ネタバレ解説*BBCドラマ「蒼ざめた馬」全話あらすじ・キャスト・感想

BBCドラマ「蒼ざめた馬」ネタバレ解説

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BBCドラマ「蒼ざめた馬」(全2話)についてまとめました。

2015年の「そして誰もいなくなった」に始まる、BBCのアガサ・クリスティドラマ化シリーズ第5弾。本シリーズにおけるサラ・フェルプス脚本は、今回が最後になると伝えられています。

原作を読んでからドラマを見たのですが、主人公マーク、および彼をとりまく登場人物の設定は、ほとんど原型を留めていませんでした。原作の複雑な殺人システムも簡素化されているので、やや物足りない感じ。

その一方で、オカルトのまがまがしい雰囲気は原作以上の盛り上がり。含みを持たせた終わり方など、全体の雰囲気を楽しむという点では面白かったです。

作品概要

  • 製作国:イギリス(2020年)
  • 原題:The Pale Horse
  • 原作:アガサ・クリスティ『蒼ざめた馬
  • 脚本:サラ・フェルプス
  • 監督:レオノラ・ロンズデール

あらすじ

ある日、マーク・イースターブルックのもとに警察から連絡が来た。ジェシー・デイヴィスという女性の遺体が発見され、彼女の靴の中から、マークの他、複数の人たちの名前が記された謎のリストが発見された、というものだった。やがて、リストに記されている人が一人一人死んでいく。
最初は相手にしなかったマークだったが、身の危険を感じ始め独自に調べていくと、“蒼ざめた馬”という館に住む、謎めいた3人の女性の存在に行きつく。ジェシーも、そして亡くなったマークの妻も、“蒼ざめた馬”に生前訪れていたという事実を知るのだった。魔女と噂される、“蒼ざめた馬”の彼女たちの呪いなのか?
そして、ジェシーとリストに記されていた人たちが亡くなる前そうであったように、マークの髪の毛も抜け始める…。

AXNミステリー公式サイトより

予告動画

原作について

このドラマの原作は、1961年に発表されたアガサ・クリスティの推理小説「蒼ざめた馬」です。

ポアロやミス・マープルは登場せず、主人公の歴史学者マーク・イースターブルックとルジューン警部が協力し、事件の真相を追います。

原作についてはこちら↓の解説記事に詳しくまとめています。

アガサ・クリスティ原作「蒼ざめた馬」ネタバレ感想 ネタバレ有「蒼ざめた馬」原作あらすじ解説|オカルトを取り込んだ殺人システム

登場人物(キャスト)

マーク・イースターブルック(ルーファス・シーウェル)
裕福な古美術商。愛する妻デルフィーヌを事故で失い、友人のハーミアと再婚した。死んだジェシーが書き残したリストに名前が載っていたことで、事件に巻き込まれていく。

ハーミア・イースターブルック(カヤ・スコデラーリオ)
マークの再婚相手。精神的な問題を抱え、薬を服用している。マークの浮気を疑い、秘密を暴こうとする。

デルフィーヌ・イースターブルック(ジョージナ・キャンベル)
マークの亡き妻。入浴中にラジオを聴いていて感電死した。マッチ・ディーピングの“蒼ざめた馬”で占ってもらったことがある。

ルジューン警部(ショーン・パートウィー)
事件を担当する老練な刑事。細部にこだわり、犬のように嗅ぎ回る。マークに疑いの目を向ける。

ザカライア・オズボーン(バーティ・カーヴェル)
金物店の店主。リストを書き残して死んだジェシーの雇い主。リストに名前が載っており、死を恐れる。

ジェシー・デイヴィス(Madeleine Bowyer)
リストを書き残して死んだ女性。オズボーンの店で働いていた。

デイヴィッド・アーディングリー(ヘンリー・ロイド=ヒューズ)
マークが家族ぐるみで仲良くしている友人。怠け者で、しょっちゅうマークから金を借りて遊び暮らしている。

クレメンシー・アーディングリー(サラ・ウッドワード)
豪邸に住むデイヴィッドのおば。マークとも親しい。ロバの保護団体に寄付をする。

ポピー(エレン・ロバートソン)
デイヴィッドの妻。自由奔放で歯に衣着せぬ物言いをし、マークの妻ハーミアを苛立たせる。

トマシーナ・タッカートン(ポピー・ギルバート)
マークの愛人。富豪の娘だが、夜の街で働いている。マークと一夜を過ごした後、突然死する。

イヴォンヌ・タッカートン(クレア・スキナー)
トマシーナの継母。金遣いが荒い。

オスカー・ヴェナブルズ(ジェームズ・フリート)
マッチ・ディーピングに住む初老の男。マークの亡き妻デルフィーヌが電話番号を書き残していた。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

