コールドケース2-真実の扉-第9話「シベリアの涙」あらすじ感想|本当の悪人はどこに…

WOWOW連続ドラマW「コールドケース2」

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WOWOWの連続ドラマ「コールドケース2-真実の扉-」第9話のあらすじと感想です。

今回は1954年(昭和29年)の高島埠頭水死事件。

過去部分のモノクロ映像に引き込まれました。映像もですが、音も少しこもったような音になっていて、昔の映画のよう。

おしゃれな服を着て、メイクもヘアスタイルもバッチリ決めて、働く女性をアピールする智世。

新聞記者という仕事に対する誇りと、自立する女性の先駆者でありたいという彼女の願いのようなものが感じられました。

今回の元ネタは、アメリカ版「コールドケース」シーズン3第21話“The Hen House”です。

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第9話「シベリアの涙」のあらすじ

百合(吉田羊)は横浜新聞の記者・美晴(岩井堂聖子)から祖母の妹である藤沢智世(成海璃子)の死について調べてほしいと頼まれる。智世は第一線で活躍していた女性新聞記者だったが、1954年に水死体で発見されていた。

発見された智世の手紙には、「ヘンハウスのマリーへ 高島埠頭で午後十時に待っている。やっぱり私は許せない。」と記されていた。百合は智世の元同僚で世界的に有名な小説家・マリ浅井(水野久美)を疑うが、マリは「彼女には敵が多かった」と言う。

やがて智世が人生相談のコラムを通じて土岐田隆三(早乙女太一)と知り合い、恋に落ちていたことがわかる。土岐田はシベリアからの帰還兵で、家族を戦争で亡くし天涯孤独の身だった。

だが実際は土岐田の妹・まりゑ(石崎なつみ)は生きており、本物の土岐田隆三はシベリアの収容所で反乱の首謀者として殺されていた。

智世が恋に落ちた男の名は足立勲。収容所で土岐田隆三を密告したスパイだった。智世は足立の裏切りを許せず真実を暴く記事を書き、まりゑに読んでもらおうとしていた。

そのことを知った足立は待ち合わせ場所の高島埠頭へ行き、智世を説得しようとしたが叶わず、足立の腕を振り払った智世はバランスを崩して海に落ちてしまう。

百合と本木(三浦友和)は入院中の足立(竜雷太)に会いに行く。足立は真実を語った後、この世を去る。足立が持っていた智世のバッグから記事の原稿が見つかり、横浜新聞に掲載される。

第9話で使用された曲

  • 「高原列車は行く」岡本敦郎
  • 「ガイ・イズ・ア・ガイ」江利チエミ
  • 「はるかなる山の呼び声」雪村いづみ
  • 「テネシー・ワルツ」江利チエミ
  • 「想い出のワルツ」雪村いづみ
  • 「愛の讃歌」越路吹雪

第9話の感想(ネタバレ有)

本当の悪人はどこに…

戦争にまつわる話は傷ましくて辛いですね。今回の時代設定は終戦から9年後の1954年。まだ戦争の記憶が生々しく残っていた頃だと想像します。

シベリア抑留については、通り一遍の知識しかありません。

シベリア抑留
第2次世界大戦後、旧ソ連が旧満州などにいた日本兵や民間人をシベリア各地の強制収容所に連行した。強制労働に従事させられ、極寒や飢餓に苦しんだ。厚生労働省の推計では、シベリアとモンゴルに計57万5千人が抑留され、うち5万5千人が死亡した。

朝日新聞掲載「キーワード」より

そのような極限状態の中で、死と向き合いながら生きる毎日がどういうものか、今では想像することすら難しい。足立のように仲間を裏切らざるを得なかった人は、少なくなかったかもしれません。

忠男が何十年もの間、赤の他人である足立を慕い続けていたことを考えると、根っからの悪人ではなかったと思う。帰国してからの彼は、真面目に懸命に生きていたのではないかと思います。

