シャーロック・ホームズの冒険*第20話「六つのナポレオン」あらすじ感想

海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」キャストあらすじ

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海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第20話「六つのナポレオン」のあらすじと感想です。

グラナダ版の中でも特に人気のある作品のひとつ。ホームズ、ワトソン、レストレードが仲良く協力して捜査にあたり、ナポレオン像が次々に壊されるという奇妙な事件に隠された真相を突き止めます。

ほっこりしたり、にんまりしたり、比較的おだやかでコミカルなシーンが多く、3人の掛け合いが楽しい作品。ラストシーンで見せたホームズの表情にもグッときます。

余談ですが、2017年のBBCドラマ「SHERLOCK」ではサッチャー像、大正期に発売された翻案本『肖像の秘密』では乃木大将の像に変えられています。

第20話「六つのナポレオン」あらすじ

レストレード警部から、ナポレオンの胸像が立て続けに壊されるという奇妙な事件が起きていると聞かされたホームズ。翌日、セントラル通信の記者ハーカーの家からまたもやナポレオン像が盗み出され、さらに玄関先で身元不明の男性がのどを切られて殺害される事件が発生する。

ホームズとワトソンは胸像を売ったハドスン商会を訪ね、胸像が全部で6個あること、その仕入れ先がゲルダー製作所であることを突き止める。さらに、殺された男性が所持していた写真の男が“ベッポ”というイタリア人の請負職人であることも判明。ベッポはハドスン商会で働いていたが、1週間で辞めてしまったという。

ゲルダー製作所の社長によると、ベッポは1年前まで工場で働いていたが、昨年の5月に工場の裏でほかのイタリア人を刺し、傷害事件を起こして逮捕されていた。

レストレード警部の調べで、被害者の身元がピエトロ・ベヌーチと判明。表向きはイタリア人貿易商の息子だが、マフィアの一員だった。レストレード警部はベッポがマフィアの掟に背いて暗殺されたのだろうと考え、胸像とは無関係だと見ていた。

ホームズは「今夜チズウィックに殺人犯が現れる」と予言し、ワトソンとレストレードを連れてチズウィックのジョサイア・ブラウン邸へ向かう。3人が家の近くで身を潜めて監視していると、ベッポが現れて胸像を盗み出す。ホームズは事前にブラウンに手紙を送り、侵入口を一つに絞らせていた。レストレードはその場でベッポを現行犯逮捕する。

翌朝、残りの1つの胸像の持ち主サンフォードがベイカー街を訪ねてくる。ホームズは10ポンドという破格の値段で胸像を買い取り、ワトソンとレストレードが見守る前で胸像をたたき割る。すると、胸像の中からボルジア家の黒真珠が現れる。それは1年以上前にコロナ王女の寝室から盗まれたものだった。

王女に仕えていた小間使いはルクレチア・ベヌーチで、殺されたピエトロ・ベヌーチの妹だった。ベヌーチファミリーは黒真珠を盗み出す計画を立て、兄妹の連絡係となっていたのが、ルクレチアの恋人でもあるベッポだった。だがベッポはファミリーを裏切り、彼らを出し抜いて黒真珠を盗み出し、着服したのだった。

ゲルダー製作所の裏で兄ピエトロを刺したベッポは、とっさに逃げ込んだ倉庫の乾燥室でまだ柔らかい胸像の底の部分に黒真珠を隠し、警察に逮捕された。そして出所するとすぐにハドスン商会に自分を売り込み、6個の胸像の行き先を突き止め、黒真珠を取り戻そうとしたのだった。

レストレードはホームズの見事な推理に感服し、「我々ロンドン警視庁は、あなたを誇りに思う」と告げる。その言葉に感激し、「ありがとう」と答えて一瞬涙ぐむホームズ。だがすぐにもとの冷静な表情を取り戻し、レストレードと握手をして彼を見送る。

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海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」キャストあらすじ ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景

第20話の感想(ネタバレ有)

ほっこりシーン満載

ホームズとワトソン、レストレード警部が今まで以上に親しげで、楽しそうだった今回のエピソード。

ベイカー街221Bで2人の帰りを待っているレストレードが、ホームズの椅子に座って資料を盗み見るとか、それに気付いたホームズとワトソンがニヤニヤして引き返すとか、ほっこりする(原作にはない)場面がたくさん盛り込まれていました。

個人的にはですね、新聞記者のハーカー氏が好きでした。ここは原作どおりで、原作を読んだときも面白くてお気に入りのシーンだったのですが、ドラマでそのまま再現してました。

あくまで事件の状況を聞きたいホームズに対し、記者としての不甲斐なさを延々と語るハーカー氏。特に後半の、ドンカスター競馬場の桟敷が落ちたときのことを語るくだりが最高です。

