映画「女神の見えざる手」伏線解説と感想|無敵の女が仕掛けた驚愕の罠

映画「女神の見えざる手」あらすじ感想

「女神の見えざる手」

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どうも、夏蜜柑です。
映画「女神の見えざる手」を観ました。

なんの予備知識もなく見たのですが……すごかった……!!

タイトルとあらすじからは予想もつかない驚きの内容。
未見の方は騙されたと思ってぜひ見てほしい。

脚本がすばらしくよくできていて、ミステリーやサスペンスが好きな人は楽しめると思います!(脚本家のジョナサン・ペレラは元弁護士で、これが初めての脚本だというからなおビックリ)

できればこの記事を読まずに、今すぐAmazonプライム・ビデオU-NEXTで映画を見て欲しいのですが、参考までに映画を見ている時のわたしの感想を時系列で表現してみました。

  1. 「ロビイストとか銃規制とか、ピンと来ないなぁ」
  2. 「セリフが早すぎて何言ってるかわからない」
  3. 「この主人公、あんまり好きじゃないな」
  4. 「これ、どこがサスペンスなの?」
  5. 「あーあ、モヤモヤする映画だったな-」
  6. 「えっっっっっっっ!!!??」

 

作品概要

  • 配信:Amazonプライム・ビデオU-NEXT
  • 製作国:アメリカ/フランス
  • 上映時間:132分
  • 公開日:2016年11月25日(アメリカ)/2017年3月8日(フランス)/2017年10月20日(日本)
  • 原題:Miss Sloane
  • 監督:ジョン・マッデン
  • 脚本:ジョナサン・ペレラ

あらすじ

天才的な戦略でロビー活動を仕掛けるエリザベス・スローン。真っ赤なルージュで一流ブランドとハイヒールに身を包み、大手ロビー会社で花形ロビイストとして辣腕をふるう彼女が、銃の所持を支持する仕事を断り、銃規制派の小さな会社に移籍する。アイデアと大胆な決断力で、難しいと思われた仕事に勝利の兆しが見えてきた矢先、彼女の赤裸々なプライベートが露呈し、重ねて予想外の事件が事態を悪化させていく。勝利の女神は誰に、どんな風に微笑むのだろうか…?(Filmarksより)

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コロムビアミュージックエンタテインメント

登場人物(キャスト)

エリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)
敏腕ロビイスト。勝つためには手段を選ばず、一切の妥協を許さない。大手ロビー会社〈コール=クラヴィッツ&W〉で辣腕をふるっていたが、銃擁護派団体からの仕事を断り、銃規制派の小さなライバル会社に移籍する。不利と思われた形勢を大胆な戦略で変えていくが、やがて彼女の過去のスキャンダルが暴かれる。

ロドルフォ・シュミット(マーク・ストロング)
銃規制法案の成立に尽力する小さなロビー会社〈ピーターソン=W〉のCEO。エリザベスをスカウトした人物。彼女のなりふりかまわぬやり方に疑念を抱くようになる。

エズメ・マヌチャリアン(ググ・バサ=ロー)
〈ピーターソン=W〉の社員。高校時代、銃乱射事件に巻き込まれた過去を持つ。事件の被害者であることを隠して生きてきたが、エリザベスの戦略によってロビー活動に利用される。

ジョージ・デュポン(サム・ウォーターストン)
〈コール=クラヴィッツ&W〉でのエリザベスの上司。銃擁護派団体からの仕事を断ったエリザベスに、解雇を言い渡した。ライバル会社に移籍したエリザベスを失脚させるため、彼女の過去のスキャンダルを暴こうとする。

ジェーン・モロイ(アリソン・ピル)
〈コール=クラヴィッツ&W〉の社員。ロビー活動の汚れた現実に幻滅し、学業へ戻ることを望んでいる。エリザベスの腹心の部下だったが、エリザベスを裏切り〈コール=クラヴィッツ&W〉に残ることを選択する。

パット・コナーズ(マイケル・スタールバーグ)
エリザベスの移籍後、銃擁護派の依頼を受けて工作チームのリーダーになる。エリザベスの部下を買収するなど、あらゆる手段を使ってエリザベスに対抗する。

