海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第7話「青い紅玉」のあらすじと感想です。
ホテルの部屋から盗まれた宝石の行方と、鵞鳥と帽子を落として姿を消した男。一見なんの関係もなさそうな2件の事件が、奇妙な形で繋がる痛快なお話でした。ドラマ独自の「クリスマス当日」という設定もよかったです。
ちなみにこの第7話までが「第1シリーズ」で、初放送は1984年4月24日から1984年6月5日でした。
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第7話「青い紅玉」あらすじ
伯爵夫人が持つ珍しい宝石ブルー・カーバンクルが盗まれる。当日夫人の部屋で仕事をしていた配管工のジョン・ホーナーが逮捕されるが、彼は無実を主張し、宝石は見つからない。
クリスマスの朝、メッセンジャーのピーターソンが昨夜拾ったという鵞鳥と帽子を手に、ホームズの部屋を訪ねてくる。持ち主は路上で複数の男に絡まれ、駆けつけたピーターソンを警察と間違えて逃げてしまったという。
ホームズは鵞鳥をピーターソンに持ち帰らせ、帽子だけを預かることに。帽子を観察したホームズは、「持ち主は知性のある人で、3年前まで裕福だったが今は落ちぶれている。精神的にも退廃し、飲酒癖があり、夫婦仲はうまくいっていない。中年で髪は灰色、家にはガスを引いていない」と推理し、ワトソンを驚かせる。
そこへピーターソンが大慌てで駆け込んでくる。さばいた鵞鳥の胃の中から青い宝石が出てきたという。それこそ伯爵夫人が盗まれたブルー・カーバンクルだった。ホームズは落とし主を探すため、新聞広告を出す。
やってきたのはヘンリー・ベイカーと名乗る男だった。彼は鵞鳥の胃の中に宝石があるとは知らず、ホームズが代わりに用意した鵞鳥をもらって喜んで帰っていった。
ホームズとワトソンは真相を突き止めるため、ヘンリーが鵞鳥を手に入れたパブを訪れる。パブで仕入れ先を聞いた2人はコベント・ガーデンへ向かい、そこで同じように鵞鳥の仕入れ先を尋ねている男に出会う。
男は伯爵夫人が滞在するホテルの客室係ライダーだった。ホームズが宝石を持っていることを明かすと、ライダーは小間使いのキャサリンに唆されて宝石を盗んだことを告白する。
配管工のホーナーに窃盗の前科があることを知っていたライダーは、キャサリンと共謀して伯爵夫人の部屋に配管の仕事を作り、ホーナーを呼んで宝石を盗んだ罪を着せたのだった。
その後、盗んだ宝石の隠し場所に困ったライダーは、姉が飼っている鵞鳥に飲み込ませたが、間違えて別の鵞鳥を持ち帰ってしまった。そのため宝石を飲み込んだ鵞鳥の行方を必死に追っていたと話す。
ホームズは警察には通報せず、「出来心だった」と許しを請うライダーを見逃すことに。ホームズはようやく食事にありつこうとするが、「ホーナーが監獄にいると思うと落ち着いて食事できない」と言うワトソンに同意し、警察へ向かう。ホーナーは釈放され、家族のもとへ戻る。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第7話の感想(ネタバレ有)
青い紅玉の正体は?
原作のタイトルにもなっている「ブルー・カーバンクル」のカーバンクル(Carbuncle)は、丸く磨き上げられた赤い宝石の総称。またはガーネット(柘榴石)を表すそうです。なので日本では「青い紅玉」「青いガーネット」「青い柘榴石」などと訳されています。
ただ、青い色のガーネットは発見されていないため、ガーネットではなくサファイヤやダイヤではと考える説もあるそうです。ちなみに緑色のガーネットは1960年代にアフリカで発見されています。
冒頭、宝石が発見されてから今日に至るまでの血なまぐさい歴史が映し出されます。最後に手にしたのは若き日のモーカー伯爵夫人。そして、現在彼女が滞在しているコスモポリタン・ホテルへと場面が変わります。
クリスマス・ツリー
伯爵夫人が滞在しているホテルのロビーや夫人の部屋には、それぞれ立派なクリスマス・ツリーが飾られていました。
クリスマス・ツリーはもともとキリスト教とは無関係で、ドイツの異教徒たちが樫の木を崇めていたのが原型だそうです。その後、キリスト教の伝道師たちが樫の木をもみの木に変え、キリスト教化していったらしい。
19世紀半ばまでは、英国民はクリスマス・ツリーのことなどまったく知りませんでした。それを英国に根付かせるきっかけを作ったのが、ヴィクトリア女王の夫アルバート公。1840年、ドイツ生まれの彼は結婚後初のクリスマスを祝うため、ウィンザー宮にクリスマス・ツリーを持ち込んでそれぞれの部屋に飾ったのです。
その後、1848年に新聞で王室のクリスマス風景が紹介され、英国民は初めてクリスマス・ツリーを飾る習慣を知りました。1860年~70年代には広く国中に浸透していたと言いますから、1890年前後の設定と思われるこの物語においても既に一般的な習慣として登場しています。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「青い柘榴石」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
原作は1892年に発表され、短編の中では7番目の作品になります。
原作では中盤まで宝石が登場しない
ドラマではすべての事件がクリスマス当日に起こる設定になっていましたが、原作ではクリスマスの2日後。ワトソンがベイカー街を訪ねると、ホームズがみすぼらしい帽子を検分していた…という場面から始まります。
ヘンリー・ベイカーが鵞鳥を落としたのはクリスマス当日で、それから2日経っているという設定です。
ドラマの冒頭で描かれた宝石盗難の経緯は、原作では鵞鳥の中から宝石が出てきたという知らせを受けたあと、ホームズが読み上げる新聞記事の内容として登場します。なので、最初は「帽子の持ち主が事件に巻き込まれた」と思わせるような始まり方なんですね。
中盤でようやく宝石盗難の話が出てくるので、それまでは物語の展開がまったく予想できないという原作ならではの面白さがありました。
一方、ドラマ版では気難しそうなモーカー夫人や、メイドのキャサリンと客室係ライダーの関係、濡れ衣を着せられたホーナーの家族とのやりとりなど、原作にはない人間模様が描かれていました。
ホームズの決断
ライダーが盗んだ宝石が鵞鳥の中から出てくることになった経緯や、ホームズとワトソンが帽子の落とし主から鵞鳥の入手先を聞いて出所を突き止める流れは原作と同じです。
ドラマではワトソンのセリフが増えていて、鵞鳥の仕入れ先を追ってコベント・ガーデンへ向かおうとするホームズに「寒いから明日にしないか」と言ったり、宝石を盗んだライダーを逃がしたホームズに「気に食わない」と言ったりする場面は原作にはありませんでした。
また、事件解決後に2人がようやく食事にありつこうとしたとき、ワトソンが「落ち着いて食事できない」と言ってホームズと一緒に警察へ行く(濡れ衣を着せられて監獄にいるホーナーを救うため)場面も、原作にはありません。
その後、ホームズがどうやってホーナーの無実を証明したのか少し気になります。ライダーは逐電してるし、警察と伯爵夫人になんて説明したのかなぁ。ホームズのことだからうまくやったに違いないけど。
ちなみに原作のホームズは、「結局、事件はうやむやになるだろうね」と言っています。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」