海外ドラマ「刑事モース~オックスフォード事件簿~」シーズン1(Case1~5)についてまとめました。
1986年~2000年にイギリスで放送された刑事ドラマ「主任警部モース」の主人公モースの青年時代を描いた正統派ミステリードラマです。
一話完結ですが、一話につき90分という長さのためまずまず見応えもあり、脚本もよく練られています。1960年代のオックスフォードを再現したセット・小道具・衣装などが素晴らしい出来映え。
原作者のコリン・デクスターは2017年に亡くなりましたが、本作のコンサルタントを担当していました。
ちなみに原題の「Endeavour」は、「主任警部モース」で長らく明かされなかったモースのファーストネーム「エンデバー」から。
Contents
作品概要
- 製作国:イギリス(2012年~2013年)
- 原題:Endeavour
- 原案:コリン・デクスター『モース警部』
- 脚本:ラッセル・ルイス
- 監督:コルム・マッカーシー
- 音楽:バリントン・フェロング
あらすじ
カーシャール・ニュータウン警察からオックスフォードの警察に赴任したエンデバー・モース。さっそく事件の捜査を担当することになった彼は、フレッド・サーズデイ警部補の力を借りつつ、謎と疑問を一つ一つ解き明かし、事件の真相に迫っていく。
U-NEXT公式サイトより
登場人物(キャスト)
主要人物
エンデバー・モース(ショーン・エヴァンス/声:矢野正明)
オックスフォード市警カウリー署の刑事巡査。オックスフォード大学ロンズデール・カレッジ3年の時に陸軍の通信部門に所属するも脱落。除隊後に大学の学位を取得できずに退学し、カーシャル・ニュートン警察に入る。
警察の仕事に幻滅し辞職を考えていた時、少女メアリーの行方不明事件(Case1)の捜査の応援要請でカウリー署に派遣され、フレッド・サーズデイ警部の目に留まる。クロスワードパズルとクラシック音楽を愛し、かよわい女性に弱い。
フレッド・サーズデイ(ロジャー・アラム/声:土師孝也)
オックスフォード市警カウリー署の警部補。15歳の少女の行方不明事件(Case1)でモースの優秀さを見出し、彼が提出した辞表を取り返して自分の補佐に抜擢する。妻が作る昼食用のサンドイッチの中身を楽しみにしているが、いつもモースに当てられてしまう。
レジナルド・ブライト(アントン・レッサー/声:佐々木睦)
オックスフォード市警カウリー署の警視正。クリスプ警視正の後任として着任した (Case2)。組織の規律や慣習を重んじる昔気質の性格で、モースの非社交的なふるまいや型破りな捜査を嫌い、事務仕事を命じる。
ジム・ストレンジ(ショーン・リグビー/声:丸山壮史)
オックスフォード市警カウリー署の巡査。秘書学校に通う女性が突然死した事件 (Case2) でモースと出会う。以降、モースのよき友人となる。共に昇進試験に向けて勉強中。
ピーター・ジェイクス(ジャック・ラスキー/声:岡本未来)
オックスフォード市警カウリー署の巡査部長。出世欲が強く、サーズデイに重用されるモースを妬んで嫌味な態度を取る。
マックス・デブリン(ジェームズ・ブラッドショー/声:魚建)
オックスフォード市警に勤める警察医。非常に優秀で、的確な指摘で事件の解決に貢献する。
そのほか
ドロシア・フラジル(アビゲイル・ソウ/声:定岡小百合)
オックスフォード・メール新聞の気骨ある編集者。モースの捜査に協力してくれる。
ジョアン・サーズデイ(サラ・ヴィッカース/声:長尾明希)
サーズデイの娘。好奇心旺盛で、恋愛にも積極的。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
刑事巡査になったばかりの若きモースは、警察の仕事に幻滅し辞表を書く。そんな時、15歳の少女メアリーが行方不明になり、モースは事件の捜査に協力するためオックスフォード市警カウリー署へ送られる。
メアリーの部屋にあった高価な詩集に注目したモースは、彼女が秘密の恋人と密会していた可能性を疑う。やがてモースが予測した場所でメアリーの遺体が見つかり、彼女のボーイフレンドだったマイルズ・パーシバルが自殺と思われる状態で発見される。
捜査の過程で、メアリーが姉シャロンと有力者サミュエルズの娘であることや、サミュエルズが開くセックス・パーティに参加し売春を斡旋されていたことなどが明らかになる。
