映画「犬神家の一族(1976)」ネタバレ徹底解説|あの足はだれ?

映画「犬神家の一族(1976)ネタバレ解説・キャスト・予告動画

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珠世の出生の秘密

金田一は那須神社を訪ね、「斧、琴、菊(よきこときく)」の謂れについて尋ねる。もともとは先々代の神官の野々宮大弐が神社の守り言葉として考え出し、黄金製の「斧」「琴」「菊」を作って神社の宝としていたが、佐兵衛が事業を始めたときにお祝いとして贈ったものだという。

犬神家と野々宮家の繋がりに注目した金田一は、大山神官から珠世が佐兵衛の実の孫であることを聞き出す。

当時、野々宮大弐は妻帯していたが、女性に対しては完全な不能者だった。そのため佐兵衛を寵愛し、2人は衆道の関係にあったという。処女妻だった晴世(仁科鳩美)と佐兵衛はいつしか結ばれ、大弐はその関係を許した。

晴世が産んだ娘・祝子は大弐が自分の子として入籍し、やがて成長した祝子が養子をもらって産んだ娘が珠世だったのだ。

映画では、ここではじめて「斧、琴、菊」の謂れや、佐兵衛と野々宮大弐の衆道関係が、大山神官の説明で明らかになります。

珠世の出生の秘密(佐兵衛の孫であること)についても、映画では金田一が大山神官から内密に聞き出す…という流れなのですが、原作ではまったく違います。

みんなが揃っているところに大山神官がいきなりやってきて、「わかりましたよ、遺言状の秘密が」と得意気に暴露してしまうのです。そこには松子たち3姉妹だけでなく、佐清も、珠世本人もいたというのに。

その後、金田一も唐櫃の文書を読み、佐兵衛と野々宮家のいびつな関係を知ることになります。

佐兵衛と晴世が愛し合うようになり、それを晴世の夫である野々宮大弐が認めていたというのは原作どおりではあるのですが、佐兵衛が抱く感情については、原作と映画とでは微妙に違うような気がします。

映画では、金田一がこのように推測していました。

「生涯ただひとり本当に愛した女性が、恩人の妻だったという…。佐兵衛翁の鬱積した感情は、金、女、権力、人間のありとあらゆる欲望をむさぼり、食い散らしたんでしょう」

原作では、佐兵衛が正妻を持たなかった理由は、晴世への愛を貫くためでした。同時に3人の妾を持ったのは、1人ならいつか愛情が移ってしまうかもしれない、と恐れたためです。

佐兵衛が晴世(と娘の祝子)を愛すれば愛するほど、3人の妾と娘(松子たち)は冷酷に扱われる。そういう哀しい運命でした。

また、青沼菊乃は晴世のいとこの子どもにあたり、彼女が晴世の血縁のただひとりの生き残りであることが、佐兵衛から深い寵愛を受けた理由になっているました。

ゴムマスクの男の正体

松子は珠世に佐清との結婚を迫るが、珠世の返事は否だった。「この人は佐清さんではありません」と言われ、動揺する松子。松子に問い詰められた佐清は、青沼静馬(あおい輝彦)であることを明かす。

静馬はビルマの戦線で自分とよく似た佐清と出会い、意気投合したという。だがその後、佐清の部隊は全滅し、静馬自身も顔にひどい傷を負った。静馬は犬神一族への恨みだけを支えに生き延び、佐清に成り代わって犬神家をのっとる決意をしたのだった。

松子が珠世に結婚の返事を迫った結果、ゴムマスクの佐清が偽者だとわかる驚愕の場面。

ここは原作にはありません。ゴムマスクの男=青沼静馬と判明するのは、原作ではもっと後になってから。金田一による謎解きの場面まで待たなくてはなりません。

第4の事件・逆立ち死体の謎

翌朝、湖で逆さになった遺体が発見される。遺体の顔には傷があり、斧で頭を割られていた。警察は佐清だと判断するが、金田一の進言で手形と指紋を確認することに。すると奉納手形とは一致せず、佐清ではないことがわかる。

珠世の部屋に、兵隊服の男が現れる。男の正体は本物の佐清だった。佐清は「みんな僕が殺した」と告白し、珠世に別れを告げて立ち去る。だが猿蔵に尾行され、佐清は豊畑村の空き屋敷で警察に逮捕される。

珠世は佐清が置いていった告白書を金田一に渡す。そこには、「連続殺人事件の犯人はすべて私、犬神佐清である」とか書かれていた。

有名な、湖の逆立ち死体のシーン。
ボートに乗って「おーい、もう一度水につけろ」と言った刑事が、角川春樹氏でした。

原作と大きく違うのは、季節の設定です。映画は9月下旬ですが、原作では12月中旬。逆立ち死体は、凍った湖の氷の中に逆さに埋まっている、というのが原作での発見時の状態でした。

