海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第3話「海軍条約事件」のあらすじと感想です。
何者かに機密書類を盗まれ、学友のワトソンに助けを求める外交官パーシー。国家の一大事にもつながる事件とあって、ホームズはさっそく捜査に乗り出します。
盗まれた状況がミステリアスだったので密室の謎解きかと思ったら(原作には役所の見取り図まで載ってる)、結末はまったくの方向違い。完全に騙されました!
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第3話「海軍条約事件」あらすじ
ワトソンのもとに、学生時代の友人パーシー・フェルプスから助けを求める手紙が届く。外務省の書記官である彼は、外務大臣の伯父ホルド・ハースト卿からイタリアと結んだ海軍条約文書を預かっていたのだが、職場で席を外した隙に盗まれてしまったという。
ホームズとワトソンがパーシーを訪ねると、ショックで弱り切った彼が婚約者アニーとその兄ジョゼフに見守られて療養していた。事件当日、彼は同僚が帰宅した後でひとり役所に残り、伯父から頼まれた条約の写しを取る仕事に取りかかっていた。
用務員の妻にコーヒーを頼んだが来ないので下へ確認しに行くと、誰もいないはずのパーシーの部屋から呼び出しベルが鳴り、急いで戻ってみると条約が消えていたという。捜査にあたったスコットランドヤードのフォーブス警部は用務員の妻を怪しみ、家を徹底的に調べるが、盗まれた条約は見つからなかった。
ホームズが訪ねた夜、パーシーの部屋に何者かが侵入しようとする。パーシーが目を覚ましたため侵入は阻止できたが、彼は「巨大な陰謀に巻き込まれたのでは」と不安がる。ホームズは彼の婚約者アニーに「今日はこの部屋から絶対に出ないでほしい」と密かに頼み、パーシーとワトソンをロンドンに向かわせて自分は現地に残る。
翌朝、ホームズは左手を負傷してベイカー街に戻ってくる。3人で朝食をとろうと皿の蓋を取ると、中から紛失した文書が現れる。条約を取り戻したホームズが仕込んだのだった。歓喜するパーシーに、ホームズは昨夜の出来事を語って聞かせる。
昨夜、ホームズは馬屋に忍び込んでパーシーの部屋を見張っていた。アニーが部屋に鍵をかけて寝室に戻ると、怪しい男が庭の窓から部屋に侵入し、隠していた条約を取り出すのが見えた。ホームズが男を取り押さえると、ジョゼフだった。
事件の夜、彼はパーシーを訪ねて役所にやってきたが、呼び出しベルを鳴らした直後にデスクの上にある機密書類に気づき、とっさに盗んで逃げたのだ。家に戻った彼は自分の部屋に隠したが、その後パーシーが部屋に運び込まれ病室として使うことになり、書類を持ち出す機会が失われたのだった。
ホームズはジョゼフを逃がした後でフォーブス警部に知らせたが、事件が法廷に出るのはホルド・ハースト卿にとっても不都合なことなので、逮捕されることはないだろうと話す。
ホームズの置き手紙を読んだアニーがベイカー街を訪ねてくる。パーシーは事件の真相を自分から話すと言い、ホームズに礼を告げて部屋を出て行く。
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ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第3話の感想(ネタバレ有)
陰謀疑惑からのシンプルな結末
ワトソンのもとに旧友から助けを求める手紙が届き、ワトソンがホームズに相談し、ホームズが捜査に乗り出すという流れ。
前回の「踊る人形」同様、イギリスの田舎の風景がとても美しい。当時の衣装がまた映えるんですよね。ホームズが着ていたクリーム色のスーツがめちゃくちゃ似合ってて素敵だった。オシャレだわ~。
雨の夜に誰もいないはずの部屋でベルが鳴り、秘密文書が消えるという何ともミステリアスな事件。盗まれた状況からフランス系の同僚や用務員夫妻が怪しいと思われましたが、終わってみると何の関係もなく…完全なるミスリードでした。
このあたりはほぼ原作そのままで、ドラマに登場する役所の見取り図(パーシーが描いた)も、原作に出てきます。ドラマではホームズが見向きもしないことから、それほど重要ではないとわかるヒントにもなってたのかな、と。
国家レベルの機密文書が盗まれたとなると、やはり読者は何らかの陰謀を疑ってしまいます。ドイルはその心理を利用して、あえて逆の方向の結末(身内の金目当ての犯行)を用意したんでしょうね。
原作との違い
ここからは駒月雅子さん訳の角川文庫版『シャーロック・ホームズの回想』に収録されている「海軍条約文書」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
原作は1893年に発表された23番目の短編小説です。
ワトソンはどこから来たの?