メアリーを殺害したのは彼女と不倫関係にあったストロミング教授の妻で、モースが憧れるオペラ歌手キャロウェイだった。キャロウェイはメアリーの元彼パーシバルからメアリーと夫の関係を知らされ、夫が待ち合わせの暗号として使っていたクロスワードパズルを使ってメアリーを呼び出し殺害。メアリーと同じワンピースを着て彼女が翌朝も生きていたと思わせる偽装工作を行い、パーシバルを自殺に見せかけて殺したのだった。
モースは舞台で「蝶々夫人」のアリア「ある晴れた日に」を歌い上げたキャロウェイを連行するが、彼女は事情聴取中に警察署で首を吊って自殺を図る。
モースの捜査能力を認めたフレッド・サーズデイ警部補は、オックスフォードを去ろうとしていたモースを引き留める。
オックスフォード市警カウリー署にブライト警視正が着任する。何よりも規律を重んじるブライトは、本来ならば巡査部長が就くべきサーズデイの補佐役に経験の浅い巡査のモースが務めていることに苦言を呈する。
秘書学校に通う若い女性マーガレット・ベルが突然死を遂げ、検分のため現場に赴いたモースはジム・ストレンジ巡査と出会う。マーガレットは心臓発作と判断されるが、現場を見たモースは他殺を疑う。
翌日、郊外の公衆トイレでフランク・カートライト医師の射殺体が発見される。現場に残されていた自転車の持ち主を、持ち前の観察力で推理してみせるモース。ブライトはモースの不遜な態度に気色ばみ、事務に戻るよう告げる。
フランクの妻ヘレンは、原爆の開発に関わったエドマンド・スローン教授の娘だった。スローン家を訪れたモースは、美しくも情緒不安定なヘレンの妹パメラと出会う。パメラは夫を事故で失ったうえに息子のボビーをヘレンに奪われ、孤独な生活を送っていた。
モースは公衆トイレに残されていた自転車の持ち主がモンクフォード牧師であることを突き止める。化学とパズルに興味があるという牧師は、モースにパズルの問題を出し、その後教会で遺体となって発見される。
パメラを容疑者とするブライトの方針に反発したモースは捜査から外されるが、1人で密かに捜査を続け、ストレンジの協力で牧師が残した暗号に気づく。
ブライトとサーズデイの前で事件の真相を暴くモース。教会に掲げられていた聖歌番号は原子番号を表しており、それらを元素記号にあてはめて解読すると、犯人の名前「ウォレス・クラーク」となる。
クラークの息子デレクは、恋人だったマーガレットにアンフェタミンという違法な薬を飲ませて死なせていたことが判明。郵便局で働くデレクは、パメラとカートライト医師が不倫関係にあることに気づき、カートライト医師を脅してアンフェタミンを手に入れていたのだった。
クラークは息子の罪を隠蔽するため、カートライト医師を公衆トイレで殺害。その現場をモンクフォード牧師に見られてしまい、口封じのためにやむを得ず殺害したと自供する。
スローン教授はスタンフォード大に招かれヘレンと共に渡米することに。彼らはパメラの息子ボビーを連れて行こうとするが、モースは2人を逮捕すると脅してボビーを取り返す。パメラはフランクを愛していたと語り、ボビーを連れて街を出て行く。パメラが乗ったバスを見送るモース。
貨物車両で既婚女性エブリン・バルフォーが絞殺され、年配の女性植物学者グレース・マディソンが毒殺される。エブリンの殺害現場にはオペラ「オテロ」の、グレースの殺害現場には「ラクメ」の歌詞の一節が残されていた。モースは2人の殺害状況とオペラの内容が一致することに気づく。
サーズデイはブライト警視正に頼み込んでモースを事務仕事から引き揚げさせ、事件の捜査に加わらせる。2人はグレースに手紙を送ったベンジャミン・ニモを訪ね、壁の中に生き埋めにされたニモの遺体を発見。家の中にはオペラ「アイーダ」が流れていた。
犯罪心理に詳しい精神科医クローニンは、50年代の初頭に診察した20歳のキース・ミラーという青年について話す。神童と呼ばれていたミラーは15歳のときに母親を惨殺するも、心の病が認められ無罪になったという。
オックスフォード新聞にオペラ「スネグーラチカ」の楽譜が届く。モースは標的の選定にルールがあることに気づいき、モースの予言どおり「D」から始まる名前の少女デビー・スノーが行方不明になる。
モースは犯人が残した暗号を解き少女を救出するが、犯人と接触し脇腹を切られてしまう。クローニンは犯人の能力に敬意を抱き、モースを殺さなかったのはそのほうが都合が良かったからだと言う。
その後、クローニンは遺体で発見されるが、顔は硝塩酸で溶かされていた。警察署でモースが電話をとると、受話器の向こうからオペラ「トスカ」が聞こえてくる。“キース・ミラー”の綴りを入れ替えると“俺が殺した”となることに気づいたモースは、犯人は母親殺しの“キース・ミラー”ことメイソン・ガルだと確信する。