1960年。マーク・イースターブルックの妻デルフィーヌが入浴中に感電死する。ジェシー・デイヴィスはマッチ・ディーピング村の〈蒼ざめた馬〉を訪れる。
1年後、病に侵されたジェシーは、ある名前のリストを書き残して死亡する。マークは友人のハーミアと再婚していたが、愛人のトマシーナ・タッカートンと一夜を過ごし、翌朝彼女が死んでいることに気づく。トマシーナを置き去りにして逃げ帰ったマークは、「猫を轢いた」とハーミアに嘘をつく。
ルジューン警部はジェシーのリストに載っていたマークとオズボーンを呼び出すが、2人に面識はなく、リストが何を意味しているかもわからなかった。リストにはマークの友人の“アーディングリー”と、“タッカートン”の名前もあった。
マークはジェシーの家を調べ、彼女がマッチ・ディーピング村を訪れていたことを知る。妻のデルフィーヌもまたマッチ・ディーピング村を訪ねており、オスカーという名前と電話番号を書き残していた。マークは村を訪ね、〈蒼ざめた馬〉という看板の館を見つける。
やがてリストに名前のあった人物が次々と死んでいき、オズボーンは〈蒼ざめた馬〉の3人の魔女が呪いをかけているとマークに話す。残るはマークとオズボーン、アーディングリーだけだと怯えるオズボーン。
友人デイヴィッドのおばであるクレメンシー・アーディングリーが心臓発作で亡くなる。マークは真相を突き止めるためマッチ・ディーピング村へ向かい、オスカー・ヴェナブルズに会う。ヴェナブルズは1年前、バスに乗り遅れたデルフィーヌを駅まで送ったことを話す。デルフィーヌは〈蒼ざめた馬〉での占いで「結婚生活は続かない」と言われ、動揺していたという。

マークはトマシーナの継母イヴォンヌを問い詰め、〈蒼ざめた馬〉が邪魔者を排除する仕事を請け負っていることを知る。
クレメンシーの葬儀に〈蒼ざめた馬〉の女たちが現れ、デイヴィッドは動揺する。マークが問い詰めると、デイヴィッドはクレメンシーの死を望み、〈蒼ざめた馬〉に足を運んだことを告白する。
マークは妻のハーミアが愛されていないことに気づき、自分を殺そうと〈蒼ざめた馬〉に依頼したのではないかと考え、ハーミアを罵る。ルジューン警部はデルフィーヌの死に疑問を抱き、マークを疑い始める。
マークは〈蒼ざめた馬〉を訪ね、3人の女たちにハーミアとルジューン警部の排除を願う。デルフィーヌは事故死ではなく、彼女とオスカー・ヴェナブルズの浮気を疑ったマークが激情に駆られて殺したのだった。
帰宅したマークは、自宅で倒れているハーミアを発見する。ハーミアは薬の過剰摂取で意識不明の状態に陥る。さらにルジューン警部も血を吐いて病院に担ぎ込まれる。
マークは一連の殺人事件の黒幕がオズボーンであることに気づく。魔術ではなく、タリウムによる毒殺だった。〈蒼ざめた馬〉の女たちは何も知らずに占いをしていただけだったが、オズボーンのもとで働いていたジェシーが〈蒼ざめた馬〉を見つけたことで、3人は事件との因果関係を探るようになったという。
オズボーンはマークが警察に通報しないと高をくくり、「意気地のないゲス野郎」と罵る。カッとなったマークは手にしていたバールでオズボーンを殴り殺し、店ごと遺体を燃やす。
ハーミアは病室で意識を取り戻す。ベッドの脇には〈蒼ざめた馬〉の女たちがいた。帰宅したマークの手には、自分の死を報じる新聞記事があった。それは何度も繰り返される、デルフィーヌが死んだ夜の悪夢だった。

解説と感想

悪意は主人公にも宿る

予告や場面写真などを見たとき、「マークのイメージが違う」と思ったんですよね。本編を見て、納得しました。マークが悪い男になってる!