さらに、映画では金田一が指紋を確認するよう警察に頼んでいましたが、原作の金田一は死体が別人であることにまったく気づいていません。珠世が「指紋をとってほしい」と頼むのを聞いて、本気で驚いていたくらいです。

死体の見立てについても原作と映画では異なります。

映画では「斧」そのものが凶器として使われていましたが、原作では絞殺です(斧が警察に没収されていたため)。犯人は佐清の死体を逆さまにし(ヨキケス)、湖面から半分だけ出すことで「ヨキ(斧)」を現していました。

また、本物の佐清が珠世に別れを告げに来るシーンや、珠世が金田一に告白書を渡すシーンは、原作にはありません。

原作の佐清は珠世を殺すフリをして逃亡しています。その後、警察と金田一による派手な追跡劇の末に、佐清は雪ヶ峰で捕まりました(告白書はポケットに入っていました)。

もうひとつ。原作では、湖の死体が発見された後、青沼菊乃が那須警察署に出頭してきます。そこではじめて、青沼菊乃=宮川香琴(松子の琴の師匠)であることが判明します。

犬神家から逃れるために必死に身元を隠して生きてきた彼女が、わざわざ出頭してきた理由は、自分が犯人ではないことを訴えるため。そして彼女の証言により、青沼静馬が佐清にそっくりであることや、佐智が殺された夜に松子が指を怪我していたことがわかります。

映画にも岸田今日子さん演じる琴の師匠が登場し、松子の怪我について証言しますが、「実は青沼菊乃だった」という設定は失われています。そこがちょっと残念。

佐清の供述

警察の取り調べを受けた佐清は、静馬を脅して佐武と佐智の殺害を手伝わせたと供述する。だが金田一は、佐清こそ静馬に脅されていたのだと推測する。

佐清が博多に復員したとき、犬神家にはすでに自分を名乗る人物がいた。そのことを新聞で知った佐清は、青沼静馬だと思い、誰にも知られずに彼と入れ替わろうとした。

だが犬神家に忍び込んで静馬を呼び出すと、彼は顔に怪我をして仮面を被っていた。人知れず入れ替わることはできなくなり、さらにその日、2人が密会していた展望台で佐武が殺されるという事件が起きた。

金田一はそのとき佐清が犯人を目撃し、その犯人をかばうために自分が罪をかぶろうとしているのだと指摘する。佐清がかばっていた犯人とは、自分を産んだ母・松子だった。

警察署で佐清の取り調べが行われます。佐清を演じるのは、あおい輝彦さん。このとき28歳。

原作では、佐清が捕まると、場面はすぐに犬神家の奥座敷に移ります。金田一と犬神家の人々が待ち受けるところに、橘署長が佐清を連れてやってくる。そしてこのまま金田一による謎解きに突入します。

まずは佐清が犯人ではないこと、彼が犯人をかばい、罪をかぶって自殺しようとしたことが暴かれます。原作では、ここでようやくゴムマスクの男=青沼静馬であることが明かされます。

松子と佐清の再会

金田一は犬神家を訪れ、松子と2人きりで会う。そして本物の佐清が、一連の殺人事件の容疑者として逮捕されたことを告げる。佐清ではないと言う松子に、「犯人はあなたですね?」と問う金田一。

金田一は昨夜、松子の母・お園に会ってきたことを明かす。お園は金を無心するために松子をつけまわし、偶然、松子が駅で若林にたばこを渡すところを目撃していたのだった。

さらに、金田一は佐清が佐武殺しの現場を目撃していたこと、珠世が佐兵衛の孫であることを告げる。自らの手で佐兵衛の望みを叶えてしまったことに気づいた松子は、「佐清に会わせてください」と金田一に懇願する。

佐清は手錠を掛けたまま連れてこられ、母・松子と5年ぶりに再会する。金田一は別室で待っていた橘署長と古館弁護士、竹子夫婦と梅子夫婦、そして珠世を呼び、一同の前で事件の真相を解き明かす。

金田一が松子と2人きりで会うシーンも、原作にはありません。

映画では、まず最初に松子の犯行が暴かれますが、原作では佐清の告白が先でした。戦地での静馬との出会い、帰国してからのこと、連続殺人の後始末のこと。佐清と静馬がそのときどういう行動を取ったのかが、佐清本人の口から詳細に語られます。

松子が若林を殺した理由と方法(たばこに毒を仕込んだ)は原作と同じですが、入手経路については原作では明らかにされていません。

また、松子の母による「那須駅で若林にたばこを渡すのを見た」という証言も、原作にはありませんでした(原作では松子の母は故人)。

金田一の謎解き

佐清の手形が一致したのは、佐武が殺された夜に静馬と佐清が入れ替わっていたためだった。佐清はゴムの仮面をつけて屋敷に残り、静馬は復員姿になって首なし死体を湖に運び、そのあと柏屋へ泊まりに行った。

