアロはロンドン警視庁を訪ねるが、旧知の仲であるジャップ警部は既に引退していた。ポアロはジャップの家を訪ね、再会を喜び合う2人。だがその直後、ジャップは突然の発作に見舞われこの世を去ってしまう。
ジャップの後任のクローム警部は若く優秀な人物だったが、老いたポアロを見下してまともに取り合おうとしない。「A.B.C」から届いた手紙には、イニシャル「A」の町の名と3月31日という日付が。そしてポアロの不安は的中し、その日、その場所で、イニシャル「A」の女性アリス・アッシャーが殺される。遺体のそばには「ABC鉄道案内」が置かれていた。
同じ頃、ストッキングのセールスマンをしているアレキサンダー・ボナパルト・カストがローズ・マーブリーの下宿へやってくる。カストは下宿に滞在しながら各地を訪れ、セールスの仕事をしようとしていた。カストはベクスヒルのカフェでベティというウェイトレスに出会い、ストッキングを売る。しかし彼女は代金を払わず、カストを罵倒して立ち去る。
ポアロのもとにまたもや手紙が届き、ベクスヒルの町でベティ・バーナードが殺害される。ポアロがベクスヒルから帰宅すると、クローム警部が家宅捜索を行っていた。クロームはポアロの過去を調べ、ベルギーで警察官だったという記録はないと主張。ジャップ警部が死んだのはポアロに騙され利用されたからだとポアロを罵る。

ポワロが鉄道案内の「C」のページを見つめていると、隣人がポワロ宛ての手紙を届けにくる。使用人が間違えて持ってきていたという。手紙には「チャーストン」の名と、今日の日付が。ポワロは急いでチャーストンに住むサー・カーマイケル・クラークの家に電話をするが、サー・カーマイケルは既に殺害されていた。サー・カーマイケルの弟フランクリンは、ポアロに直々に調査を依頼する。
ポアロは一連の事件の共通点が自分だということに気づき、クローム警部に伝える。ABCのいずれも、ポアロが以前に訪れたことがある場所だった。「B」の事件で殺されたベティの姉メーガンは、事件の夜、妹がいたクラブでポアロにそっくりなセールスマンを見たと証言する。「C」の事件で殺されたサー・カーマイケルの妻ハーマイオニーもまた、同様の証言をする。秘書のソーラを疑う彼女は、ポアロにフランクリンを守ってほしいと頼む。
ポアロのもとに次の手紙が届き、「D」の場所がドンカスターだと判明する。ポアロとクローム警部は以前ポアロが訪れたことのある〝ドンカスター競馬場〟へ向かうが、犯行は劇場で行われ、コメディアンのベニー・グルーが殺害される。犯人は腹話術師のデクスター・ドゥーリーと間違えたのだ。
ポアロは駅のホームで自分にそっくりな男を見かけ、後を追う。しかし男は姿を消し、「何者だ、エルキュール。本当は何者だ」と書かれたメモが残されていた。

犯人「A.B.C.」からの手紙が途絶える。ポアロは手紙の文面から犯人を知っているのではないかと考える。アレキサンダー・ボナパルト・カストはエンブシーの駅のトイレで目を覚まし、血の付いたナイフを握りしめていることに気づく。個室に横たわる遺体を見つけたカストは、その場から逃走する。
ポワロは事件に共通するストッキングの会社を訪れ、ストッキングを大量注文した人物がアレキサンダー・ボナパルト・カストという人物だと知る。リリーは警察がカストを探していることを知って彼を逃がそうとするが、カストは発作を起こして病院に運ばれる。
カストにアリバイがあることをリリーから聞いたポアロは、入院中のカストに会いに行く。カストはポアロ宛の手紙を書いた覚えはないと言う。犯行の場所を訪ねたのはストッキング会社から送られてきたリストに従ったからで、タイプライターは以前出会った男にもらったと話す。ポアロはカストが犯人ではないと確信する。
ポアロはカーマイケル卿の弟フランクリンと会い、2人は酒を飲む。ブランデーグラスから採取した指紋はカストの部屋のタイプライターについていた指紋と一致し、クローム警部はフランクリンを逮捕する。ソーラは彼が犯人だと知りながら隠していた。
フランクリンは偶然会ったカストが「A.B.C.」というイニシャルであることを知って犯行計画を思い立った。財産を相続する目的で兄カーマイケル卿を殺し、その犯行を隠すためにABC連続殺人事件を起こし、カストを連続殺人鬼に仕立て上げたのだった。
戦時中、ポアロはベルギーで司祭をしていた。当時司祭だったポアロは人々を教会に匿い、敵の少年兵を説得しようと試みて失敗、彼は仲間に銃殺される。ポアロ自身も敵兵に殴られて気を失い、気づくと教会は炎に包まれていた。
ポアロはフランクリンと面会する。フランクリンはクラーク夫人の誕生会でポワロが行った「殺人推理ゲーム」に魅了され、殺人を実行したと話す。フランクリンはポアロもまた自分と同類だと言い、秘密を打ち明けてくれと懇願する。ポアロは何も話さず、フランクリンの絞首刑が執行される。