原作では、ワトソンが結婚して間もない7月に起こった3つの事件のうちの一つ、と語られています。「ボヘミアの醜聞」では、ワトソンは「結婚してホームズとは疎遠になった」と語っているので、ちょっと首を傾げたくなるところ…。
そういうわけで、原作のワトソンはベイカー街には住んでおらず、ホームズに手紙を見せるためにベイカー街を訪れる、という設定になっています。
ところがドラマでも原作そのままに、外出着を来たワトソンが手紙を持ってホームズの部屋を訪ねるシーンから始まっています。これはおかしいですよね。このドラマのワトソンは独身で、ホームズと同居しているはずなんですから。
どうやらドラマの制作スタッフがうっかりしていたらしく、この矛盾点に気づいたときには既に編集作業に入っていた…ということで、やむなくそのまま放映することにしたらしいです。ちょっと面白い。
ワトソンとパーシーの関係
ドラマのパーシーがワトソンの2級下の学友という設定になっていたのに対し、原作では「年齢は同じだが級は2つ上」でした。それだけ優秀な生徒だったということです。
ドラマのワトソンは彼のことを「よくいじめていた」と言ってて、あんまり仲が良さそうには思えませんでしたが、パーシーが再会を喜んでいたので本人は気にしてなかったのかな。
パーシーが患っていた病気は、原作では「脳炎」となっていました。ドラマでは「神経衰弱」でしたね。屋敷の場所は、原作ではサリー州のウォーキングにあるという設定でした。
ドラマではまるまるカットされていましたが、原作には、終盤ワトソンがパーシーをベイカー街に連れて帰り、心配でたまらないパーシーが延々とグチをこぼしてワトソンを困らせる、というシーンがありました。
怪しい用務員夫妻
事件の夜に登場する、用務員のタンジー夫妻。ドラマでは大幅に省かれていましたが、原作ではさらに怪しい行動が事細かく描かれています。
泥棒を追いかけて役所の外に出たパーシーは、タンジーの妻が急いだ様子で役所から出てきた、という警官の話を聞いて引っかかり、追いかけようとします。しかしタンジーが「女房は関係ない」と強く主張し、反対の方向へ急かすため、そちらへ向かったのです。
しかもタンジーは昔、近衛連隊に所属していた人物でした。怪しい要素が次から次へと!
タンジーの捜査にあたったスコットランドヤードのフォーブス警部は、原作にも登場します。最初はホームズのことを「警察の手柄を横取りする人物」と良く思っていない雰囲気でしたが、ホームズに「最近手掛けた53件の事件のうち、僕の名前が出たのはたった4件で、残りの49件は警察の手柄になっている」と言われ態度が一変するのも原作どおり。
ホームズが語る哲学
ドラマでは、ホームズが部屋に飾られた薔薇の花に心を奪われ、哲学的なことを語り出すちょっと珍しいシーンがありました。これも原作にあるシーン。
ただし原作では花瓶の花ではなく、窓の外にしだれた苔薔薇に手を添える…というさらにロマンチックな描写になっています。ワトソンは「彼が自然の事物に深い興味を示すことなど、これまで一度もなかった」と驚いています。
さらに、ドラマでは省かれていましたが、ホームズとワトソンがロンドンへ戻る列車の中で、ホームズが車窓の景色に感嘆するシーンもありました。
物語の結末
パーシーの部屋に侵入するジョゼフを捕まえ、みごと海外条約文書を取り戻したホームズ。ドラマのジョゼフは椅子の裏貼りの中に文書を隠していましたが、原作では床板を外してその中に隠していました。動機が金目当て(株で大損した)というのは原作どおりです。
ドラマはホームズの置き手紙を読んだアニーがベイカー街を訪ねてきて、パーシーと再会するシーンで終わります。原作ではホームズが事件の真相をパーシーに伝え、「ジョゼフ・ハリソンは何をやるかわからない男ですよ」と告げるシーンで終わっています。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第8話「ぶなの木屋敷の怪」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」