海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」第8話「ぶなの木屋敷の怪」のあらすじと感想です。
法外な報酬と奇妙な条件で雇われた女性家庭教師が、不気味な屋敷で体験する恐ろしい出来事。第4話「美しき自転車乗り」と似たような設定ですが、獰猛なマスティフ犬や鍵のかかった塔、残虐な少年など、さらに想像を掻き立てる不気味要素が盛り込まれていました。
この第8話から第13話までが「第2シリーズ」という位置づけになっていて、1985年8月25日から1985年9月29日まで放送されました。
Contents
第8話「ぶなの木屋敷の怪」あらすじ
ホームズはバイオレット・ハンターという身寄りのない女性から相談事があるという手紙を受け取る。ベイカー街を訪れた彼女は、職業紹介所で奇妙な条件付きの仕事を紹介されたと話す。
それはジョフロ・ルーキャッスルという男の“ぶなの木屋敷”において彼の息子の家庭教師をする仕事だった。破格の報酬が提示されたものの、「髪を短く切ってほしい」という条件を受け入れられず、断ったという。
だがバイオレットが後悔し始めていたところ、さらに報酬を上げるとの手紙が来る。迷ったバイオレットはホームズに相談し、「何かあったら電報で知らせる」と約束し、仕事を引き受けることに。
後日、バイオレットからの電報が届き、ホームズとワトソンは急ぎウィンチェスターへ。再会した彼女は「青いドレスを着て窓際に座るよう命じられた」「窓の外には髭を生やした男がいて、こちらの様子をうかがっていた」「たんすの引き出しに自分と同じ赤い髪の束が入っていた」と、ぶなの木屋敷での奇妙な出来事について語り、さらに「鍵のかかった塔の中に誰かがいる」と怯えた様子で話す。
ホームズは後でぶなの木屋敷に行くことを約束し、バイオレットを先に帰宅させる。屋敷に戻ったバイオレットは、ホームズに言われたとおりルーキャッスル夫妻が出かけたのを見はからって使用人のトラー夫人を地下室に閉じ込める。
ホームズとワトソンが駆けつける直前、髭の男が塔の部屋へ侵入し、部屋にいたアリスをさらってしまう。戻ってきたルーキャッスルはホームズたちが娘を隠したと思い込み、獰猛な犬を放しに行くが、自らが襲われ大怪我を負う。
トラー夫人によると、塔に閉じ込められていたのは先妻の娘アリスだという。アリスは母親の遺産を継いでいたが、金は父親のルーキャッスルが管理していた。やがてアリスに恋人ができると、ルーキャッスルは財産を独り占めしようと画策。
「財産は任せる」という書類に署名させようとしてアリスを脅し、彼女は重病を患って生死の境をさまようほどに。そして痩せ衰え髪を切った彼女を塔に閉じ込めたのだった。
バイオレットを雇ったのは、アリスの身代わりをさせて恋人のファウラーを諦めさせるためだった。だがファウラーは諦めず、トラー夫人を味方につけて塔から彼女を救出したのだ。
その後ルーキャッスルは一命を取り留めるも廃人同様になり、夫人の献身的な看護で辛うじて生きながらえているという。秘密を知りすぎたトラー夫婦は今もぶなの木屋敷に住んでいる。
アリスとファウラーは結婚し、モーリシャス島に役人として赴任。バイオレットはウォルソールの私立学校の校長として成功した人生を送っていた。
登場人物はこちら
ネタバレ有「シャーロック・ホームズの冒険」各話あらすじ・感想・キャスト・原作比較・時代背景第8話の感想(ネタバレ有)
冒頭、上機嫌のワトソンに対し、なにやら不機嫌そうなホームズ。例によって好奇心を掻き立てられる刺激的な事件が起こらず、欲求不満を抱えているようです。ワトソンが書き留める事件記録にイチャモンをつけたりして、完全に八つ当たり。
ホームズが「犯罪よりも推理に重点をおくべき」と語るこの場面は原作そのままです。最近は依頼の水準も落ちたと嘆き、投げやりにバイオレット嬢からの手紙を見せる…という流れ。
当初は興味なさげだったホームズも、彼女の話を聞いた途端がぜん前のめりに。バイオレット嬢はホームズの「何かあったらすぐ電報を」という言葉に安心し、怪しい家庭教師の仕事を引き受けることに。
彼女が出ていった後、「あの人が僕の妹だったら、絶対反対するね」というホームズの言葉だけで、グッと好奇心を掻き立てられますよね。
劇中に登場する“ぶなの木屋敷”のロケーションも素晴らしく、いかにも何かありそうな不気味な建物でした。
原作との違い
ここからは深町眞理子さん訳の創元推理文庫版『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「橅の木屋敷の怪」をもとに、ドラマと原作との違いを見ていきます。
原作は1892年に発表されました。短編の中では12番目の作品にあたり、〈ストランド・マガジン〉に発表された第1シリーズの最終話でもあります。
ドイルはこの話で連載を終わらせようと、ホームズを殺すと言い出します。それを止めたのが熱烈な読者だった母でした。そして母の勧めで、以前アイデアを思いついた「ぶなの木屋敷」のエピソードが書かれることになったのです。
ぶなの木屋敷なのに“ぶな”がない?
