海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第25話「ブルース・パーティントン設計書」のあらすじと感想です。
ホームズの兄マイクロフトが「ギリシャ語通訳」以来2度目の登場。国家の一大事だと訴え、ホームズに捜査を依頼します。
原作では「だったら自分でやったら?」とホームズが反論する場面があって、それに対するマイクロフトの言い訳が彼らしくて笑っちゃうのですが、ドラマでは残念ながら省かれてましたね。
第25話「ブルース・パーティントン設計書」あらすじ
ホームズの兄マイクロフトが珍しくベイカー街を訪ねてくる。兵器廠に勤めるカドガン・ウエストという役人の遺体が地下鉄の線路脇で発見され、彼のポケットに国家機密であるブルース・パーティントン潜航艇の設計図の一部が入っていたという。
盗まれた設計図の残り3枚は未だ見つかっておらず、ウエストが厳重な金庫から盗み出した方法と理由も不明だった。マイクロフトは重大な国家の危機だとホームズを駆り立て、今すぐ行動を起こすよう急かす。
捜査に乗り出したホームズは遺体発見現場を調べ、現場に血痕がないことや、ちょうどカーブにさしかかるポイント地点であることから、遺体は別の場所で殺されて列車の屋根の上に置かれ、カーブで揺れた際に落ちたのだろうと推測する。
金庫の鍵を持つ2人のうちのひとり、サー・ジェームズ・ウォルターから話を聞こうとするホームズだったが、出迎えたのは弟のバレンタイン・ウォルター大佐だった。ジェームズは設計図の盗難にショックを受け、今朝亡くなったという。
ホームズとワトソンは、ウエストの婚約者バイオレット・ウエストベリーに会う。遺体が発見される前夜、ウエストは彼女とウリッチ劇場へ向かっていたのだが、途中で急に「重要な用事がある」と言い出し、立ち去ったという。2人が別れた場所は、英国海軍特許庁のすぐそばだった。
もうひとつの鍵を持つシドニイ・ジョンソンや、事件当夜ウエストに切符を売った駅員にも話を聞き、ホームズとワトソンがベイカー街に戻ると、マイクロフトから外国人スパイの氏名と住所を記したリストが届いていた。
地図でスパイの住所を調べたホームズは、コーフィールドガーデンズに住むヒューゴー・オーバーシュタインという人物に目をつける。彼の家の裏階段は線路に面しており、列車はその地点で停車することが多かった。
ホームズとワトソンは犯行の証拠を掴むため、オーバーシュタインの留守宅に侵入。彼が新聞の広告欄を使って、取引相手と連絡を取り合っていたことを突き止める。
ホームズはオーバーシュタインが使用していた“ピエロ”という筆名を使って広告を出し、取引相手をおびき出す。現れたのは、サー・ジェームズ・ウォルターの弟バレンタイン・ウォルター大佐だった。
バレンタインは兄の鍵を盗んで合鍵を作り、役所に忍び込んで設計図を盗み出した。そしてその現場をウエストに見られ、尾行されたのだ。オーバーシュタインはウエストを殺し、犯人に仕立て上げるため設計図の一部を遺体のポケットに入れ、窓から列車の屋根に乗せたのだった。
バレンタインは株の失敗で借金がかさみ、破産を逃れるためにオーバーシュタインに協力したと打ち明ける。
ホームズはバレンタインに「設計図の主要な部分が欠けていた」という手紙を書かせ、オーバーシュタインをチャリング・クロスホテルの喫煙室に呼び出す。罠にかかったオーバーシュタインは、待ち受けていたブラッドストリート警部に逮捕され、事件は解決する。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第25話の感想(ネタバレ有)
マイクロフトの特殊な仕事
マイクロフトが久しぶりに登場し、難事件を持ち込んできました。
彼は毎日お決まりの循環コース(自宅⇒ディオゲネス・クラブ⇒役所)を逸れることがないので、わざわざベイカー街にやってくるのは「ただごとではない」のです。
そしてマイクロフトの「仕事」について、今回はじめて詳細が語られました。ほかに類例のない役職で(マイクロフトが自分で作り上げた)、政府の決定事項はすべて彼のもとへ持ち込まれるのだと。すべての中心にいて調整役を務める、必要不可欠な存在。
前回の事件「ギリシャ語通訳」でホームズがそのことを話さなかったのは、まだワトソンのことをよく知らなかったから、と原作では笑いながら語っています。
捜査に手こずるホームズ
いつも鮮やかな推理で華麗に事件を解決するホームズですが、今回はやや苦戦。原作では完全に「犯人はウエスト」と思い込んでいて、中盤までその仮説をもとに動いていました。
婚約者のウエストベリー嬢に会った直後も、「調べれば調べるほど、ますますクロくなってくる」と言ってます。
考えを改めたのは、設計図が保管されていた役所を訪れたとき。そこでようやく「書類を持ち出したのは上司で、ウエストはそれを目撃して尾行したのでは?」という、かなり真実に近い推理に辿り着きました。
- 犯人は設計図の原本そのものを持ち出している
もしウエストが犯人ならば、自分で写しを作る方が簡単 - 窓の外の月桂樹の枝が折れていたり、地面に痕跡があった
誰かが窓の外から室内をのぞき見していたと思われる
ロンドンの地下鉄
今回のエピソードでは、地下鉄が印象的な役割を果たしていました。