でもこれはこれで面白かった。BBC版の特徴は“イヤミス”のような後味の悪さ。「悪意」は犯人だけに宿るものではなく、主人公や探偵役であっても例外ではないことを、これまでの作品で繰り返し描いてきました。

恵まれた境遇にありながら、何度も罪を犯してしまう本作の主人公マークもまた、人間らしい弱さを持った不安定な人物。

マークの罪の代償として描かれる「悪夢」は、事件にまとわりつくオカルト要素を盛り上げると同時に、マークに対する視聴者の疑念を深める効果もありました。

原作との違い/マーク

原作のマークは歴史学者で、バツイチの独身。女友達のハーミアとジンジャーの間で揺れるという設定。最終的には捜査の相棒となったジンジャーと意気投合し、求婚します。

原作にはデルフィーヌは登場せず、トマシーナはカフェで居合わせた通りすがりの女性に過ぎませんでした。原作のマークは取り立てて特徴のない、善良で平凡な男性なんですよね。

マークがリストの謎を追ううちにマッチ・ディーピング村の〈蒼ざめた馬〉に辿り着き、連続殺人事件の真相に気づく…という流れは原作どおりですが、犯人の正体を暴いたのは、原作ではマークではなくルジューン警部でした。

BBC版ではマーク自身の名前がリストに載っているため、より切実にマークを捜査に駆り立てていくことになります。

ここから先は、犯人と事件の真相(ネタバレ)に触れています。ご注意ください。

犯人と事件の真相

連続殺人事件の犯人は、リストを書き残して死んだジェシー・デイヴィスの雇い主、オズボーンでした。

新聞でターゲットを見つけては、「魔術で邪魔な家族を葬ります」という勧誘の手紙を書いて送りつけ、殺人依頼を請け負っていたらしい。

BBC版ではリストに彼自身の名前もあったので、被害者を装ってマークにつきまとっていましたが、原作では薬局の主人で、犯人らしき男を目撃した重要人物として登場します。

オズボーンから聞き取り調査を行ったルジューン警部は、その時点で怪しいと気づいていました。

殺人システムは原作のほうがずっと複雑で巧妙です。ちょっと簡単には説明できないので、詳しくは原作の解説記事を読んでもらえるとありがたいです。

アガサ・クリスティ原作「蒼ざめた馬」ネタバレ感想 ネタバレ有「蒼ざめた馬」原作あらすじ解説|オカルトを取り込んだ殺人システム

BBC版では、オズボーンが黒幕で、ジェシーが協力者(詳しくは知らされてなかった様子)。〈蒼ざめた馬〉の占い師たちは何も知らずに犯罪に利用されていて、殺人依頼の報酬はすべてオズボーンの手に入る、という仕組みでした。

殺害方法は、タリウムを使った毒殺。例えばクレメンシーの場合はタンクの洗浄業者に扮し、飲料水にタリウムを混ぜていたみたいですね。

原作には、どのようにタリウムを被害者の家に持ち込んだのか、具体的な手順が詳しく書かれていて、用意周到に計画されていたことがわかります。また、タリウム中毒の症状として必ず現れるのが、脱毛だということも。

謎めいた結末

マークはオズボーンを殺害し、店ごと遺体を燃やします。原作ではオズボーンは殺されることはなく、ルジューン警部に逮捕されています。

問題はここから。

薬の過剰摂取で意識不明だったハーミアが目を覚ますと、そばには〈蒼ざめた馬〉の3人の女たちが座っています。「マークは?」と聞くハーミア。

その後、彼女たちが何を話したのかは描かれませんでした。おそらく、マークがハーミアを呪い殺そうとしたことを聞かされたのではないかと推測しますが、真相はわかりません。

帰宅したマークは、「古美術商 謎の死」「イースターブルックの悲劇再び」という見出しの新聞記事を見て驚きます。

バスルームには死んだはずのデルフィーヌがいて、いつもの悪夢が繰り返されていることを知ります。彼はとうとう正気を失い、悪夢の中に閉じ込められてしまったのでしょうか。

あるいはマークは本当に死んでいて、現世を離れてしまったとも考えられます。オズボーンに飲まされたタリウムが原因かもしれないし、ハーミアが殺したのかもしれない。

さまざまな解釈ができる結末ですが、みなさんはどう受け取りましたか。

原作のほのぼのとしたハッピーエンドもいいですが、BBC版の不穏で謎めいた終わり方も個人的には好きです。

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