「ローマの休日」と「ゴジラ」

1954年(昭和29年)は、映画「ローマの休日」と「ゴジラ」が公開された年。
伊藤整の「女性に関する十二章」や三島由紀夫の「潮騒」がベストセラーになりました。

マリリン・モンローが来日し、日本初の缶ジュースが発売され、洗濯機と冷蔵庫と掃除機が「三種の神器」と呼ばれました。

この年の3月、ビキニでの米水爆実験で「第五福竜丸」が被爆しています。こうの史代さんの漫画「夕凪の街 桜の国」の冒頭で描かれている時代も、この頃(1955年)です。

そんな時代に生きていた“ヘンハウス”の女性たち。

成海璃子演じる智世と、小林涼子さん演じる麻里子の対立が面白かったですね。
現代の働く女性と主婦の対立を見ているようでした。

アメリカ版との違い

ここからは、元ネタとなったアメリカ版「コールドケース」シーズン3第21話“The Hen House”との違いについて説明します。

勝利に熱狂するアメリカ

ストーリーの流れはほぼ同じですが、そこで描かれる問題や歴史的背景は、当然ながら大きく異なります。日本版の時代設定が1954年なのに対し、アメリカ版は1945年5月8日から始まります。

1945年5月8日は、第2次世界大戦でナチス・ドイツが降伏し、連合国(アメリカ、イギリス、ソ連など)がヨーロッパにおいて勝利を収めた日。ちなみに日本とアメリカはまだ戦争中でした。

ヨーロッパ戦争に勝利したことを喜び祝う人々。町はお祭り騒ぎ。

女性新聞記者ロレーナの「深刻っていうのは、日本をどうするかみたいな問題を言うの」というセリフがリアルで、少しゾッとしました。この3か月後、日本は原爆を落とされていますからね…。

ユダヤ人になりすました男

ロレーナが恋に落ちた男性は、アウシュビッツ収容所を抜け出し、スイスの国境を越えてアメリカに逃げてきたユダヤ人ノア。しかし本物のノアは収容所で殺されていました。

ノアを名乗っていた男はナチスで、収容所の看守アントンだったのです。ノアの妹はロレーナに腕のタトゥーを見せ、「彼がこれを入れた」と言います。

アウシュビッツには、被収容者の腕に鑑識番号を入れる「タトゥー係」が存在したそうです。アントンはタトゥー係だったのかもしれません。

ロレーナに正体を知られたアントンは「僕は悪魔じゃない」と訴え、必死に理解を求めますが、ロレーナは断固として拒みます。

日本版とは違い、ナチス・ドイツはアメリカがヨーロッパで戦っていた敵なので、ロレーナはもちろん、事件を捜査する主人公たちも、彼を決して許さないし同情もしません。

ロレーナに拒絶された男は、故意に彼女をホームから突き落とし、彼女は電車にはねられて亡くなりました。アントンは殺害から数十年を経て逮捕されます。

アウシュビッツとシベリアの収容所では背景が全く違うというのもありますが、日本版では足立を完全な悪人にしなかったことで、見る人の感情を揺さぶる繊細で深みのあるストーリーになっていたと思います。

ヘン・ハウスの女たち

若干違和感があったのは「ヘン・ハウスの女たち」でしょうか。アメリカ版では3人の女性が意気投合するシーンも、マリが突如アメリカ行きを決意するシーンも、のちに彼女が小説家となって本を出版するシーンもありません。

“ヘン・ハウス”は「雌鶏小屋」という意味で、アメリカ版ではロレーナが嫌々仕事をしている婦人欄のことをふざけてそう呼んでいました。自由に世界を飛び回っていた野鳥(=ロレーナ)が、雌鶏小屋(=婦人欄)に押し込められた、と。

日本版でマリの設定を大幅に変更したのは、時効の問題を回避するためだと思いますが、智世が土岐田と親密だったことや、土岐田が偽物であることを知っていたはずのマリが、なぜ最初にそのことを警察に話さなかったのか疑問です。

アメリカ版では男性だった新聞記者を、智世と血のつながりのある女性記者に変更していることからも、女性たちに光をあてたかったのだろうと推測しますが、智世以外の女性たちの描き方が中途半端なのでモヤッとします。

個人的には、智世と足立のストーリーに集中させてほしかったです。

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