ガルは裁判の関係者に復讐するため、クローニン博士になりすまして犯行を重ねていたのだった。ニモとエブリンは裁判の証人で、裁判を担当したのはマディソン判事だった。
5人目は殺されたグレースの姪フェイだと推理したモースとサーズデイは、彼女のいるオックスフォード学生合唱協会(TOSCA)へ向かうが、ガルの狙いはサーズデイだった。モースは屋上でサーズデイを殺そうとするガルを阻止し、ガルは警官に連行される。
1965年10月。ブルーム一族が経営するBIE社の武器工場をマーガレット王女が視察に訪れる。カウリー署が警備を担当し王女の視察は無事に終わるが、その直後工場の一室で整備工パーシー・マレソンの遺体が発見される。
サーズデイとジェイクスが捜査を主導し、モースは全従業員のアリバイ確認を命じられる。ブライト警視正は事件を早期解決できなければ自分の地位に影響が出るのではないかと危惧し、神経を尖らせていた。
遺体を発見した秘書のアリス・ベクシンは、モースの大学時代の友人だった。彼女からブルーム一族の内情について聞き出せとサーズデイから命じられるモースだったが、アリスは事件については語ろうとせず、モースに愛を告白する。
マレソンの自宅を調べたモースは、彼が12年前に失踪したオリーブ・リックスという女性の恋人ユースタス・ケンドリックであることを突き止める。犯人の疑いをかけられたケンドリックは名前を変えて南アフリカに逃亡していたが、病気の母親を見舞うために帰国し、BIE社に潜入して真犯人を探していた。
当時オリーブが通っていた農学校の隣にはブルーム邸があり、オリーブは亡くなったブルーム家の長男ハリーと付き合っていたことがわかる。ハリーの弟リチャードは、森の中で見つけたオリーブの遺体を密かに埋めたと打ち明ける。
工場でレニー・フロストの遺体が見つかり、ブライト警視正は事故死として処理しようとするがモースは異論を唱える。映画館でマーガレット王女視察のニュース映像を見たモースは、社員のトレスパーセルが途中から上着を着ていないことに気づく。
12年前に通りすがりのオリーブを襲って殺害したのはトレスパーセルだった。そして事件の真犯人を探し出そうとしていたケンドリックを殺害。さらにフロストを事故に見せかけて殺し、ケンドリック殺しの罪を被せようとしたのだった。
モースはアリスと一夜を共にするが、アリスはモースの心の中に過去の女性がいることに気づき、別れを告げる。
1965年12月。昇任試験を前に射撃で好成績を残すモース。サーズデイは試験に受かって事務仕事を卒業するようモースを励ます。
モースはオックスフォード大学のアリスター・コーク=ノリス教授の死亡ひき逃げ事件を捜査する中で、教授が大学の所有するブース・ヒルの開発をめぐって町の評議会と対立していたことを突き止める。
イースト・ロンドンのギャングであり、サーズデイの因縁の相手であるヴィック・カスパーがオックスフォードに現れる。ヴィックはかつてサーズデイの部下カーターを罠にかけて殺した疑いがあり、サーズデイ自身も家族と共に命を狙われたことがあった。
コーク=ノリス教授のアパートで金銭取引のリストを見つけたモースは、大学と評議会の間で交わされた賄賂だと確信するが、ブライトは大学と議会の問題だと関わり合いを避けようとする。
サーズデイはヴィックがスポンサーとなっているクラブ「ムーンライト」に単身乗り込み、この町から出て行くよう銃を突き付けて脅す。モースは妹ジョイスから父危篤の連絡を受けて実家に戻ろうとするが、途中で引き返し、サーズデイのもとに駆けつける。
ブース・ヒルの開発に関わっていたのはヴィックの息子ヴィンスだった。ヴィンスは旧交のあるフレッチャー兄弟と建設会社を作り、公務員を買収して開発工事を請け負っていた。モースはヴィンスを収賄容疑で逮捕する。
コーク=ノリス教授をひき逃げ事故に見せかけて殺害したのは妻のミリーだった。ミリーは夫の同僚イアンに一方的な想いを募らせ、彼との将来を妄想していた。モースとサーズデイがミリーのもとを訪ねると、イアンが殺害されていた。
ミリーはモースを撃ち、サーズデイによって射殺される。ミリーが放った銃弾はモースの足を傷つけるが、モースは病院へは行かず、父親を看取るためサーズデイの車で実家に直行する。
その夜、父親は息を引き取る。モースは昇任試験を欠席し、病院で治療を受けるが、治療が遅れたために季節の変わり目などに足が痛むようになると医者に告げられる。
