海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第22話「銀星号事件」のあらすじと感想です。
荒涼とした湿地が広がるダートムアで、大本命の競走馬が行方不明に。さらに調教師が殺されるという事件が発生します。ホームズは珍しく判断ミスで出遅れてしまい、容疑者が逮捕されてから捜査に加わっています。
今回、ジェレミー・ブレッドの髪が短くなっていることに違和感を覚える方も多いのでは。ホームズを演じる重圧からか躁鬱病を患っていた彼は、ある日とつぜん自分で髪を切ってしまったんだとか。今も昔も世界的な名探偵を演じるのは大変なんですね…。
Contents
第22話「銀星号事件」あらすじ
ウェセックス・カップの本命馬である銀星号が行方不明になり、調教師が殺される事件が起きた。馬主のロス大佐とグレゴリー警部から協力要請を受けたホームズは、ワトソンを連れてダートムアに赴く。
事件当夜、キングス・パイランド厩舎にいた宿直の厩務員はアヘンを盛られて眠り込んでおり、その直前に情報屋のフィッツロイ・シンプソンが厩舎に現れ馬の情報を探っていたことから、警察はシンプソンを逮捕。馬を連れ出そうとしたところを調教師のジョン・ストレーカーに見つかり、彼を殺害したと考えていた。
ストレーカーの所持品には手術用のメスや高額なドレスの請求書があり、それを見たホームズは真犯人と馬の行方を推理する。
ホームズは遺体発見現場を調べ、警察が見逃したマッチの燃えさしとロウソクを発見。さらに馬の足跡を追うと、ライバルのデスバラ号がいるメープルトン厩舎に辿り着く。デスバラ号の調教師サイラス・ブラウンは、事件の翌朝たまたま荒野で見つけた銀星号を連れて帰り、大金を稼ぐチャンスだと考えて隠していたのだった。
キングス・パイランド厩舎に戻ったホームズは、羊を世話している青年から「3頭足を引きずっている羊がいる」という話を聞いて推理を確かなものにすると、銀星号を出走させる準備をしておくようロス大佐に助言。馬の行方と殺人犯を明らかにしないまま、ワトソンとともにロンドンへ帰ってしまう。
ウェセックス・カップ当日、ホームズは約束どおり銀星号を出現させ、ロス大佐を喜ばせる。レースで一着になった銀星号を前に、「ストレーカーを殺した犯人はここにいます」と驚きの告白をするホームズ。
贅沢な愛人を持ち金に困っていたストレーカーは、対抗馬に金を賭けて儲けようと計画。カレー料理にアヘンを混ぜて宿直の厩務員を眠らせ、銀星号を窪地に連れ出して手術用のメスで足の腱に傷をつけようとした。だが暴れ出した馬に額を蹴られ、運悪く亡くなったのだ。
高額なドレスは彼が愛人に贈ったもので、牧場の羊が足を引きずっていたのは羊で予行練習をしたためだった。銀星号はどこにいたのかと訊くロス大佐に、ホームズとワトソンは近所にいたことを匂わせ、恩赦を頼み込む。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第22話の感想(ネタバレ有)
優秀なグレゴリー警部
今回はホームズも認める優秀な捜査官グレゴリー警部からの依頼。ロス大佐との対比でもあるのでしょうが、彼の言動にはホームズへのリスペクトが感じられ、とても好感が持てましたね~。
ホームズが求めるものを事前にしっかりと用意しておく、という手際の良さは、「四人の署名」のメアリーを思い起こさせました。ホームズは「彼に唯一欠けているのは想像力だ」と言ってたけど、想像力があるから準備できるのではないかなぁ~と思います。あと見た目も好みだった♡
鍵を握るマトンカレー
事件の夜に振る舞われたマトンカレー。犯人はアヘンの味を紛らわせるためにこの料理をリクエストできた人物、とホームズは推理し、そこから厩舎の主ストレーカーが真犯人であることを導き出しました。
「マトン」は、生後2〜7年ほどの羊の肉を指します。キングス・パイランドでは羊を飼育しているので、マトン料理が食卓にのぼることも多かったはず。