松子は佐智を殺した夜のことを話す。琴の稽古を途中で抜け出した松子は、豊畑村の空き屋敷から戻ってきた佐智を着物の帯締めで絞め殺した。そして佐清と静馬がその遺体を屋根の上に置き、首に琴の糸を巻き付けて三種の家宝の呪いに見立てた。

松子は佐智殺害の際にひとさし指を負傷し、その痛みを堪えて琴を弾いていた。師匠は盲目ながら、松子の琴の音色でそのことに気づいたと証言していた。

仮面の男の正体が青沼静馬だと知った松子は、犬神家をのっとるという静馬の目的を知り、蔵にあった斧で静馬を殺害した。そして佐清が遺体を湖に落としたのだった。

通夜の夜に珠世の部屋に忍び込んだ兵隊服の男は静馬で、指紋のついた懐中時計を盗むためだったが、時計は松子が佐武を殺したときに拾って隠し持っていた。

映画ではここで一同が揃い、本格的に金田一の謎解きが始まりました。

佐清は空き屋敷から戻ってきた理由を「珠世さんのことが心配だったから」と答えていますが、原作では「東京へ行くための金を静馬からもらうため」でした。佐清はもう那須には自分の居場所がないと諦めていたのです。

また、映画では佐清が静馬の死体を湖に投げ込んでいるのに対し、原作では(佐清は東京へ行っていたため)松子自身が死体に工作を行って遺棄しています。その理由は、本物の佐清が生きていることを確かめるまでは、捕まるわけにはいかなかったから。

そして、松子が青沼静馬を殺害する場面。
映画は恐怖を煽る演出になっていますが、原作の青沼静馬は、映画ほど恐ろしい人物ではありません。

松子に正体を明かしたのも、珠世が姪だとわかって結婚を躊躇したからで、映画のように「おふくろの恨みを晴らしてやる!」とか「佐清になりかわって、犬神家を乗っ取ってやる!」などと言って松子を脅してもいません。

むしろ怒り狂った松子を見て怯え、逃げようとしたところを絞め殺されるという…なんとも哀れな存在です。

映画で松子が返り血を浴びるシーンは、小道具のミスで大量の血が噴出した、という裏話があります。

エンディング

松子は珠世の気持ちを確認し、佐清が刑を終えて出てくるまで待つという答えを聞いて安堵する。松子は毒入りのたばこを吸い、「佐清、珠世さんを父の怨念から解いておやり」と言い残して倒れる。

「しまった!」と叫んで松子に駆け寄る金田一だったが、松子はすでに息絶えていた。

金田一が那須を発つ日。古館は金田一に金を払い、感謝を伝える。橘署長や珠世らが駅まで見送りに行こうとするが、見送られるのを嫌った金田一は予定よりも早い列車に飛び乗る。

珠世の気持ちを確認し、安堵したように自ら命を絶つ松子。

原作では、古館弁護士から珠世に三種の家宝が手渡され、さらに珠世の手から佐清に贈られます。それを見届けた松子は煙管にたばこを詰め、「もうひとつお願いがあるの」と珠世に言います。

それは、まもなく生まれてくる小夜子の子どもに、犬神家の財産を半分わけてやってほしい、というものでした。

それが竹子や梅子に対する、せめてもの罪滅ぼしだと。珠世が承諾するのを聞いて、松子は息を引き取ります。原作はここで終わっています。

映画では、後日譚が付け加えられました。

古館弁護士からお金を受け取り、見送りを拒んで人知れず那須を去る金田一。このラストシーンの爽やかな余韻が大好き。ちなみに金田一がお金を受け取るシーンは、角川春樹氏のアイデアだとか。

僕もいろいろとアイデアを出しました。たとえば、最後に金田一が弁護士とおカネのやりとりをする場面。米国の探偵映画には必ず探偵におカネを渡して、領収書を受け取るシーンがあって、これを日本映画でやりたかったんです。

現代ビジネス「日本映画に革命を起こした『犬神家の一族』はここがスゴかった」より

市川崑監督は金田一を「神様」や「天使」のような存在だと解釈していたとか。だから毎回、金田一の去らせ方に苦労したそうです。

横溝作品は「犬神家の一族」に限らず、これからも映像化されるとは思うけど、当然ながら原作の時代設定からはどんどん遠のいていく。昭和20年代を再現することは、ほとんど不可能と言っていいくらい難しくなっていくと思います。

もちろんこの映画も公開当時は新しかったに違いないのだけど、2023年から見ると(素人の目には)あまり違和感がないんですよね。そこが面白くもあって。もしかしたら、時間がたてばたつほど、レジェンド作品になっていくのかもしれない。

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参考資料

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