感想(ネタバレ有)
オックスフォードの憂うつ
渋いですね~。
丁寧に作られていて、派手さはないけど癖になる面白さ。
舞台は1960年代のイギリス・オックスフォード。学問の街・オックスフォードが持つアカデミックな空気が作品全体に満ち満ちています。
「主任警部モース」では白髪で強面で貫禄たっぷりだったモースも、新人時代は線が細くて頼りなさげ。死体から目を背けたり、解剖に立ち会って気絶したり。
でも協調性に欠ける性格はそのまま。オペラやクロスワードパズルが趣味で、女性に惚れっぽいところも一緒です。
テンション低めで出世欲ゼロで、刑事には全く向いていなさそうなのに、つぎつぎと事件を解決していく若き主人公モースがたまらなく魅力的。
今シーズンではまだ明らかになっていませんが、Case4に登場した大学時代の友人アリスや、Case5に登場したモースの妹ジョイスの言葉から察するに、彼は大学時代に何らかの事件を起こし、今もまだ引きずっているよう。
Case1でモースがオックスフォードに行くのを渋ったり、大学時代の友人と会うときオドオドしていたりするのは、そういう事情があるからだったのですね。
上司に嫌われるモース
モースの才能を見いだしたサーズデイ警部補との関係がステキです。
サーズデイ警部補は父親代わりのようにも見えるけど、適度に距離を保っていて、一人の人間としてモースを尊重しているところがいい。理想的。
一方、対照的なのがCase2から登場したブライト警視正。
ブライト警視正は、規律や慣習を重んじる古いタイプの上司。上下関係を気にせず自由に振る舞う、現代で言えば「空気の読めない」モースが目障りでなりません。
さらに、モースの現在の肩書きは〝 刑事巡査 〟で、本来ならば事務職。サーズデイ警部補は無理やりモースを補佐に任命したけれど、ブライトにしてみれば許せなかったのでしょう。
誰よりも事件の真相に近づいているのに、毎回意見を無視されるモースが不憫でなりませんでしたね~。
サーズデイ警部が必死に〝世渡り〟を教えようとしているのだけど、モースは何ら意に介さず、マイペースを貫く。モースのそういうところ、面白くもあり歯がゆくもありました。
青年モース、禁酒を解く
「主任警部モース」の青年時代ということで、オリジナルに関連するセリフやモチーフがところどころ見られるのも楽しいです。
オリジナルでは、ことあるごとにモースがビール(エール)を飲むシーンが出てきますが、青年モースはCase1登場時、お酒は飲まないと公言していました。
モースに酒を飲めと勧めたのは、サーズデイ警部補です。以降、モースは事件の捜査に行き詰まるとビールを飲むようになります。
しかし、もともと下戸だったわけではないようで。
Case5で、実は「禁酒をしていた」ことが判明しました。
大学時代の事件が関係しているのかもしれません……。
オリジナルとの繋がり
シリーズを通してたびたび登場するオックスフォード・メール新聞の編集者ドロシアを演じた女優アビゲイルソウは、「主任警部モース」でモースを演じた俳優ジョン・ソウの実の娘でもあります(ちょっと面影ありますよね)。
Case1で青年モースとドロシアが初めて会ったときには、こんな会話が交わされました。
「前に会った?」
「いいえ、一度も」
「前世かしら」
さらに「主任警部モース」に登場するモースの愛車といえば〝真っ赤なジャガー〟ですが、このドラマでは、モースは運転手としてサーズデイ警部補が所有する黒いジャガーを運転します。
ちなみにCase1には、オリジナルのモースと同じナンバープレートの赤いジャガーが登場します。
もうひとつ。エンディングの冒頭にはオリジナル版のテーマが使用されています(ピーピーピピピッピッピピーってやつね)。
これは主人公の名前モース(Morse)がモールス信号の“Morse”と同じであることから、モールス信号をモチーフにしたものになっています。
音楽へのこだわり
モースが愛するクラシック音楽とクロスワードパズルも、題材として、あるいは事件を解く鍵として、たびたび登場します。
特に印象に残ったのは、Case3のラストシーンで交わされた、モースとサーズデイ警部補の会話。
「腹をくくれ。まともな者ならおかしくなる。守るものを見つけろ」
「見つけました。大切な何かを」
「音楽か? 音楽は素晴らしい。帰ったら一番好きなレコードを大音量で聴け。音の一つ一つを心に刻みつけろ。どんな闇でもそれは奪えない」
オリジナルにも繋がるシーンで、胸に染みる言葉でした。
シリーズ記事一覧