“ぶなの木屋敷”のロケ地は、北ランカシャーのコーンフォース近くにある屋敷でした。
どことなく不気味な雰囲気は物語にぴったりですが、肝心のぶなの木がなかったため、「ぶなの木は枯れて今はない」というセリフが加えられました。もちろん原作にはありません。
原作では「玄関のすぐ前にこんもりした橅の木立がある」と書かれています。
バイオレットの髪の色
ドラマでバイオレット役を演じたのは、ナターシャ・リチャードスン。原作のバイオレットの髪は「独特の栗色」でしたが、彼女の髪の色は栗色というより赤毛でしたね。
ドラマではルーキャッスルの息子エドワードの髪の色が彼女とまったく同じ色で、それが視聴者へのヒントにもなっていました。
ちなみに著者ドイルが思いついたもともとのアイデアは、「誘拐された金髪の少女が髪を切り取られ、ほかの娘の身代わりにされる」というものでした。
アリスの存在と謎解き
塔の中に幽閉されていたのは、ルーキャッスルと先妻の娘アリスでした。
ドラマでは終盤までアリスに関する言及は一切なく、最後にトラー夫人によって真相と同時に語られますが、原作では序盤のルーキャッスルの手紙の中で「娘のアリスのドレスがある」と書かれています。
さらにバイオレットが雇われた直後に「娘は継母を嫌って家を出た」とルーキャッスル自身が説明しています。
そのため、ホームズは早い段階で事件の真相にほぼ気づいていました。ドラマではトラー夫人が説明しましたが、原作ではホームズが、バイオレットと再会したウィンチェスターの宿でいちはやく推理を披露しています。
推理の手がかりのひとつとして、「子供の残虐性」もあげています。おそらく父親から受け継いだ性質だろうと。ただ、トラー夫人がファウラー氏と手を組んでいたことは見抜けませんでした。
物語の冒頭でホームズが 「犯罪よりも推理に重点をおくべき」 とわざわざ指摘しているので、ここはやはりホームズが推理するほうがしっくりきたんじゃか、と思います。
ドラマはあえてホームズの言葉に逆らう内容にして、最後に「君の文学的才能に、僕はただひたすら敬意を表するのみだよ」と言わせたのかもしれません。
- 登場人物
- 第1話「ボヘミアの醜聞」
- 第2話「踊る人形」
- 第3話「海軍条約事件」
- 第4話「美しき自転車乗り」
- 第5話「曲がった男」
- 第6話「まだらの紐」
- 第7話「青い紅玉」
- 第9話「ギリシャ語通訳」
- 第10話「ノーウッドの建築業者」
- 第11話「入院患者」
- 第12話「赤髪連盟」
- 第13話「最後の事件」
- 第14話「空き家の怪事件」
- 第15話「プライオリ・スクール」
- 第16話「第二の血痕」
- 第17話「マスグレーブ家の儀式書」
- 第18話「修道院屋敷」
- 第19話「もう一つの顔」
- 第20話「六つのナポレオン」
- 第21話「四人の署名」
- 第22話「銀星号事件」
- 第23話「悪魔の足」
- 第24話「ウィステリア荘」
- 第25話「ブルース・パーティントン設計書」
- 第26話「バスカビル家の犬」
- 第27話「レディー・フランシスの失踪」