関矢悦子さんは著書『シャーロック・ホームズと見る ヴィクトリア朝英国の食卓と生活』の中で、日曜のディナーのメイン料理がロースト・マトンだったとしたら、翌日の月曜日に残り物を使ったマトンのカレー料理をリクエストしても妻は不自然さを感じなかったはず、と推理しています。
ドラマでは「マトンカレー」と訳されていましたが、日本人が食べている水分の多いカレーとはだいぶ違うようで、「マトンのカレー煮」あるいは「マトンのカレー料理」と言ったほうがイメージに近いらしい。
余談ですが、英国での最古のカレーレシピは1747年に刊行された料理本に載っていて、スパイスは胡椒、生姜、ターメリックのみ(カレーじゃない気がする)。あまり人気がないレシピだったようで、改訂版では削除されました。
原作との違い
ここからは駒月雅子さん訳の角川文庫版『シャーロック・ホームズの回想』に収録されている「シルヴァー・ブレイズ」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
発表は1892年、短編の中では13番目の作品にあたります。邦訳タイトルは「銀星号事件」「白銀号事件」「名馬シルヴァー・ブレイズ」など。
ホームズが出遅れた理由
ドラマでは省かれていましたが、ホームズがグレゴリー警部とロス大佐から電報を受け取ったのは事件が起きた翌日(火曜日)の夜で、出立したのは木曜の朝でした。
「どうして昨日のうちに動き出さなかったんだい?」とワトソンに聞かれ、「まったくだ。とんだへまをやったよ」と自省するホームズ。犯人はすぐに見つかると高をくくって、一日中その連絡が来るのを待っていたと言うのです。
ところがシンプソンが逮捕されたこと以外なんの進展もないので、今朝になって行動を起こすことにしたのでした。
ちなみに銀星号が出走したウェセックス・カップは翌週の火曜日に開催されています。
「白昼夢を見ていたものですから」
ドラマでは、ホームズたちがメイドと宿直の厩務員から事件当夜の出来事を聞く流れになっていましたが、ドラマでは現地へ向かう列車の中で、ホームズがワトソンに事件のあらましを説明するという形で語られます。
つまり現地へ到着する前に、ホームズは事件の状況をほぼ把握していました。
ドラマの終盤、ホームズは「ストレーカーの家に入ったとき、カレー料理の重大な意味がわかった」と語っていましたが、原作では家に入る前に気付きます。ここすごく印象的だった。
私たちはすぐに馬車から降りたが、ホームズだけは座席にもたれたまま前方の空に視線をひたと据え、物思いにふけっている様子だった。私が腕に軽く触れると、彼ははっと我に返り、馬車から降りた。
驚いた顔で見つめるロス大佐に、「白昼夢を見ていたものですから」と答えるホームズ。このとき、ホームズはマトンのカレー煮が重大な意味を持つことに気付いていたのです(物語の終盤、彼の説明によって明かされます)。
この白昼夢のシーン、ドラマでは流れの都合上カットされたんですよね~。惜しいなぁ。
変装したままレースに参加した銀星号
ドラマではレース直前にホームズが銀星号の変装を解き、ロス大佐と引き合わせていましたが、原作ではホームズは銀星号を変装させたままレースに出走させています。そして勝利した馬の変装を解いて見せ、ロス大佐を驚かせます。
この件は発表当時「競馬規則に違反する」と指摘され、批判を受けたそうです。著者のアーサー・コナン・ドイルは競馬に詳しくなかったため、ほかにも非現実的な記述や誤りがあるらしい。わたしは競馬に疎いので、まったくわかりませんでしたが。
ちなみに銀星号の名前は、「星」と呼ばれる顔の白斑に由来します。額から鼻先にかけて流れ星のような白い斑があることを大流星(blaze)と呼ぶそうです。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」