その場にいた唯一の記者だったのに、気が動転して記事が書けず、うちの社だけ特ダネを落としてしまった…と。そして今回もまた、事件の当事者になったのに、他者に出し抜かれてすっかり出遅れてしまったハーカー氏。なんとも気の毒ですが、笑ってしまいます。

しかしそんなハーカーをじ~っと見つめるホームズ。このとき、彼の記事を捜査に利用しようと思いついたんですかね~? 可哀想なハーカーは、ホームズの偽情報を信じて見当違いな記事を書いてしまいました。

結果的には彼の記事のおかげで犯人が油断し、逮捕に至ったわけだから、捜査に一役買ったことを自慢に思ってもらいたいです。

ホームズの涙

いちばんのご褒美は、やはりラストシーンでしたね。原作通りでもあるのですが。事件をみごと解決してみせたホームズに、心からの賛辞を送るレストレード警部。その言葉を受け取ったホームズは感無量といった表情を浮かべ、涙ぐみます。

「ありがとう…ありがとう」と素直に答えるホームズの、涙で少し歪んだ笑顔が胸を打ちました。でもその直後に我に返ったように(恥ずかしくなったのか)冷静さを取り戻し、ワトソンに全然関係ない事件の書類を出すよう頼み、そそくさとレストレード警部を部屋から追い出しました。

すこし期待外れといった表情を浮かべながら、部屋を出て行くレストレード警部。でも、ホームズのほうから握手を求めるなんてまずないことなので、やはりよっぽど嬉しかったのだと思います。

ちなみに原作の描写は以下の通り。

「ありがとう! いや、ありがとう!」ホームズは言った。そしてすぐに顔をそむけたが、そのとき私の目に映っていたのは、この私にしてもはじめて目にする珍しい彼のたたずまいだった――内なるやさしい人間性に動かされ、あやうく負けそうになっている姿だ。とはいえそれもいっときのこと、たちまちいつもの冷静かつ実際的な思索家の顔がもどってきて、彼は言った。

深町眞理子訳/創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの復活』より

原作との違い

ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの復活』に収録されている「六つのナポレオン像」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。

発表は1904年、短編の中では32番目の作品にあたります。

ベヌーチ家の事情

ドラマでは冒頭から事件の鍵を握るベヌーチ家の3人(ルクレチア、ピエトロ、パパ・ベヌーチ)が登場し、ベッポをめぐる愛憎と、1年前の傷害事件が描かれました。

原作ではピエトロが遺体で登場するだけで、パパ・ベヌーチもルクレチアも登場しません。ホームズが最後の謎解きの際に、さらっと名前を出すだけです。ホームズがパパ・ベヌーチから写真を受け取るシーンも、ドラマオリジナル。ベッポが逮捕された1年前の傷害事件については、原作ではゲルダー製作所の社長が説明するのみです。

この部分、原作を読んだとき少しわかりにくいと感じたので、ドラマ版で彼らの因果関係を再現してくれたのはありがたかったです。

ナポレオン像の経路

ドラマでは、ハドスン商会が6個すべてのナポレオン像をゲルダー製作所に発注したことになっていましたが、原作では、ハドスンの店が3個ハーディング・ブラザーズ商会が3個仕入れていて、ホームズとワトソンはそれぞれの店で話を聞いています。

ちなみに内訳は、以下の通り。

  • ハドスンの店
    1個は店内に、2個はバーニコット博士の自宅と病院に置いてあったが、いずれも犯人に壊された
  • ハーディング・ブラザーズ商会
    1個はハーカー宅、1個はブラウン宅にあったが破壊、最後の1個はサンドフォードからホームズが買い取った

ここも原作を読んでいて少々ややこしかった部分。ドラマではわかりやすく、ハドスン商会だけになっていました。

胸像を壊すホームズ

ドラマではホームズが見事なテーブルクロス引きを披露し、その後、ハンマーを使って胸像を叩き割っていましたが、原作では狩猟用の鞭をふるって砕くという荒っぽい方法で壊しています。

この鞭には鉛が流し込んであって、ホームズ愛用の武器でもあるのですが、実際にやろうと思ったら難しそう。黒真珠を傷つける恐れもあるし。ここはハンマーで正解だったと思いますね。

黒真珠のゆくえ

ドラマでは、黒真珠がその後どうなったのかは、明らかにされませんでした。

原作では、ホームズがワトソンに〈コンク=シングルトンの偽造事件〉の書類を出してくれと言う前に、「すまないがその真珠を金庫にしまってくれたまえ」と言っています。

これはちょっと首を傾げたくなる台詞ですよね。わたしはその前の、サンフォード氏に10ポンド支払って胸像を買い取る段階から「ん?」と引っかかっていたのですが、ホームズらしくない!

っていうか、黒真珠は持ち主に返さなきゃダメでしょ(笑)