海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第15話「プライオリ・スクール」のあらすじと感想です。
いつもは報酬にこだわらないホームズが、めずらしく6000ポンドの報奨金を要求し、その倍の報酬を手にした事件。どうやってお金を工面してるんだろう?といつも不思議に思っていましたが、取るところからは取ってたのね。
捜査の中で「僕は42種類のタイヤの跡を見分けることができる」と豪語するホームズに、思わず「ほんまかいな」とツッコんでしまった(^_^;)
今回は結末も含めて、原作とは違う部分が多かった印象です。
Contents
第15話「プライオリ・スクール」あらすじ
北イングランドにある名門プライオリ・スクールのハクスタブル校長は、ベイカー街221Bを訪問するなり失神してしまう。ホームズが話を聞くと、3日前にホールダネス公爵の息子サルタイア卿がドイツ人教師とともに失踪したという。
ホームズとワトソンはさっそく夜汽車でマクルトンへ向かい、捜査を開始。サルタイア卿は10歳で、別居中の母親を恋しがっていたらしい。一緒に消えたドイツ人教師のハイデッガーは自転車を愛用しており、彼の自転車もまたなくなっていた。
ホームズはハイデッガーが深夜に抜け出す少年を目撃して追跡を試み、事件に巻き込まれたのではないかと推理する。少年が向かったと思われる北の荒れ地を調べると、牛の足跡と2種類の自転車のタイヤ痕が見つかるが、途中で消えていた。
ホームズとワトソンは街道沿いにある宿屋を訪ね、主人のルーベン・ヘイズが何かを隠していると見抜く。宿で借りた馬を見ると、古い蹄鉄に新しい釘が打たれていた。
ホールダネス公爵は「この季節に牛を放牧することはない」と証言し、ホームズはヘイズが追跡を逃れるために、馬に牛の蹄鉄を打って足跡を偽装していたことを確信する。もう一度荒れ地を調べると、ハイデッガーの遺体が見つかる。
サルタイア卿を誘拐した犯人はホールダネス公爵の秘書で、公爵が恋人に産ませた婚外子でもあるワイルダーだった。彼は正式な後継者である弟に嫉妬し、今回の犯行を計画。公爵の手紙をすりかえて弟を呼び出し、金で雇ったヘイズに拉致させ、宿に監禁させていたのだ。
ホームズとワトソンは宿に踏み込むが、ヘイズは逃走し、ワイルダーは少年を連れて逃げたあとだった。2人が逃げ込んだのは、略奪者だった公爵の先祖が盗んだ牛を隠したという巨大な石灰岩の洞窟だった。洞窟の奥で追っ手に迫られたワイルダーは、足をすべらせて転落死する。
無事にサルタイア卿を取り戻したホームズは、ホールダネス公爵から多額の謝礼を受け取る。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第15話の感想(ネタバレ有)
名門学校のロケ地は中世の城
生徒のひとりで公爵の令息であるサルタイア卿の失踪事件を捜査するため、現場へ乗り込むホームズとワトソン。自転車のタイヤ痕や足跡などを手がかりに、意外な犯人へとに辿り着きます。
犯人が残した痕跡をもとに、ホームズが得意の観察眼と推理力で真相を暴くのが面白かったです。
プライオリ・スクールのロケ地となったのは、ダービシャー州にあるHaddon Hall(ハドン・ホール)。マナーズ卿が所有されている中世の城です。
「ジェーン・エア」「エリザベス」「プライドと偏見」などの映画の撮影も行われたそうで、多くの映画ファンが足を運ぶ人気の場所になっています。雰囲気ありますよね~。
今回のエピソードに登場する学校は“プレパラトリー・スクール”といって、8歳から13歳の児童に対して一流大学進学のための準備教育を施す寄宿制の私立学校です。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの復活』に収録されている「プライアリー・スクール」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
発表は1904年、短編の中では29番目の作品にあたります。
公爵の先祖の歴史
まず、ドラマで何度も出てきたホールダネス公爵の先祖が“牛泥棒だった”という話。原作にはそういった直接的な表現はありませんでした。
陳列室にある牛の蹄鉄の所有者が「中世にこの地方で勢威を誇った、代々のホールダネス男爵のいずれか」であり、「追跡者の目をくらますために使用された」という説明があるだけです。
ドラマの終盤、追い詰められたワイルダーが逃げ込んだ洞窟(先祖が盗んだ牛を隠した場所)も登場しません。
ちなみに原作では、蹄鉄の偽装はワイルダーがヘイズに入れ知恵したことになっています。そしてホームズが偽装に気づいたきっかけは、牛の足跡の間隔が〈常歩〉→〈駆け足〉→〈疾駆〉と、徐々に開いていたことでした。確かにそんな牛はいませんね。
2つの自転車のタイヤ痕の謎
荒れ地を調べたホームズは、2つの自転車のタイヤ痕を見つけます。ひとつはハイデッガーが乗る自転車(ルーバー)、もうひとつは犯人のワイルダーが乗る自転車(ハウンド)です。
しかし誘拐の実行犯はヘイズだったはずで、彼は牛の蹄鉄をつけた馬を使っています。なぜワイルダーの自転車の跡が荒れ地に残っていたのか?