ロンドンの地下鉄は1863年に開通しています(世界初)。今回の事件は1895年11月という設定なので、開業から32年後ということになりますね。ホームズやワトソンは馬車を使うことが多いけど、地下鉄も利用していたことでしょう。
1863年といえば日本はまだ江戸時代。第14代将軍・徳川家茂の時代です。その頃にもう地下鉄が走っていたなんて、すごいねぇ。
しかし当時はまだ電化されておらず、蒸気機関車がトンネル内を走っていました。煙が発生するため、駅構内は地下空間ではなく吹き抜け構造になっていて、路線の一部も掘割だったそうです。犯人の家も、その堀割の端にあったんでしょうね。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録されている「ブルース=パーティントン設計書」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
発表は1908年、短編の中では39番目の作品にあたります。
ホームズが歌うラッススのモテット
ドラマの序盤、暇を持て余したホームズが暖炉の前で歌声を披露するシーンがありました。調べたところ、これはフランドルの作曲家ラッスス(1532~1594)の“Quemadmodum desiderat”という曲とのこと。
原作では、この事件の捜査のあいまにホームズが「ラッスス作曲のポリフォニー技法によるモテット」というテーマの論文に取り組んでいるという描写があって、おそらくそれに倣ったのだと思います。
ホームズの歌声が聴けるのはドラマならでは…貴重なワンシーンでした。
ブラッドストリート警部
今回の事件を担当する警部は、ドラマではブラッドストリートでしたが、原作ではレストレードです。
ブラッドストリート警部は第7話「青い紅玉」、第19話「もう一つの顔」に続いて3度目の登場。このあと第40話「マザランの宝石」にも登場するので、けっこう頻度が高いですね。
ハドソン夫人
ドラマではたびたびハドソン夫人が登場して、ホームズやワトソンと愛嬌のあるやりとりをしていましたが、原作には全く登場しません。
このドラマのハドソン夫人は本当に愛らしくて魅力的ですよね。それでいて控えめで、絶妙な存在感。彼女が登場するとほっこりさせられます。
新聞広告
ホームズとワトソンがヒューゴー・オーバーシュタインの家に侵入した際、ワトソンは暖炉に古新聞が投げ込まれているのを見て違和感を覚え、それが犯行に使われた新聞広告を発見するきっかけになりました。
原作では、2人が見つけたのは新聞ではなく、デスクの上に置かれたブリキの手提げ金庫でした。新聞広告の切り抜きは白い封筒に入れられて、その金庫の中に入っていました。
ウエストが尾行した理由
ドラマでは省かれていましたが、原作のホームズはカドガン・ウエストが犯人を尾行した理由についても説明しています。
ウエストは以前からバレンタインに疑いを抱いていました(婚約者の証言がそれを示しています)。事件の夜、彼が盗みを働くところを目撃したウエストは、その場で人を呼ぶことをためらいました。兄のサー・ジェームズ・ウォルターの依頼で、書類を私宅へ持っていく可能性も考えられたからです。
そこで彼は霧に紛れて尾行することにし、オーバーシュタインの家に辿り着いたのでした。
ウエストの死因について、ドラマでは「大理石の床で頭を打って」となっていましたが、原作ではオーバーシュタインが護身用の仕込み杖で頭を殴って殺しました。
設計図をポケットに入れた理由
盗んだ設計図のうち7枚をウエストのポケットに入れた理由について、ドラマでは詳しい説明が省かれていました。
オーバーシュタインとバレンタインは当初、設計図をその夜のうちに複写して、役所に返すつもりでした。ところがオーバーシュタインが「技術的に複雑すぎて時間内にコピーを作るのは無理だ」と言い出し、枢要な3枚を自分がもらって、残りの7枚はウエストのポケットに入れて罪を被せることを提案したのです。
後日談
ドラマでは、オーバーシュタインが逮捕される場面までしっかり描かれました。
バレンタインは逮捕に協力したものの、どさくさにまぎれて逃亡。その後どうなったかはわかりません。ブラッドストリート警部は「ご心配なく。遠くへは飛べませんよ」と言ってましたが…。
原作では後日談として、オーバーシュタインが逮捕されて15年の禁固刑に服していることが書かれています。設計図は彼のトランクの中から無事発見されました。バレンタインも逮捕され、刑期の2年目に獄中死しました。
エメラルドのタイピン
原作の最後に書かれているちょっとしたエピソードが、ドラマではまるっと削除されています。
事件が解決して数週間後、ホームズはウィンザーの地で1日を過ごし、帰宅したときにはエメラルドのタイピンを胸に輝かせていました。ワトソンが「買ったのか」と聞くと、ホームズは「いや、さる優渥なる貴婦人からの贈り物」だと答えました。
ワトソンはそのタイピンが、〈ブルース・パーティントン設計書〉の事件を解決したお礼にもらったものだろう…と想像しています。
贈り主が誰かは書かれていませんが、「ウィンザーの地」とはウィンザー城のことで、「優渥なる貴婦人」とはヴィクトリア女王のことだろうと言われています。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」