海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第6話「まだらの紐」のあらすじと感想です。
前回の「曲がった男」に続き、今回もインド絡みのお話。インドから帰国した後、実母を事故で亡くし、偏屈で乱暴な義父と暮らす姉妹に起きた悲劇。
謎の死をとげた姉が最後に言い残した“まだらの紐”の正体とは?
とても有名かつ人気のある作品で、パロディなども多いので、原作を読んだことはなくてもタイトルや内容を知っている人は多いかも。私も原作読む前から“まだらの紐”の正体だけは知ってました。
Contents
第6話「まだらの紐」あらすじ
ヘレンという女性がホームズを訪ねてくる。彼女の母親は多額の遺産を残して亡くなり、現在は乱暴な義父ロイロットとサリー州ストーク・モランで暮らしているという。
ヘレンは結婚を控えていたが、2年前に謎の死を遂げた姉ジュリアと同じことが自分の身に起こっていると怯えながら話す。姉は結婚式の2週間前に「まだらのバンド」という言葉を言い残し、苦しみながら亡くなったのだった。
亡くなる前、ジュリアは夜中に口笛が聞こえてくると話していた。そして今、ヘレンが屋根の修繕のため姉の部屋で寝ていると、やはり夜中に口笛が聞こえてきたという。
ホームズが民事裁判所で調べると、ヘレンの母親が残した遺産は農産物の値下がりで年収750ポンドに下がり、さらに娘が結婚した場合その3分の1を与えることになっていた。
ホームズとワトソンはロイロットの留守中に屋敷を訪ね、ジュリアの部屋を調べる。すると、召使いを呼ぶための呼び鈴の紐が、本来の役割を果たしていないことがわかる。さらに紐の近くには隣のロイロットの部屋に通じる通風孔があり、ベッドは床に固定されて動かせないようになっていた。
次にロイロットの部屋を調べると、猫や犬を飼っていないのに牛乳の入った皿が置いてあり、先が輪になった奇妙な鞭や、金庫が置いてあった。
ホームズとワトソンはそばの狩猟小屋に隠れて深夜になるまで待ち、ヘレンの合図でジュリアの部屋に侵入。やがて呼び鈴の紐をつたって部屋に現れたのは、猛毒を持つヘビだった。ホームズはヘビを攻撃して隣の部屋へ追い返し、ロイロットは興奮したヘビに噛まれて死んでしまう。
ロイロットは遺産を独り占めするため、インドの毒ヘビを使って姉妹の抹殺を企てたのだった。ヘビは牛乳と口笛の音で部屋に戻るよう仕込まれていたのだ。鞭はヘビを捕まえるためのもので、金庫はヘビを入れるためのものだった。
間接的にロイロットを死に追いやったホームズだったが、「良心の呵責はない」と話す。
登場人物はこちら
ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第6話の感想(ネタバレ有)
まだらの“バンド”がミスリードの仕掛けになっている
この回のサブタイトルは「まだらの紐」ですが、劇中では「まだらのバンド」と言ってましたね。原題は「The Speckled Band」(原作はThe Adventure of the Speckled Band)です。
英語の「band」には紐やベルトという意味のほかに、一団や楽団という意味もあります。それがロマの一団をさしているようにも思える…という仕掛けになっているんです。
原作では「紐」のふりがなが「バンド」になっていて、ホームズとヘレンがこんなやりとりをしています。
「お姉さんの謎めいた言葉については、どうです――“まだらの紐(バンド)”うんぬんという、あれは?」
「あるときは、ただの無意味なうわごとではなかったのかとも思いますし、またときにはある一団(バンド)のひとびと――具体的には、庭にいるロマの群れ(バンド)をさすものかとも考えます」
余談ですが、ロマというのは、昔は“ジプシー”と呼ばれることが多かった少数民族です。ロイロット博士がロマの人々にだけ心を許しているのは、彼らがインドにゆかりのある民族だったからでしょうね。
ロマ(Roma)
〔自称で、人間の意。ジプシーと呼ばれてきた〕
ヨーロッパを主に、各地に散在している少数民族。原住地はインド北西部とされる。数家族から十数家族で移動生活を送ってきたが、現在ではその多くが定住。ロマーニー語を話し、音楽をはじめ、独自の文化をもつ。ナチスによる絶滅政策など、各地で厳しい迫害を受けてきた歴史をもつ。(大辞林 第三版より)
存在しない架空のヘビ
インドから持ち込んだ毒ヘビを使って義理の娘を殺害するという、残忍かつ衝撃的なストーリー。やはり毒ヘビのインパクトが大きくて、記憶に残りやすいのかもしれません。
ところで、この物語に登場する毒ヘビは、
- マムシの一種でインドで最も猛毒を持つヘビ
- かまれたら数秒で死ぬ
- 牛乳と口笛で手懐けることができる
- 金庫の中でも生きられる
- 紐をつたって上り下りする
といった特徴が描かれていましたが、このような条件を満たすヘビは現実には存在しないそうです。たしかに牛乳を飲むヘビって聞いたことないかも…。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「まだらの紐」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
原作は1892年に発表され、短編の中では8番目の作品になります。
ワトソンの事件記録
ドラマではこれまで同様、依頼人の物語から始まります。いっぽう原作は、ワトソンの事件記録という形で書かれているので、依頼人の物語はすべて依頼人の口から語られることになっています。
今回も原作はヘレンがベイカー街を訪ねてくるところから始まり、ホームズが話を聞く形で彼女の過去が語られます。ロイロット博士が鍛冶屋を川へ投げ込んだくだりも、原作ではヘレンが語っています。
ワトソンはまだ結婚前で、ホームズと一緒にベイカー街に住んでいます(朝早く叩き起こされる場面は原作どおり)。
ワトソンによると、この事件については秘密にしておくという約束を依頼人と交わしていたため、これまで事件記録には載せなかったのだそう。しかしその女性が亡くなったので、真相を明らかにすることにした、と言っています。
つまりこの記録を書いているとき、ヘレンは亡くなっているということですね。
ロイロット家の零落
ドラマでは省かれていましたが、原作では、ヘレンの義父ロイロットの家はサクソン系の名家の末裔でありながら、放蕩者の当主が続いたために零落したという事情がヘレンの口から語られています。
ロイロットはその現状を打ち破るべく、借金をして医学の学位をとり、国を出てカルカッタへ向かったのです。そこで開業して成功を収めた彼でしたが、現地人の執事を殺してしまうという事件を起こし、それを機にすっかり人が変わってしまったのでした。
ドラマでは、ロイロットが帰国した理由(殺人事件)については、ワトソンがインドにいた友人に聞くという流れになっていましたが、原作ではヘレンの口から語られています。
また、ドラマではヘレンと姉のジュリアは3つ違いの姉妹ということになっていましたが、原作では双子の姉妹です。
ロイロット博士の最期
ホームズがステッキをふるって撃退した毒ヘビは、通気孔を通って隣のロイロットの寝室へ戻りました。ホームズとワトソンが部屋を見に行くと、彼はヘビに噛まれて息絶えています。
ドラマではヘビはロイロットの首に巻き付いていましたが、原作では額に巻き付き、彼の頭を固く締め付けていました。紐が巻きついていると思ったワトソンは「まだらの紐だ!」と叫びます。
その後、ホームズとワトソンがヘレンと一緒に列車に乗っていたのは、彼女をハロウに住む叔母のもとへ送り届けるため。事件は警察の調査が入るも真相はわからず、危険なペットをもてあそんでいるうちに不注意で死を招いた、と結論づけられました。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」