ロナルド・M・スパーリング(ジョン・リスゴー)
上院議員。エリザベスが召喚された上院倫理規則違反に関する聴聞会の議長を務める。

感想

あーーーびっくりした。面白かった。
コンゲームとはまったく予想してなかったので、完全に騙されました。

毒を以て毒を制す。
あるいは、肉を切らせて骨を断つ。

見事な逆転劇。

それだけでなく、今までに感じたことのない不思議な(決して悪くはない)余韻を残す作品でもありました。

途中、あまりにもセリフの応酬が凄まじくて、まったくついていけず、途中で何度も挫折しかけました(しなくてよかった)。

主人公エリザベスのキャラクター造形と脚本が見事です。

3分の2見終わった段階で、わたし完全にエリザベスのこと嫌いになってましたからね……。制作側の思うツボ。エリザベスを演じたジェシカ・チャステインが完璧でした。

初回は字幕で、2度目は日本語吹替版で見ました。
字幕を追うのが結構大変なので、疲れている時は「吹替版」で見たほうがいかも……。

簡単なあらすじ

物語は、主人公エリザベスが聴聞会に召喚される場面から始まります。

弁護士と質疑応答の練習をした後、議事堂へと向かうエリザベス。彼女は11年間在籍した〈コール=クラヴィッツ&W〉での仕事で不正を行ったとされ、スパーリング上院議員に真偽を問われます。

そこから、3ケ月と1週間前に遡ります。

大手ロビー会社〈コール=クラヴィッツ&W〉の花形ロビイストとして活躍していたエリザベスは、ある日、銃擁護派団体から「女性たちが銃器保有賛成派に転じるように導いてほしい」と依頼されます。

信念に反するとして依頼を断ったエリザベスは、上司から「依頼を受けるか、会社を辞めるか」の二者択一を迫られることに。

エリザベスは数人の部下たちを連れて会社を辞め、銃規制派の小さなライバル会社〈ピーターソン=W〉に移籍します。

しかし、たったひとつの誤算は、彼女に従うと確信していた腹心の部下・ジェーンが〈コール=クラヴィッツ&W〉に残ったこと。

かくして、〈ピーターソン=W〉対〈コール=クラヴィッツ&W〉の全面戦争へ。

エリザベス率いる工作チームは大胆な戦略で形勢を有利にしていきますが、やがて彼女の行き過ぎた行為が問題視されるようになります。

さらに、ジェーンら元同僚たちがエリザベスの過去のスキャンダルが暴き、エリザベスは窮地に立たされることに……。

 

以下、伏線とネタバレに触れています。
未見の方はご注意ください。

 

伏線その1・冒頭のセリフ

映画は、エリザベスのセリフから始まります。

「ロビー活動は予見すること。敵の行動を予測して、対抗策を考えること。勝者は、敵の一歩先を読んで計画し、自分の手を見せるのは、敵が切り札を使った後。相手の不意を突いても、自分が突かれてはだめ」

このセリフがすべてを語っていますね。

エリザベスは「敵の一歩先を読んで計画」し、「敵が切り札を使った後」に「自分の手を見せ」た。すべてはエリザベスの計画通りに進められていたことが、最後に明らかになります。

伏線その2・ジェーンの回想

聴聞会でエリザベスが尋問されるシーン。
エリザベスの背後には、眼鏡をかけた女性ジェーンがエリザベスをじっと見つめています。

彼女の顔がアップになり、やがて3ケ月と1週間前の回想シーンへと移行します。

つまり、この回想はジェーンのもの。
彼女が物語の〝鍵〟を握っていることが示唆されています。

伏線その3・仕事を辞めたいジェーン

回想はエリザベスとジェーンのシーンから始まります。

やっと奨学金を返済したと喜ぶジェーン。
彼女が今すぐ仕事を辞めて学業に戻りたいと思っていることが視聴者に伝えられます。

ジェーンはロビー活動で政治の汚い裏側をさんざん見せられ、嫌気が刺していたんですね。それに対してエリザベスは、「実社会が嫌なら、あなたが変えるしかない」と言う。

このときはまだ作戦を立てる前なのですが、ジェーンはその言葉を実行したことになりますね。

 

伏線その4・ソクラテスとプラトン

銃規制法案を成立させようとする小さなロビー会社〈ピーターソン=W〉にスカウトされたエリザベスは、その夜、ジェーンに電話して訊ねます。

「ソクラテスが何も書いてないのなら、どう民衆を惹きつけたの?」

ソクラテスは古代ギリシャの哲学者。

彼自身の著作はなく、彼の言葉として伝えられているものは、すべて弟子のプラトンらが書き残して広めたもの。

彼が後世に名を残すほどに有名になったのは、プラトンのおかげと言ってもいい。

そしてこの作品におけるプラトンは、ジェーンです。
エリザベス(ソクラテス)を生かすのは、ジェーン(プラトン)なのです。

エリザベスは「会って話がしたい」とジェーンを呼び出すのですが、2人が会う場面、話した内容については明かされません。この飛ばされた場面こそが重要で、エリザベスの周到な計画はここから始まっていました。

