海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第23話「悪魔の足」のあらすじと感想です。
仕事のしすぎで医者から静養を勧められたホームズ。ワトソンに付き添われ、しぶしぶ海辺の田舎町を訪れます。ところがそこでも事件が起き、捜査に乗り出すことに…。
ロケ地は原作の設定通り、イギリス南西部のコーンウォール。美しい景観と穏やかな気候で、リゾート地として有名な場所です。
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第23話「悪魔の足」あらすじ
医者から過労を指摘されたホームズは、ワトソンに付き添われコーンウォールの海辺のコテージで休養を取ることに。退屈でたまらずコカインに手を伸ばすホームズだったが、やがて古代の遺跡や土地にまつわる謎に魅せられ、コカインと決別する。
そんなとき、トレゲニス家でカードに講じていた兄妹4人のうち3人が悲劇に見舞われる事件が発生。妹のブレンダが死亡し、ジョージとオーエンの2人が錯乱状態で発見される。1人だけ助かったモーティマーは彼らと離れて暮らしており、その夜も途中で帰宅したため難を免れていた。
ホームズは隣人のラウンドヘイ牧師に頼まれ、捜査に乗り出すことに。4人の兄妹は財産の分配で揉めていたが、モーティマーは既に解決済みだと話す。
そこに彼らの遠縁にあたるスターンデール博士が現れ、捜査状況を教えるようホームズに迫る。博士は知らせを受けてアフリカ行きをキャンセルし、プリマスから引き返してきたのだった。
翌朝、モーティマーが牧師館の部屋で不審死を遂げる。ホームズは室内の異常な空気に着目し、最初の事件では暖炉で、今回の事件ではランプで何かが燃やされ、有毒ガスが発生したと推測する。
ホームズはランプの煤避けに付着していた白い粉末を持ち帰り、同じランプを購入してコテージで実験を試みる。たちまち悪夢のような幻覚に襲われて錯乱したホームズは、ワトソンに助け出され命拾いする。
ホームズはモーティマーを殺害した犯人として、スターンデール博士を呼び出す。ホームズに殺害の手順や方法をすべて暴かれた博士は、ブレンダと愛し合っていたことを打ち明け、彼女を殺したモーティマーを許せなかったと語る。
金銭のもつれからトレゲニス家と疎遠になっていたモーティマーは、財産を独り占めするため兄妹の殺害を計画した。殺害に使われたのは「ラディックス・ペディス・ディアボリ(悪魔の足の根)」という西アフリカの毒薬で、スターンデール博士の家から盗まれたものだった。
ホームズは博士を告発しようとはせず、アフリカでの仕事をやり遂げるよう促す。ワトソンが詰め寄ると、ホームズは「もし僕の愛する人があんな最期を遂げたら、僕だって彼と同じように行動したかもしれない」と答える。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第23話の感想(ネタバレ有)
つきまとう死のイメージ
今回の裏テーマは、ホームズが取り憑かれた“死”。作中、死の表現がたくさん用いられました。
原作では、彼らが滞在するコテージから見える「マウンツ湾」は死の罠として恐れられてきた海の難所だと書かれていますし、コーンウォールの荒れ地には古代人の墓や遺跡が多く残っていて、ホームズはそれらに魅入られていきます。
終盤、ホームズは無謀な実験を試みて毒に侵され、激しい幻覚に襲われました。そのシーンに登場したのも“死”を彷彿とさせるものでした。
- 巨人のテーブル
コーンウォールに存在する巨石墓。気の優しい巨人が人間の子供を過って殺めてしまい、悲しみのあまり巨人も亡くなったという伝説が残っています。 - 少年時代の自分
おそらく使われているのはジェレミーの子供の頃の写真。ホームズの幼少期が幸福ではなかったことが示唆されています。 - カイン
旧約聖書に登場するアダムとイブの息子。弟アベルを殺して追放された、人類最初の殺人者。 - オイディプス
ギリシャ神話の登場人物。知らずに父を殺し、生母を妻に娶りましたが、真相を知って自ら盲目となり諸国を放浪して死にました。 - モリアーティ教授
第13話でホームズと死闘を繰り広げた宿敵。
ワトソンに救出され、正気を取り戻したホームズは、珍しく「ジョン!」とワトソンをファーストネームで呼んでいます。よっぽど混乱してたんでしょうか。
原作は少し違い、ワトソンも幻覚に襲われてギリギリの状態での脱出だったので、二人ともしばらくは庭に横たわったまま動けませんでした。
コーンウォールの鉱業
事件が起きたトレゲニス家は、レッドルースの錫の採掘業者でした。現在は権利を売り渡して引退しており、兄妹4人はその財産の分配をめぐって揉めていたことが明らかになります。
レッドルースはコーンウォールの南西部にある地域で、古くから錫の採掘中心地でした。18~19世紀の姿を残す採掘施設は、2006年に「コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観」として世界遺産(文化遺産)に登録されています。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録されている「悪魔の足」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
発表は1910年、短編の中では40番目の作品にあたります。
ホームズからの電報
事件が起きたのは1897年の春ですが、ワトソンが執筆しているのはその13年後。
ホームズから「〈コーンウォールの恐怖〉の件をなぜ書かない? あれはぼくが手掛けたなかでも、もっとも変わった事件だ」という電報を受け取って、書くことにしたと綴っています。
考古学と言語学
ドラマではラウンドヘイ牧師が隣人という設定で、コテージに挨拶に来る場面がありましたが、原作では彼は司祭であると同時に考古学者でもあるという設定になっています。そのことから、ホームズと親しくなっていました。
また、原作のホームズは考古学と同時に言語学にも興味を示し、古代コーンウォール語について学び始め、研究に本腰を入れようとしていた矢先に事件が起きた…と書かれています。
コーンウォールは元来ケルト系の住民が住み、 18世紀までケルト系の言語が用いられていました(地名にその名残が見られます)。考古学と言語学にホームズが夢中になる気持ち、わかります。歴史を遡って謎を解く面白さ。ぞくぞくしますねぇ。
ちなみに著者アーサー・コナン・ドイルは、1909年の2月に療養でコーンウォールに滞在しています。そのときコーンウォール語の研究をしたのだとか。
コカインとの決別
退屈に耐えきれなくなると、コカインに手を出すホームズ。ワトソンは医者なのでやめさせたいと思っているのですが、言っても無駄だということもわかっています。
しかしその後、ワトソンの「我々は常に死と隣り合わせだ」という言葉が刺さったようで…ホームズはコカインと注射器を砂浜に埋め、決別しました。
ここは原作にはなかったシーンです。放送時、ホームズのコカイン常習が視聴者に悪影響を与えるという懸念から、急遽付け加えることになったのだとか。今回のエピソードとうまい具合にはまっていて、とても自然な流れになっていました。
ブレンダの指輪
ドラマでは、ブレンダが身につけていたアフリカの指輪が、スターンデール博士と彼女の繋がりを匂わせる演出になっていました。この指輪は原作には登場しません。
原作のホームズは、スターンデール博士から真相を聞くまで、ブレンダと博士の関係については気付かなかったんじゃないかと思います。
警察への配慮
ドラマでは省かれていましたが、原作のホームズはモーティーマーが殺された部屋を調べた際、後から到着した担当警部に寝室の窓と居間のランプに留意するよう、伝言を残しています。
そしてこの件について詳細を知りたいなら、いつでも訪ねてきてほしいとまで言ってるんです。でもその後、2日たっても警察からは何の連絡もありませんでした。
もしこのとき警察がホームズを頼っていたら、毒の存在を知ることとなり、スターンデール博士は逮捕されていたかもしれません。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」