ドラマでは説明が省かれていましたが、原作によるとワイルダーは手紙で少年を呼び出したときに、自転車で荒れ地へ行き、そこで少年と会っています。そして「真夜中にもう一度ここへ来てくれれば、ある男が迎えにきて母親のもとへ案内してくれる」と言ったのです。
ちなみに原作ではハイデッガーの自転車のタイヤは〈パーマー〉、ワイルダーの自転車は〈ダンロップ〉製でした。
ハイデッガー教師の死因
たまたまサルタイア卿が抜け出すところを見て追いかけ、事件に巻き込まれてしまったドイツ人教師ハイデッガー。荒れ地で発見された遺体を見たワトソンは、死因を絞殺だと判断しました。
原作では、ヘイズがステッキでハイデッガーの頭部を殴り、それが致命傷となって命を落としています。ドラマと違い、ホームズとワトソンは最初に荒れ地を捜査したときにタイヤ痕を辿って遺体を発見し、その後にヘイズの宿屋を訪ねています。
公爵の罪
ドラマでは、公爵は事件にまったく関与しておらず、犯人が婚外子のワイルダーであることも、ホームズから聞かされるまで知りませんでした(疑ってはいましたが)。
原作では、公爵は途中で事件の真相を知り、隠蔽工作に加わっています。
犯人のワイルダーは、ホームズたちがハイデッガー教師の遺体を発見したときに動揺して(殺したことを知らなかった)、公爵にすべてを告白していたのです。そして「あと3日だけ待って欲しい」と公爵に懇願し、ヘイズが逃げる時間かせぎをしたのでした。
その後、公爵はひそかにヘイズの宿屋を訪れ、2階の部屋に監禁されていた令息と面会しています。原作では、この現場を目撃したホームズが事件の真相を見抜き、翌日公爵を問い詰めて白状させる…という流れでした。
そのため、原作では公爵によって事件の真相が語られています。
ホームズは公爵がワイルダーをかばって重罪を見逃し、幼いサルタイア卿を3日も監禁させて危険にさらしたことを厳しく非難しました。公爵はホームズに促されてようやく、召使いにサルタイア卿を迎えに行くよう命じたのです。
犯人たちの末路
ドラマでは逃亡したヘイズのその後については語られず、ワイルダーは逃げ込んだ洞窟の中で転落死しました。
原作では、ヘイズはホームズの通報によって逮捕されましたが、ワイルダーは公爵の手配でオーストラリアへ渡りました。事件への関与を明らかにしないまま。つまりヘイズに罪を被せて逃れたんですね。
ワイルダーの動機もドラマとは違います。ドラマでは「私に圧力をかけて楽しんでいた」と公爵自身が語っていましたが、原作では相続権を要求するための脅迫材料として弟の誘拐を計画しました。
事件解決後、公爵は別居中の夫人に手紙を送り、関係修復に努めることをホームズに約束しました。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」