伏線その5・ジェーンとの決裂

翌朝、エリザベスは上院倫理委員会に出す書類にサインし、ジェーンに渡しています。

この書類こそが、のちにエリザベスが規定違反をしたとして聴聞会にかけられることになる、問題の書類。もちろん、それも計算のうえで用意していたんですね。

そしてエリザベスはこの席で〈ピーターソン=W〉への移籍を宣言し、「私と一緒に来る人は?」と問う。

4人がエリザベスに従いますが、ジェーンは保身を理由にまさかの残留。
エリザベスは「敵に回すなら、私は一切手加減しない」と宣戦布告します。

もちろんこれも、エリザベスが描いた筋書き。
2人が決裂したように周囲に思わせ、実は繋がっていたんです。

ジェーンは〝密偵〟として〈コール=クラヴィッツ&W〉に残されたのです。

そもそも汚い現実を見るのが嫌で、仕事を辞めて学業に専念したいと言っていたジェーンが、そんなに簡単に心変わりして野心を抱くなんて変ですもんね。

伏線その6・エリザベスの盗撮

エリザベスは会社とは別に非公式のサポートチームを持っています。

彼らは24時間の監視や携帯のハッキング、ゴキブリを改造した最先端の盗聴器を使った盗聴を担当。しかしそれを知ったシュミットは、規範を破る行為を禁じます。

それっきり、この話は終わったのかと思っていました。
聴聞会でも、エリザベスははっきりと否定していましたからね。

ところが、実はこのゴキブリ盗聴器が、いちばん大事な場面で大活躍していたんです!

 

捨て身の罠

エリザベスとジェーンが仕掛けた罠は、敵(デュポン)を動かすことに。

彼はスパーリング上院議員と密会し、「聴聞会でエリザベスを潰してくれたら大金を支払う。だが断れば政界から抹殺する」と脅しをかけます。

それこそが、エリザベスが〝望んでいたもの〟。

エリザベスはその密会現場を盗撮・盗聴し、聴聞会で動画を公開。
場内は騒然とします。

エリザベスの部下も、シュミットも、弁護士も、誰ひとり、彼女の計画を知らされていなかった。たったひとり、ジェーンを除いては。

なぜなら、偽証罪の刑期は5年。
エリザベスは仲間が罪に問われずにすむように、誰にも言わずに計画を進めたのです。

そして彼女の人生そのものと言ってもいいキャリアを懸けて、この戦いに挑んだのです。

エリザベスが戦っていた敵とは?

最初から、エリザベスの敵はジェーンでも、元同僚たちでもなかった。
彼女の敵は、祖国アメリカでした。

「この国の制度は腐敗しています。良心に従って投票する政治家は報われません。得をするのはネズミです。うまい汁を吸い続けるため祖国を売り渡すネズミです。間違えないでください。このネズミたちが、アメリカの民主主義を蝕む本当の寄生虫です」

彼女がこのオファーを受けたのは、キャリアのためでもお金のためでもなかったことが明らかになります。

〈ピーターソン=W〉が用意した彼女への報酬額は、「0ドル」でした。

ジェーンのよりどころ

聴聞会でエリザベスが動画を公表する直前、ジェーンはその場でコナーズに会社を辞めることを伝えました。

なんというタイミング。
このシーンで、わたしもようやくピンときました。

彼女が〝密偵〟だったのだと。

ジェーンがコナーズに渡した封筒の中には、エリザベスがシュミットに初めて会ったとき彼から渡されたメモが入っていました。

「勝つ能力以外に信じるものは…」と走り書きされたメモの裏には、「ピーターソン=Wが支払う報酬額は0ドル」と書かれていました。

ロビー活動の汚さにウンザリしていたジェーンにとって、それは何よりも信じるに値する言葉だったのではないでしょうか。

そして現実から逃げるのではなく、自らの手で現実を変えるために、エリザベスの計画に加担することを決めたのだと思います。

エリザベスの孤独

毎日16時間以上働き、不眠症であるにも関わらず、精神刺激薬を使用して長く眠らないようにしていたエリザベス。

恋人の代わりにエスコートサービスの男性とつかの間の逢瀬を楽しみ、ことが終わればお金を払って、すぐに仕事に切り替える。

ロビイストとしての彼女の有能ぶりがパワフルに描かれる一方で、プライベートのエリザベスには孤独で繊細な影がつきまとう。

といっても、エリザベスの過去や家族関係が明かされることはありません。
これまでどんな人生を生きてきたのかも、わかりません。

何もわからないところが、かえってエリザベスという人物を魅力的に見せていたように思います。

物語は、ひとりで罪を背負ったエリザベスが出所するシーンで終わります。

彼女の孤独が突き刺さるのと同時に、その孤独に清らかさを感じている自分もいて、不思議な後味を残す作品でした。

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