海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第19話「もう一つの顔」のあらすじと感想です。
今回はちょっと面白い構成で、ホームズの捜査が既に終わっている時点から始まります。アヘン窟という怪しい場所で偶然ホームズと出くわしたワトソンが途中参加し、事件の説明を受けるという流れ。
最初に登場する人物が事件とまったく関係ない、というパターンがたまにありますが、今回もそう。ワトソンを訪ねてきたホイットニー夫人も彼女の夫も、事件とは無関係でした。
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第19話「もう一つの顔」あらすじ
ワトソンが診療所から帰宅すると、ケート・ホイットニーが訪ねてくる。彼女の夫アイザはアヘン中毒で、アッパー・スワンダム小路へアヘンを吸いに出かけたまま2日間戻らないという。ワトソンは心配する彼女の代わりにアイザを探しに行く。
ワトソンはアッパー・スワンダム小路のアヘン窟を訪れ、アヘンに溺れていたアイザを見つけ出す。彼を連れて帰ろうとすると、そこに中毒者を装って潜入捜査中のホームズがいた。ワトソンはホームズとともに、事件の依頼人であるセントクレア夫人の屋敷〈シーダー荘〉へ向かう。
ホームズの説明によると、〈シーダー荘〉の主ネヴィル・セントクレアが失踪したという。事件当日の朝、セントクレアがいつもと同様に出勤した後、夫人もたまたま用事ができてロンドンを訪れた。アッパー・スワンダム小路に迷いこんでしまった夫人は、そこでアヘン窟の建物の2階から顔を覗かせていた夫を見たという。
警察とともに建物に踏み込んだ夫人だったが、部屋にいたのは物乞いのヒュー・ブーンだけだった。部屋にはセントクレアの服と子供への誕生日プレゼントがあり、窓枠には血が付着していた。さらに窓下を流れるテムズ川の川底から、銅貨を詰めたセントクレアの外套が見つかる。ブラッド・ストリート警部はブーンを殺人容疑で逮捕する。
ホームズはアヘン窟の主ラスカーが失踪に関わっているのではないかと疑い、変装してアヘン窟に潜入したのだが、手がかりは何もつかめなかったという。セントクレアの死を予想するホームズだったが、夫人は今日届いたと言うセントクレアからの手紙を見せる。そこには「心配しないでほしい」と書かれていた。
〈シーザー荘〉で一晩中考え抜いたホームズは、ある仮説を立てる。翌朝、ホームズはワトソンを連れて警察を訪れ、ブラッド・ストリート警部の許可を得て拘留中のブーンの汚れた顔をスポンジで洗う。
ブーンの正体は、ネヴィル・セントクレアだった。彼はもともと新聞社の記者だったが、ロンドンの物乞いを特集する記事を書くため物乞いに扮して取材を行ったのがきっかけで、本職よりも稼げる物乞いがやめられなくなったと話す。
大金を得て紳士となった彼は〈シーザー荘〉を買い、地元の娘と結婚。その後も妻に秘密で物乞いを続けていた。アヘン窟の2階の部屋は、彼がセントクレアからブーンへ、ブーンからセントクレアへと変わるために、ラスカーに金を払って借りている部屋だった。
ブラッド・ストリート警部は物乞いを廃業することを約束させ、セントクレアを釈放する。ブーンの衣装を燃やしたセントクレアは、心配する妻のもとへ帰る。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第19話の感想(ネタバレ有)
映像で見る「アヘン窟」と「変装」
原作の作品タイトルは「The Man with the Twisted Lip(唇のねじれた男)」。NHKのタイトル「もう一つの顔」はかなりネタバレになってますね。
原作を読んだとき、映像を楽しみにしていたのが「アヘン窟」と「変装」でした。アヘン窟の様子は原作にも事細かく描かれているのですが、さすがに見たことないので想像にも限界があって…案の定、ドラマを見ると想像とは全然違ってました。
変装は2つ。ホームズがアヘン窟にいたときの変装と、物乞いブーンの変装です。どちらもさすがでしたね~。やりすぎず下手すぎず。よく見るとわかるくらいのちょうどよさ。2人とも変装を取ると見違えるほどの紳士になるところが爽快でした。
あと、原作にあった「特大型の浴用スポンジ」も想像と違った! なんとなくお風呂場の掃除に使うスポンジくらいを想像してたので、思った以上に大きくてびっくりしました。みんなあれで体を洗ってたのかしら…。
今作に登場するブラッド・ストリート警部を演じたのはデニス・リル。ブラッド・ストリート警部は「青い紅玉」にも登場しているのですが、そのときはブライアン・ミラーが演じていました。デニス・リルのブラッド・ストリート警部は、第24話「ブルース・パーティントン設計書」と、第40話「マザランの宝石」にも登場します。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「くちびるのねじれた男」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
発表は1891年、短編の中では6番目の作品にあたります。
ワトソンの妻
ドラマでは、診療所から戻ったワトソンがベイカー街の部屋でホイットニー夫人の訪問を受ける…という設定になっていましたが、原作ではワトソンは結婚してベイカー街を離れているため、ホームズと同居していません。
ホイットニー夫人が夜遅く訪ねてきたのもベイカー街ではなく、ワトソンの診療所。彼女が会いに来た相手はワトソンではなく、女学校時代からの友人であるワトソンの妻のほうでした。
ホイットニーは夫の問題で、これまでもたびたびワトソン夫妻に相談を持ちかけていました。
ホームズとワトソンの推理
ドラマでは〈シーザー荘〉に泊まったホームズとワトソンが、2人で事件について推理し合う場面がありました。午前4時を過ぎ、もう眠たくてたまらないワトソンは、推理を切り上げて先に寝てしまいます。
この場面は原作にはなく、原作のワトソンはホームズが徹夜するらしい様子を横目にさっさと寝てしまっています。
ドラマでのホームズの座り姿は、原作の挿絵を再現したものと思われます。原作の描写では、
上着とチョッキだけを脱ぎ、ゆったりした青い部屋着に着替えた彼は、室内を歩きまわって、ベッドの枕と、ソファのクッション、さらには肘かけ椅子のクッションまで集めてくると、それらを積みあげて、東洋ふうの寝椅子をこしらえ、その上にあぐらをかいて、膝の前に刻み煙草一オンスと、マッチ一箱を並べた。
とあります。ドラマの再現も素晴らしく、神秘的にも見えるシーンでした。
秘密の行方
ドラマでは省かれていましたが、原作では、物乞い稼業がバレたセントクレアはホームズとブラッド・ストリート警部に「子供たちに知られたくない!」と懇願し、秘密を公にしないという条件のもとで事情を打ち明けています。
ブラッド・ストリート警部が最後に「ブーンには消えてもらわないと」と言ったのも、警察がこの件に目をつぶることにしたからです。そしてもしその誓いを破ったら、そのときは一切が明るみに出る、とも言っています。
なので、おそらく夫人は真相を知らされないままだと思われるのですが、ドラマではどうだったんでしょうね。ラストシーンを見たとき、わたしはなんとなく「あ、奥さんにはバレちゃったのかな」と思いました。彼女はセントクレアがブーンの衣装を燃やすところを見てましたから。
その秘密を知った後でも、夫への愛情は変わらなかったんだろうな…と。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」