解説と感想(ネタバレ有)

ポアロじゃなければよかった

良くも悪くも現代的な解釈のポアロでした。

エンタメ要素が大幅に削ぎ落とされ、原作を読んだときに感じた疾走感も消え、ポアロはまったく探偵らしくなく、悲壮感漂う老いたポアロに同情を覚えるほど、徹底的に暗くて不気味な雰囲気だった。

BBC制作のドラマシリーズは(暗いところも含めて)おおむね好きなんですけども、今回は…今ひとつ好きになれなかったなぁ。いくつかの新しい解釈は面白かったけれど。

先に原作を読んだせいか、ポアロシリーズという感じがしなかった。いっそのことポアロじゃなくてオリジナルキャラクターだったら、違和感なく受け入れられたかもしれない。

原作にはないポアロの暗い過去

原作との大きな違いは、やはりポアロの過去です。

原作のポアロはベルギーで警察官として活躍し、署長にまで出世した人物なのですが、今回のドラマ版ではまさかの〝司祭〟に変更されていました。

ドラマ版のポアロの口癖が「メザンファン」で、序盤から意味がわからなかったのですが、最終話でようやく腑に落ちました。これ「わが子たちよ」という意味だったんですね。

フラッシュバックで何度も現れていた青年は、ポアロが説得しようとした敵兵で、彼はポアロを撃つことができなかったために殺されました。教会にも火がつけられ、中にいた人々は殺害されたと思われます。

こんな重い過去をポアロに背負わせるのか…。こっちの衝撃が強すぎて、悲惨なはずの連続殺人事件が吹き飛んでしまいました。

できればこんな孤独で暗くて悲壮感あふれるポアロは見たくなかった、というのが正直な感想。

ポアロに心酔する犯人

犯人はカーマイケル卿の弟フランクリン。これは原作と同じでした。財産目当てという動機も同じです。ただし、原作とドラマ版のフランクリンの造形は全く異なります。

少年の心を持ち、大胆不敵で冒険好き、順序立てるのを好む、という原作のフランクリンが持つ気質は、ドラマ版では影をひそめています。

代わりに「ポアロに心酔している」「殺人をゲームとして楽しむ」という要素が加わっていました。そのきっかけが、ポアロが誕生会の余興で行った「殺人推理ゲーム」だったと。

「人を殺していかに逃げおおせるか。命を断ち切る数々の方法。僕は魅了されました。同類だと思った、あなたは」

ABC連続殺人事件の発端が、ポアロ自身だったという驚愕の真実。フランクリンはポアロの中に〝秘密〟を感じ取り、それを打ち明けてもらえる対等な存在になりたかったと明かしていました。

原作のフランクリンは、ポアロに対して特別な気持ちは持っていません。ポアロに手紙を送ったのは、ただ単に都合がよかったから。

なぜなら、本命である「D」の殺人予告は誤配で遅らせる必要があり、それは個人宛でなければ不可能。そしてポアロならば必ず手紙を警察に届け、連続殺人事件が大々的なニュースになる(カムフラージュが完成する)と思われたからです。

旅立っていく女性たち

事件解決後の登場人物たちの描き方も、原作とは大きく異なります。

犯人と間違われたアレキサンダー・ボナパルト・カストは、手術によって一命を取り留めました。リリーは意識が戻らないカストのそばについています。母親のもとを離れ、カストと生きていく決意をしたのかもしれません。

原作ではリリーは別の人と結婚が決まっています。カストは一躍有名人となって、新聞社から100ポンドの取材の申込みが入ります。

ベティの姉・メーガンは、ベティの婚約者ドナルドと愛のない結婚をさせられそうになり、ひそかに家を出ていきました。原作のドナルドはいい人で、2人は結ばれるんですけどね。

ソーラは原作よりも悪女でしたね。原作のソーラは計算高い女性ではあるものの、フランクリンの犯罪には一切関わっていません(最後まで知らなかった)。

女性たちは自らの手で幸福をつかもうと、旅立っていく。
原作のような明るさはなかったけれど、彼女たちのタフな姿に救われました。

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